もし、お金を求められたら

出勤途中、42丁目のレキシントン街を歩いていたら、突然、アジア系の男性に「あなたは日本人ですか」と呼び止められた。70才半ばくらいの年齢に見えるこの男性を、私は以前に何度もその辺りで見かけている。

彼の話を要約すると次のようになる。

「昨夜、日本のレストランがいくつもある通りを歩いていたら、見知らぬ日本人男性に殴られ、メガネを壊された。あなたは日本人でしょう、このメガネを弁償してほしい」おそらくネイティブだと思われる英語。

なるほど、メガネのフレームにはテープが貼られ、レンズの端には小さなヒビが入っているし、壊れたメガネ側の目に黒い眼帯をしている。よく見ると、フレームに貼られたテープは古く、レンズに入ったヒビも新しいとは思えない。

「ポリスに相談した方が良いのではないでしょうか」と言うと、それまで柔らかい表情だったのに”Get lost”(とっとと消え失せろ!)と手ではらわれた。

ある日の午後、ミッドタウンを歩いていると反対方向から若い男女のカップルがこちらへ向かって歩いて来た。そして、女性の方が私に声をかけた。

「他州から遊びに来たのだけど、おサイフをなくしてしまったの。20ドルくれないかしら」

その話を信じたわけではない。でも、そのふたりは本当に疲れ切った様子だった。
私は10ドル紙幣を彼女に渡した。彼らはお礼を言い、ゆっくりと五番街の方へ歩いて行った。

地下鉄の中、小綺麗な格好をした小柄な女性、ハンカチを使い片手でポールに掴まっている。もう片方の手には空の紙コップを持ち小さな声でお金を乞う。今にも泣き出しそうで、私には何かに怯えたような顔に見えた。なんだか違和感を感じた。この人がどうして? 

電車を降りる時、紙コップに5ドル紙幣を入れた。「ありがとう」と私の目を見て小さな声で言う。電車から降りてすぐに階段を上りながら彼女の方を振り返ると、彼女もこちらを見ている。しばらく、彼女の悲しそうな顔が消えなかった。

2020年の夏、Covit-19の影響か街を歩くとお金を求められることがとても多くなった。少し前を歩く男性に、横からやってきた男性が「いくらかお金をくれませんか」と遠慮がちに話しかけた。声をかけられた男性はさっとポケットから紙幣を出して渡した。それをもらった男性は”Oh, My God!”と大声をあげその紙幣を持った手を頭上に掲げた。それは20ドル紙幣だった。”Wow! Wow!”と飛び跳ねるように喜び、何度もお礼を言って走り去った。

見ているこちらまで嬉しくなるような喜び方だった。

NYの街を歩いているといろいろな場面でお金を求められるが、どのような対応が正しいのかいまだによくわからない。

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