百貨店の宝石コーナーにて

NYに住み始めてから指輪もネックレスもブレスレットも身につけなくなった。
いちばん最初に観光で訪れた時、アメリカ人の知人に「そのネックレス、外した方がいいよ」と注意された。小さなダイヤがついた金のネックレスだった。1980年代後半のこと。

勤め先は五番街のセントパトリック大聖堂の近く、昼休みには近所にあるいくつかのデパートをぶらぶらした。

当時、あるデパートの1階に宝石のChaumet(ショーメ/フランス)があった。
他の店と区切られたそのコーナーに入ると、真ん中に鍵のかかったショーケースがあり、どこの王族が晩餐会に身につけるのかと思うほどのきらびやかなネックレスが展示されていた。まるで美術館の展示物を観賞するかのように見ていたら、店員の男性が「おつけしてみましょうか」と鍵を外し始めた。そして、私の首にかけてくれたのである。ずっしりと重い。鏡を見てもその宝石にしか目がいかない。彼は私の後ろでにっこり微笑みを浮かべている。

その頃はNYに住み始めて間もなく、しっかり化粧をして髪の毛も整え、服装にもそれなりに気を配っていた。その後、どんどん雑になっていくのだが。

それでも、まさかその宝石を買えるようには見えなかったはず。手の届かない宝石にきらきらした眼差しを向けている若い女性に夢を与えてくれたのである。

You made my day! (ハッピーな気持ちにしてれてありがとう!)
ネックレスを外してもらい、ドキドキしたままお店を後にした。

(今のところ)一生に一度の思い出である。

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