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国際公法 司法試験プレテスト第1問解説

はじめに

国際公法に必要な教材は

1条文
2基本書
3判例百選

この3つだけです。

あとはガンガン、過去問を解きまくりましょう。

法務省のHPに全過去問が載っていますので、出題趣旨と採点実感を読んで参考にしましょう。

過去問は5周回せばほぼ確実にAが取れます。

さっそく解いていきましょう。

問題文

〔第1問〕(配点:50)
以下の事例について,次の問いに答えなさい。
L県下に居住し,公立中学校に通っている女子中学生甲は,将来,画家になることを考えており,是非とも県立のA高校(男子高校)の芸術科に入学したいと考えていた。
A高校の芸術科は,数多くの著名な画家を輩出し,かつ,現在も,日本で指折りの絵画指導者が芸術科の主任教諭を務めていて,その絵画教育には定評がある。もちろん,県下には,芸術科を備えた共学又は別学の県立高校(男子高校及び女子高校)がほかにもあるが,A高校の芸術科ほど,絵画教育で評価の高いところはない。
甲は高校受験の年齢になったので,A高校芸術科に願書を提出したが,甲が女子であることを理由に願書は受理されず,甲はその措置に対して強く抗議したが聞き入れられず,そのためにA高校に入学できなかった。甲は自暴自棄となって高校入学自体も断念した。L県には男女共学制を採る高校が私立高校にも公立高校にもあったが,A高校のように特色のある伝統校は,男子高校又は女子高校のいずれかであると一般に言われていた。甲がA高校の受
験を拒否されたのも,A高校が共学又は女子高校でなかったためであり,L県がA高校を男女共学にしていればこのような事態は起こらなかった。そこで甲は,L県が芸術教育に秀でたA高校を男女別学にしていることは違法であると考え,L県に対して国家賠償を求める訴えを提起した。
訴訟では,甲は,日本国憲法等の国内法令とともに,国際法上の根拠,特に「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」関連規定を持ち出すことが予想された。
なお,関連規定のうちの一つである,女子差別撤廃条約第10条(b)号については,次のような起草経緯があった。女子差別撤廃条約を審議した国際連合総会では,「その施設が共学であるか否かにかかわらず,同一の教育課程,同一の試験,同一の水準の資格を有する教育職員並びに同一の質の学校施設及び設備を享受する平等な機会」という原案が提示されたが,国際連合総会での審議において,「その施設が共学であるか否かにかかわらず」という部分は削除された。また,同原案の「同一の教育課程,同一の試験」の部分については,「同一又は同等の水準の教育課程及び試験(the curricula and examination of the same or equivalent standard)」という文言への修正提案が出されたが採用されなかった。

〔設 問〕 被告のL県は,訴訟に備えて,女子差別撤廃条約に関する甲の主張に対する反論をX弁護士に相談した。女子差別撤廃条約に反するという甲の主張に対して考え得る,すべての反論を述べなさい。

(参照条文)女子差別撤廃条約(抜粋)
(前文略)
第一部
第一条
この条約の適用上、「女子に対する差別」とは、性に基づく区別、排除又は制限であつて、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、女子(婚姻をしているかいないかを問わない。)が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを
害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。
第二条
締約国は、女子に対するあらゆる形態の差別を非難し、女子に対する差別を撤廃する政策をすべての適当な手段により、かつ、遅滞なく追求することに合意し、及びこのため次のことを約束する。
(a) 男女の平等の原則が自国の憲法その他の適当な法令に組み入れられていない場合にはこれを定め、かつ、男女の平等の原則の実際的な実現を法律その他の適当な手段により確保すること。
(b) 女子に対するすべての差別を禁止する適当な立法その他の措置(適当な場合には制裁を含む。)をとること。


(c) 女子の権利の法的な保護を男子との平等を基礎として確立し、かつ、権限のある自国の裁判所その他の公の機関を通じて差別となるいかなる行為からも女子を効果的に保護することを確保すること。
(d) 女子に対する差別となるいかなる行為又は慣行も差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの義務に従つて行動することを確保すること。
(e) 個人、団体又は企業による女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとること。
(f) 女子に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること。
(g) 女子に対する差別となる自国のすべての刑罰規定を廃止すること。
第三条
締約国は、あらゆる分野、特に、政治的、社会的、経済的及び文化的分野において、女子に対して男子との平等を基礎として人権及び基本的自由を行使し及び享有することを保障することを目的として、女子の完全な能力開発及び向上を確保するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとる。
第四条
1 締約国が男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置をとることは、この条約に定義する差別と解してはならない。ただし、その結果としていかなる意味においても不平等な又は別個の基準を維持し続けることとなつてはならず、これらの措置は、機会及び待遇の平等の目的が達成された時に廃止されなければならない。
2 締約国が母性を保護することを目的とする特別措置(この条約に規定する措置を含む。)をとることは、差別と解してはならない。
第五条
締約国は、次の目的のためのすべての適当な措置をとる。
(a) 両性のいずれかの劣等性若しくは優越性の観念又は男女の定型化された役割に基づく偏見及び慣習その他あらゆる慣行の撤廃を実現するため、男女の社会的及び文化的な行動様式を修正すること。
(b) 家庭についての教育に、社会的機能としての母性についての適正な理解並びに子の養育及び発育における男女の共同責任についての認識を含めることを確保すること。あらゆる場合において、子の利益は最初に考慮するものとする。
第六条
(略)
第二部(略)
第三部
第十条
締約国は、教育の分野において、女子に対して男子と平等の権利を確保することを目的として、特に、男女の平等を基礎として次のことを確保することを目的として、女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとる。
(a) 農村及び都市のあらゆる種類の教育施設における職業指導、修学の機会及び資格証書の取得のための同一の条件。このような平等は、就学前教育、普通教育、技術教育、専門教育及び高等技術教育並びにあらゆる種類の職業訓練において確保されなければならない。
(b) 同一の教育課程、同一の試験、同一の水準の資格を有する教育職員並びに同一の質の学校施設及び設備を享受する機会
(c) すべての段階及びあらゆる形態の教育における男女の役割についての定型化された概念の撤廃を、この目的の達成を助長する男女共学その他の種類の教育を奨励することにより、また、特に、教材用図書及び指導計画を改訂すること並びに指導方法を調整することにより行うこと。
(d) 奨学金その他の修学援助を享受する同一の機会
(e) 継続教育計画(成人向けの及び実用的な識字計画を含む。)、特に、男女間に存在する教育上の格差をできる限り早期に減少させることを目的とした継続教育計画を利用する同一の機会
(f) 女子の中途退学率を減少させること及び早期に退学した女子のための計画を策定すること。
(g) スポーツ及び体育に積極的に参加する同一の機会
(h) 家族の健康及び福祉の確保に役立つ特定の教育的情報(家族計画に関する情報及び助言を含む。)を享受する機会
第一一条から第一四条まで(略)
第四部以下(略)

解説

下ごしらえ

全ての科目に共通する話ですが、問題を解くときはまず問いに目を通して、その後に問題文を読むようにしましょう。問いが何かわからないと、問題文の中でどこに着目すればいいのか分からなくなってしまい、効率的に問題文を読むことができません。逆に、問いが分かれば、テキパキ問題文を読むことができ、大幅な時間短縮につながります。

さっそく問いを読むと、この問題で直接聞かれていることはL県の「すべての反論」であることが分かります。そしてその「反論」は甲の「主張」に対してなされています。ということは、甲の「主張」の内容を明らかにして、それぞれの主張を弾劾する「反論」を書いていけば、立派な答案になります。たとえば甲の主張が「aかつbだからcだ」というものであれば、「1.aではない 2.bでもない 3.仮にaとbが正しくてもだからといってcにはならない」という3つの反論を書けばいいわけです。この点からも分かるように、L県の反論を書く大前提として、甲の主張を正確に理解する必要があります。

それでは、甲の主張を見ていきましょう。問いを読むと、甲の主張は「女子差別撤廃条約に反する」というものであることが分かります。しかし、これだけではよく分かりません。何が条約に反しているのか、甲は条約違反を主張してどうしたいのか、これらを問題文で読み取る必要があります。そして問題文にはきちんとこれらの疑問に対する答えが書いてあります。問題文の〇行目の記述と問いを合わせて考えると、甲の主張は「L県が芸術教育に秀でたA高校を男女別学にしていることは女子差別撤廃条約に反しているから、甲に対して国家賠償すべき」というものであると理解できます。

ここまで整理できれば、あとは主張を区切って反論を考えればいいだけです。「芸術教育に秀でたA高校を男女別学にしていること」はおそらく事実なので、そこに反論しても意味がないでしょう。そこ以外で反論できるポイントを見つけてください。1L県がA高校を男女別学にしていることは女子差別撤廃条約に反しない、2条約に反しているとしても甲は国家賠償請求できない、という2つの反論が思いついた人は筋がいいと思います。1の反論は思いついても、2を見落としてしまう人も多いのではないでしょうか。2の反論を見落としてしまう時点で、残念ながらこの問題では高い評価を得ることはできません(2の反論には国際法で重要な論点が含まれているからです。後述)。このように論点見落としは司法試験・予備試験で最もダメージが大きいです。論点を見落とさないためには、論理的に考える力も重要ですが、論点を知ることが最も重要です。今の段階では多くの皆さんはそもそも論点を知らないと思いますので、これからこのテキストを通して論点を学んでいってください。

話を戻して、反論の内容が大雑把ですが2つあることが分かりました。ちなみにここまでは国際法の知識がなくてもたどり着くことができます。ここからは、国際法の知識が必要になります。それでは反論ごとに見ていきましょう。

反論1 L県がA高校を男女別学にしていることは女子差別撤廃条約に反しない


ここでは、反論の前にもう一度甲の主張に戻って考える必要があります。甲はどのようなロジックで「男女別学は女子差別撤廃条約に反する」と主張しているのでしょうか。問題文にははっきりと書かれていないので、自分の頭を使って考える必要があります。その際、参考になるのは女子差別撤廃条約の条文です。ちなみに、ある法に違反しているかどうかを判断するときは、1その法が定めた義務の内容を確定し、2その義務違反が存在するかという2段階に分けて考えると分かりやすいです。

では、女子差別撤廃条約はどのような義務を定めているでしょうか。手あたり次第条文を読んでも意味がありませんから、男女別学(≒教育)に関係しそうなところを探しましょう。幸い、問題文に引用されている10条(b)がドンピシャで男女別学に関係しそうな条文です。読むと、締約国は、「同一の教育課程、同一の試験、同一の水準の資格を有する教育職員(以下略)を享受する機会」を確保することを目的として、女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとる(柱書)、ということが義務の内容であることが分かります。

この義務の内容を踏まえて、甲の主張を考えてみましょう。甲がA高校に入りたかったのは、「日本で指折りの絵画指導者が芸術家の主任教諭を務めていて、その絵画教育に定評がある」からです。だとすると、甲が求めているものは、「優れた教師」による教育ではないでしょうか。そして、A高校に入れないと絵画で評価の高い教師の教育を受けることができないため、この点をもって「同一の水準の資格を有する教育職員を享受する機会」(10条(b))が失われており、女子に対する差別にあたる。国はこの差別を撤廃するための適当な措置(立法など)をとる義務があるのに、その義務に反している。以上が、甲の主張です。

では、この主張に突っ込み(反論)を入れていきましょう。ここで国際法の論点が登場します。条約解釈の方法です。とは言っても、そんなに難しい話ではないので、構えずに聞いてください。条約をどう解釈すればいいかは、条約法に関するウィーン条約、通称「条約法条約」に定められています。(ちなみにウィーン条約はもう一個(外交関係)あるので、混同しないように気を付けましょう。)条約法条約31条によれば、「条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。」とあります。要は、書いてある通りに読め、ということです。なにも特別なことは言っていません。しかし、いくつかの場合に、「解釈の補足的な手段、特に条約の準備作業及び条約の締結の際の事情」に依拠することができます。いくつかの場合とは、①31条の解釈を確認する場合と、②31条によっても意味が不明確である場合と、③不合理な結果がもたらされるよう場合の3つです。この解釈の補足的な手段については32条に規定されています。条約解釈については31条と32条のこの部分さえ理解できれば大丈夫です。

それではこの条約解釈規範に沿って、本件について見ていきましょう。まず、争点は、秀でた教師が県立の共学ではなく男子校にいることが女子にとって「同一の水準の資格を有する教育職員を享受する機会」の剥奪にあたるかどうかです。まずは31条に沿って、条文に書いてある通りに考えます。「同一の水準の資格を有する」と書いてあるので、指導力にバラツキがあっても同じ資格(芸術の教員免許)さえ持っていれば女性差別に当たらないのではないか、と読めます(県内には芸術家を備えた他の県立の共学もあります)。しかし、これだけを根拠に差別に当たらないとするのは少々不安なので、32条の「解釈の補足的な手段」も参考にしましょう。今回は条約締結時の事情は問題文に挙げられていないので、「条約の準備作業」に焦点をあてて見ていきましょう。今回は①31条の解釈を確認する場合、もしくは②31条によっても意味が不明確である場合に当たるでしょう。

問題文に登場する準備作業で重要な部分は2つあります。1つ目は「その施設が共学であるか否かにかかわらず」という原案が削除されたこと、2つ目は「同等の水準」というワードを「教育課程、試験」に追加するという案が却下されたことです。1つ目から見ていきましょう。「その施設が共学であるか否かにかかわらず」をわざわざ削除したということは、「同一の教育課程、同一の試験、同一の水準の資格を有する教育職員(以下略)を享受する機会」が念頭に置いているのは、もっぱら共学である、という解釈が成り立ちます。「その施設が共学であるか否かにかかわらず」という文言をいれることによって、保障範囲を別学にまで広げようとしたものの、削除によってその試みが失敗したことにより、別学の場合にまでその権利は保証されない、ということになります。2つ目はかなり難しいです。ここを捨てても合否には影響しないと思います。2つ目で注目すべきは「水準(standard)」という言葉です。この言葉は現在の条文では「教育課程」・「試験」にはかかっていませんが「教育職員」にはかかっています。言葉の使い方として、「同一(same)」と「同一・同等の水準(equivalent standard)」を比べると、後者の方が緩いです。「同一」の方が厳しいです。つまり、「水準(standard)」という言葉を入れると、基準が甘くなる、ということです。準備段階で「教育課程」と「試験」にも「水準」という言葉を入れようとしたが却下されたということから、あえて「教育課程」と「試験」は厳しくするが、「教育職員」については甘くする、という解釈が成り立ちます。これは実質的に考えてもおかしくないことです。教育課程、つまりカリキュラムと試験は全生徒共通に行うのが通常ですし、そんなに難しい事ではありません。しかし教師については、個人差もありますし、対応できる生徒数に限界があります。ですから、教師に対して「教育課程」や「試験」と同じ基準を厳格に適用するのは酷だと言えます。だから、教師の指導力の差について男女間で差が生じても、ある程度目をつぶってくれ、というのが条約の内容だとしても何ら不自然ではありません。

以上の2つの準備作業の出来事は、いずれもL県側に有利な内容です。そして31条の文言解釈とも合致します。したがって、男女別学は女子差別撤廃条約に違反しない、ということになります。

反論2 L県がA高校を男女別学にしていることは女子差別撤廃条約に反しない

次に、2つ目の反論を検討していきましょう。甲の主張のとおり、男女別学が女子差別撤廃条約に反していたとしても、甲の請求は認められない、という反論です。では、どのような根拠で反論できるでしょうか。

前提として、日本は女子差別撤廃条約を締結しています。では、「条約を結んだとしても、立法措置がない限り国内的効力がない」という反論は可能でしょうか?言い換えると、「条約にそう書いてあるけど法律がない限り国内では影響がない」という主張が可能か、ということです。大方の予想通り、この主張は今の日本では成り立ちません。なぜなら、日本では条約を一般的に国内法として受容するという方式をとっているからです。この方式を一般的受容と言います。日本が一般的受容方式を採用している根拠は憲法98条2項です。

「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」(憲法98条2項)

一般的受容方式の対になる概念は、変型方式です。これは条約内容を国内法に変型しないと国内的効力が付与されないものです。イギリスやカナダなどは一部の条約については立法措置を必要としていて、変型方式を採用しています。

まとめると、日本は一般的受容方式を採用しているので、条約の国内的効力が問題となることはありません。しかし、司法試験・予備試験で条約の国内的効力がかかわる問題が出てきたら、必ず一般的受容について一言触れておきましょう(根拠も)。

条約の国内的効力については否定できないとしても、L県は何か反論できることはないでしょうか。条約に国内的効力があるとしても、国内法と矛盾しており、国内法が優先される、という主張も考えられます。しかし、この主張は2つの点で成り立ちません。まず、日本の憲法体制上、条約は法律に優位すると考えられているからです。その根拠は同じく憲法98条2項です。ちなみに憲法と条約の関係については、憲法優位説が一般的です。また、仮に法律が条約と同等あるいは優位だとしても、国家は「条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない」からです(条約法条約27条)。よって、この主張は成り立ちえません。

他に根拠はないでしょうか。実は一つだけ根拠があります。それは、条約の自動執行性が否定されるという主張です。自動執行性というのは、一般的受容方式をとり条約の国内的効力が認められるとしても、条約が国内においてそれ以上の措置(とくに立法)の必要なしに国内裁判所や行政府によって適用されうることを意味します。直接適用可能性と呼ぶこともあります。一般的受容なら条約は国内で適用されるんじゃなかったのか、と思った人がいてもおかしくないです。しかし、国内的効力があったとしても、条約規定の性質によっては、国内裁判で適用しえないことがあります。例えば、条約が立法活動の指針を述べたものである場合には、条約が個人の権利義務を創設したとは言えないでしょう。当然、それに対して個人が裁判を起こしても請求は認められません。

では、自動執行性があるかどうかの判断はどのように行えばいいでしょうか。この点に関しては判例があるのでこの枠組みに従いましょう(シベリア長期勾留補償請求事件 判例百選8)。

「我が国では、所定の公布手続を了した条約及び慣習国際法は、他に特段の立法措置を講ずるまでもなく、当然に国内的効力を承認しているものと解されるところ、国内的効力が認められた国際法規(条約と国際慣習法)が国内において適用可能か否かの判断基準について考えるに、条約締結国の具体的な意思如何が重要な要素となることはもとより、規定内容が明確でなければならない。」

この判例に従えば、自動執行性があるかどうかの判断基準は1条約締結国の具体的な意思と2規定内容の明確性の2つということになります。これに従って、答案では自動執行性が否定される、と書けばいいわけです。例えば、女子差別撤廃条約は国家の立法活動について規定したものであり、個人の権利義務を創設するものではないから個人が国内裁判で援用することはできない、とでも書いておけばいいでしょう。

まとめ

解説は以上になります。ちなみに出題趣旨には「地方公共団体の国際法上の位置づけ」も論点であると言っていますが、些細な論点なので無視して構いません。この問題ではまず①条約解釈と②条約の国内的効力という2大論点を見つけることが最低ラインになります。①では条約法条約を引用して判断基準(文言解釈→補足手段)が書ければ、あとは分からなくても適当に問題文の事情を使えれば問題ありません。起草の経緯をその場で正しく理解するのはかなり困難(とくに「水準」の方)だと思います。②については、国内的効力→自動執行性の流れを最低限書かないといけません。シベリア判例を引用できれば加点されます。判例を引用できなくてもいいので、自動執行性を判断する枠組みを明示する必要があります。できれば国内法援用禁止も忘れずに書きましょう。

このように、国際公法の試験問題は他科目と比べると文章が短く(この問題でも長いほう)、あてはめの重要性が低いです。とにかく、重要な論点を知っているか、ということをしつこく聞いてきます。重要論点については、くどくてもいいので「知っていますよ」ということをアピールするため、趣旨に遡って論証を書くようにしてください。


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