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EFFECTUATION at 能登半島

災害医療支援にきました

今、富山県氷見市にいます。能登半島地震の医療支援にために宿泊しているのです。

昨日の朝、『エフェクチュエーション優れた起業家が実践する5つの原則』という本を読んでいました。不確実かつ道なき道を進む起業家の思考パターンに共通する原則に関する本です。ものごとの因果関係をもとに考察をしたり、綿密な計画を立てたりする従来の優秀なやりかた(Causation)とは違うのがエフェクチュエーション(Effectuation)だそうです。

まだ読んでいる途中ですが、この本は起業に興味がなくても「新しく○○してみたいなぁ」とか「なんかやりたいなぁ」と思っている人の参考になるんじゃないかと思います。ちょっと抽象的なところもあるので、些細なことでもいいから、なにか始めたことを思い出しつつ読むのがおすすめです(職場の何人かで勉強会を企画してみたとか、業務のフォーマットを新しくしてみたとかでもいいです)。

で、朝に『エフェクチュエーション』をちょっと読んで、午後3時頃に災害派遣要請がきました。翌日(つまり今日)の夕までに被災地入りしてくださいね、みたいな連絡です。

医療資機材や食料・衛生用品を調達したり、地図や交通情報を見たり、現地の医師に地理的な肌感などを教えていただいたりして、モノと情報を集めて出発しました。

バタバタしていた状況から、いろいろと思案できるようになった道すがら、救急車をブーンと運転しているときに「災害医療も、エフェクチュエーションが大切じゃない?」と思い至りました。

災害医療も、新規事業を切り拓くように、かなり不確実で、これが正解!というものがない仕事だからです。一方、普段、医師がやっている臨床行為はCausationの色が強いです。たしかに患者さんはそれぞれ事情が違いますが、それでも、病気には一定の解明された仕組みがあったり、治療についても生理学的に正しい思考のやり方があったり、臨床試験で導かれたその時の最適解があったりします。正しいやりかただったり、最適解の知識、つまり「正解の像」「理想像」に向かって、アクションを進めていくわけですね。

災害現場で指令をもらったときに、「え‥じゃあ、つまりそれって自分、なにしたらいいんですか?」となってしまうのは、あまりよくないです。「なに」の正解の像が、その時点では存在しないことが多々あります。

「被災した○○病院の状況を調査して、ニーズを聞き取りしてきてください」と言われても、見知らぬ土地の見知らぬ病院の「誰に」「何を」「どういう風に」聞いたら最適かの「正解の像」は、その時点で存在しなくて、その代わり「ぼんやり見える正解の像らしきもの」に向かってババッと走り出し、現実にしていくイメージです。

「□□町の避難所の現状とニーズを調べてきてください」と指令されて、避難所にいったら「下垂体機能低下症の避難者が、手持ちのステロイドをついさっき飲み切ってしまった」ところだった場合、なんとかしてステロイドを工面するように走るか、指令通りニーズを調査に留めるか、というのも「正解の像らしきものに」に向かって走り出すことになります。

では今回は優れた起業家が実践するエフェクチュエーションの5つの原則を紹介しながら、災害急性期の医療についてもからめていきます。5つの原則とは以下のとおりです。

  1. Birds in handの原則(手中の鳥の原則)

  2. Affordable lossの原則(許容可能な損失の原則)

  3. Lemonadeの原則(レモネードの原則)

  4. Crazy Quiltの原則(クレイジーキルトの原則)

  5. Pilot in the planeの原則(飛行機パイロットの原則)

ちょっとかっこよすぎて直感的には分かりづらいので、一つ一つ説明していきます。

1. Birds in handの原則

手中の鳥の原則ともいいます。これはつまり手持ちのカードで勝負するという思考様式です。「正解の像」という終着点ベースで思考する(Goal-directed)のではなく、今知っていること、今できる手段ベースに思考し行動(Mean-directed)します。

起業でいえば「自分ができることの中で、多くの人を喜ばせられることはなにかな?」ということ、我々でいえば「自分ができることの中で、なるべく多く深く人の助けになることはなにかな?」ということです。

災害急性期は大混乱しており本当に必要なことの全体像を把握することは容易ではありません。また医療提供者側も、災害現場を渡り歩いた歴戦の玄人という人は少なく、しっかり訓練を受けてはいるものの平時は普通の医療人で、災害のことならお任せあれ!みたいな感じじゃない人が多数です。それでも訓練を受けていない医療人よりは、圧倒的にスキルセットがあるので、それを活かしてがんばるわけです。

上がってきた情報、自分が持っているスキル、という手持ちのカードでできることからやるということですね。

ただし災害急性期では、ニーズを表明している人よりも、ニーズの表明もできない人の方が、ニーズが大きいという点に目を光らせる必要はあります。まだ配られていないカードを想像する必要があるのですが、想像に至るのにも知識と経験が必要で、やっぱり配られたカードで勝負しているわけです。

2. Affordable lossの原則

許容可能な損失の原則ともいいます。次に「どのくらい得られるか」に拘泥するのではなく、「どれくらいの損失なら許せるか?」という観点で思考するということです。リスクさえコントロールすれば、とにかくやってみるということも許されるはずです。

これは言葉足らずになりそうであれこれ言うのは難しいところもありますが、1つ言うなれば、最大のリスクは「自分の死」です。熊本地震ではDMATが危ない目にあったと聞きました。これは譲れないですよね。

ざっくり言って、自分の死(機能的に不可逆な外傷なども包括)はUnaffordableです。それ以外(パソコンが壊れたとか、軽微な外傷を負ったとか)ならAffordable lossとして受け入れます。

3. Lemonadeの原則

レモネードの原則って、わけわからないですよね。"When life gives you lemons, make lemonade"という格言から来ているようです。酸っぱいレモンをもらったら(予期せぬこと、よくないことが降りかかったら)、レモネードにしてやろう、みたいなことです。

つまりネガティブな事象を、好転させてやろうという思考のことです。こういうしなやかな強さは、起業とか、災害とかに関わらず重要ですよね。

4. Crazy Quiltの原則

次はクレイジーキルトの原則です。クレイジーキルトというのは、いろんな大きさや色柄の布を縫い合わせて、最終的に、ひとつの綺麗なキルト作品になっていくもののようです。
これは人間関係のことをさしています。優れた起業家は、深い関係の人だけでなく、浅い関係、ときには対立する相手など、いろいろなステークホルダー(登場人物)とパートナーシップを結ぶということです。
いろーんな人とパートナーシップがあると、手持ちのカードでは到達できないようなところに行けます。偶然やシナジーが成果を大きくすると思います。
災害現場においても、日本中の医師と即席のチームで本部運営をしたり、他の職種の人(自衛隊、消防、保健師、役人、NEXCO、警察など)とパートナーシップを組みます。
以前、空港で防災訓練をした際に、航空会社の職員がチームに入ることで、自分だけでは想像もつかない視点からご意見をいただき感動したことがありました。

5. Pilot in the planeの原則

最後は、飛行機パイロットの原則です。これは、これまでの原則のさらに包括的な概念です。パイロットは飛行機を運転中に、たくさんある計測器の数値を見ながら臨機応変に飛行していますよね。この原則はパイロットのように、コントロール可能な要素に目を向け柔軟に、不測の事態にも対応しましょうということです。
コントロール可能な要素に目を向けるというが特に大切なのかなと思います。もう変えられないこと(どうしようもないこと、過去のこと)にリソースを割かないことは、できることを増やし、成果を増やし、感情を落ち着けます。

まとめ

受けいられるリスクのラインを決めたら、できることからやっていく。多くの人とパートナーシップを結びながら、コントロールできることに目を向け、失敗も利用し柔軟に。まとめるとこのような感じでしょうか。

読み終わっていない本の話を長々としてしまっているので、顔から火が出るレベルのことを偉そうに語っている可能性があります。そのときは直します。どうしても本から学んだことと、災害支援ということの結びつき、気づきを色褪せないうちに形にしたかったんです。

では、エフェクチュエーションから学んだことを活かしつつ、がんばってきます。

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