見出し画像

村田沙耶香作品の考察 まとめて6冊読んだので考察してみました♬

機会があって村田沙耶香作品を一気に6冊読んだので、各作品の考察を書いてみました。全作読んだわけではないので村田沙耶香を語るとまでは言えませんが、個性の強い作家さんなので何か書かずにはいられません。
もしかするとこれから読む作品で印象が変わるかもしれませんが、ここまでの感想と分析を自分なりに書きます。

1・村田沙耶香ってどんな作家? 一般的情報とゆっきー舎的分析

2003年に『授乳』でデビュー、群像新人文学賞野間文芸新人賞三島由紀夫賞の他、『コンビニ人間』芥川賞を受賞しています。
絶えず「普通」「ジェンダーの押し付け」などを、猟奇性暴力性を交えながら書いている作家さんです。
以上は検索すれば出てくる情報ですね。

ゆっきー舎的には、村田沙耶香は「2段階の普通」を問い続けている作家さんだと思います。
その点を次項で説明します。

2・黒沙耶香と白沙耶香:キーワードは「2段階の普通」

村田沙耶香作品では、異性との恋愛結婚就業などの「普通」からはみ出した人物を主人公に据える傾向が強く見られます。
生産性を持つことを条件とする社会に対して、それができない人への圧力が多くの作品でテーマとなっています。
さらに、村田沙耶香はもう一段階の「人間そのものの普通」を追求するために、相反するものとして暴力性猟奇性を用意します。
『コンビニ人間』の古倉恵子は「ケンカを止めて!」という叫びに応えて、ケンカしている子供をスコップで殴り倒し、素早くケンカを止めるという合理性(?)を持っています。
『地球星人』では人肉食シーンがありますが、飢えを凌ぐためという一応の理由付けがあります。
言うまでもなく、これらは社会で認められない行為です。その当たり前の逸脱を無造作に提示するところが村田沙耶香の個性と言えるでしょう。

村田沙耶香は「戦争」というキーワードを用いませんが、社会は「戦争」であれば殺人を許可しますし、むしろ効率的な大量殺人を英雄視すらします。人肉食はどんな状況でも公に許されることはありませんが、戦時下の極限状態などでは見て見ぬふりをされることがあります。
これらは非常に扱いにくいテーマだと思いますが、それをあえて日常にさりげなく挿入してしまう作風が村田沙耶香を好きになれるかどうかの分岐点になるでしょう。

ただ、全ての作品が猟奇性や暴力性を前面に出しているわけではありません。そのため、この考察では「黒沙耶香」「白沙耶香」という言葉を用意しました。

「普通」の逸脱がエスカレートして日常社会に戻れないところまで進み、ホラーとも思えるような作品を、私は「黒沙耶香」作品と呼んでいます。「黒沙耶香」の最たる例は主人公達が自己の都合や思想を優先して暴力性を発揮する『地球星人』です。『ギンイロノウタ』『消滅世界』もここに含まれているでしょう。

一方「白沙耶香」は、読者にとっての「普通」をやや逸脱しつつも法を犯さない範囲で納め、ユーモアに昇華する作品です。「白沙耶香」作品の好例は、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』『変容』などでしょう。『コンビニ人間』も法を犯すことなく「普通じゃなくてもいいじゃん!」という結論にたどり着くので「白沙耶香」作品と言えます。

「白沙耶香」作品は読みやすく人にも勧めやすいです。一方「黒沙耶香」作品は少々覚悟が必要ですが、読み応えはあります(特に『地球星人』は私はかなり胃もたれしましたから、無理には勧めません💦)。

3・「普通」を破壊するか、「普通」に追い立てられるか?

村田沙耶香作品は常に「普通」を問いかけますが、意図的に社会の「普通」を破壊し、書き換えて行く作品と、社会の「普通」に追い立てられる主人公を描く作品の2タイプに分けらます。
『消滅世界』『丸の内魔法少女ミラクリーナ』収録の『変容』などは、物語のスタート時点で、社会はすでに私たちが知る「普通」ではないのですが、そこからどんどん「普通」を書き換えて行きます。この「普通破壊」が、自分の立ち位置の喪失と強烈なめまいを味合わせてくれます。
一方、『コンビニ人間』『地球星人』では社会はあくまでも「普通」であり、そこに乗れない人がどう生きていくかが描かれます。
どちらも面白いテーマですが、個人的には「普通」を破壊してくれる作品にある種の心地よさを感じます。

4・村田沙耶香作品6冊をゆっきー舎的に比較検証♬

ここ1ヶ月でまとめて読んだ村田沙耶香作品6冊を、ゆっきー舎的に比較検討してみます。短編集も含んでいますが、基本的に刊行された一冊単位で考えています。
(まだ読んでいない作品も多いので、全制覇できたら一人ランキングでも書いてみようと思います笑)

3-1・『コンビニ人間』
ユーモアもあって、村田沙耶香作品としては読みやすいです。芥川賞も取っているので知名度が高く、読後感想会のテーマ作品にも向いています。本作については単体で記事にしているので、下記も併せて読んでいただけると嬉しいです。

『コンビニ人間』ネタバレあり感想! 4年ぶりに再読したら、すごく「社会」を問う作品だと気づいた!

画像1

画像2

3-2・『消滅世界』
読者にとっての「普通」をどんどん書き換えて行く手際が見事です。ゆっきー舎的に分類すれば黒沙耶香作品と言えますが、猟奇性やグロいシーンが少なく、硬質な近未来SF感も楽しめます。現時点で最高得点を付けたい作品です。

画像3

画像4

3-3・『地球星人』

黒沙耶香フルスイングな作品で、オススメしにくいです。正直言って読後に吐きそうでしたが、額賀澪『さよならクリームソーダ』を読んでよみがえりました( ´∀` )

この作品を人にすすめる際は勇気を必要とします。これを面白いと思うあなたの「普通」を疑うと言われる可能性極大です。

画像5

画像6

3-4・『丸の内魔法少女ミラクリーナ』

4つの短編で構成されています。
ユーモアあふれる表題作、読者の「普通」を根こそぎ刈り取る破壊力を持つ『変容』が収録されていて、読後感も良いのでおすすめしやすい一冊です。『無性教室』は「普通」じゃないけど透明感のある純愛小説で、個人的にとても好きです。

この作品を初めて読んで、村田沙耶香、楽しいじゃん♬と次の作品を読むとひどい目に合うかもしれません💦

画像7

画像8

3-5・『ギンイロノウタ』

表題作と『ひかりのあしおと』の2編で構成されています。2編とも痛々しいまでに追いつめられる女性主人公が登場し、息苦しさと生き苦しさが並行して味わえる一冊です。繊細さを作品の魅力と感じるかどうかで評価が分かれるでしょう。

画像9

画像10

3-6・『授乳』
表題作を含む3編で構成されています。ゆっきー舎的勝手な想像ですが、著者自身がどこに向かって振り切るのか、まだ迷っているのではないかと勝手に想像しています。

画像11

画像12

以上、村田沙耶香作品6冊を勝手に比較検討してみました。2021年1月現在でまだ読めていない小説作品が8冊もあるので、今後も読んで本文に書き加えるか、別途記事を立てようと思います。

村田沙耶香を読むということは、時として吐き気を催すような邪悪と戦うことになります。しかし、ついまた読んでしまう不思議な魔力も持っています。

良かったら一緒に、村田沙耶香流の普通を問う世界を探検してみませんか?
既に読んだ方からコメントをいただけると嬉しいです。

サポートありがとうございます。サポートにて得たお金はより良い記事を書くための取材費に当てさせていただきます。 また、「入管・難民関連の記事に関してのサポート」明言していただいた分は、半分は支援のための費用とさせていただきます。