「ライフロング・キンダガーデン 創造的思考のための4つの原則」ミッチェル・レズニックの思想


プログラミング教育でよく使われるScratchとは


この本はScratchの思想について語られている。
Scratchとは学校のプログラミング教育でもよく使れている、ブロックを組み合わせてプログラミングできるツールである。

Scratch3.0の画面

Scratchを提供しているMITのミッチェル・レズニックはScratchのデザインと開発を導く考え方として以下の4つを挙げている。

【創造的な学びの4つのP】
project, passion, peers, play
プロジェクト、情熱、仲間、遊び

子供たちはScratchコミュニティで
自分のプロジェクトを作り
情熱と遊び心を持って仲間と協力し、共有し、
お互いの作品を基に創造を重ねる

本に出てくる「warrior cats」で検索したプロジェクト

Scratchの思想の源流

なぜScratchは「プロジェクト、情熱、仲間、遊び」を重視しているのか。
この本ではレズニックが影響を受けたシーモア・パパートと、パパートが影響を受けたピアジェのことが語られている。

パパートは数学者、計算機科学者、発達心理学者である。
Logoというプログラミング言語と教育理念を考案した。
パパートの著書「マインドストーム」ではこう書かれている

今日多くの学校では、「コンピュータによる学習」というと、コンピュータに子供を教えさせるということを意味する。コンピュータが子供をプログラムするのに使われていると言ってもよい。私の描く世界では、子供がコンピュータをプログラムし、そうする過程で、最も進んだ強力な科学技術の産物を制御するという実感を得るとともに、科学、数学そして知性のモデルを作る学問などからくる深淵な理念と密接な関係を確立するのである。

「コンピュータが子どもをプログラムする」のではなく、
「子どもがコンピュータをプログラムする」これが大事なのである。

要は子供が主体だということだ。

流暢さについて

いま流行っているプログラミング学習と、Scratchは異なるとレズニックは言っている。

ほとんどのコーディング入門
・パズルに基づいている
・パズルを解くことで子ども達はコーディングスキルとコンピュータ科学の概念の基礎を学ぶ

Hour of Codeのアクティビティ
問題が出されそれを解くことでプログラミングの考え方を学ぶ

Scratch
・プロジェクトに焦点を当てている
・アイデアを練ることから始め、他の子供たちと共有できるプロジェクトへの変えていく

レズニックはコーディングに必要とされるのは「基本技術」と「表現力」の両方であると考えている。それが創造的な学びの4つのPにあった「Project」に焦点を当てる理由だと言う。

また流暢になる、ということが「思考を育てる」ことにつながると言う

たとえば、複雑な問題を簡単な部分に分割する方法を学習します。どのように問題を特定して、デバッグ(不具合の修正)するかを学びます。時間をかけて、デザインを繰り返し洗練し改善する方法を学びます。

学習の個別化について

学習の個別化についてはレズニックはこう言う。

私は、学習者が、どのように学ぶのか、何を学ぶのか、いつ学ぶのか、そしてどこで学ぶのかに対して、より多くの自由を獲得できるようにしたいと考えています。学習者がより多くの選択肢と自由を手にしていれば、彼ら自身の関心と情熱に沿って学ぶことができます。そうなれば、学びはより身近で、意欲をかき立てられ、意味のあるものになるのです。

その思想に基づき、Scratchのウェブサイトはこのように設計されている
・あらゆる種類のプロジェクト(ゲーム、物語、アニメーション)がサポートされていて、だれもが自分の関心や情熱にぴったりと合ったプロジェクトで作業できるようになっている
・スクラッチを始めるためのさまざまな方法を提供するための、幅広いチュートリアルが用意されている
・子ども達が自分のプロジェクトを個別化しやすいように、他のウェブサイトから画像や音声を簡単に取り込めるようにしてある
・コンピュータ上のカメラやマイクを使って、「自分自身をプロジェクトに参加させること」が簡単にできるようになっている
・使いやすいペイントエディタで、子ども達が自分のキャラクターや背景を、自分のプロジェクト用に描くことができるようになっている

こうしたメディア志向のツールにより、子ども達は外に発信する力を持ち、仲間の協力を得ながら、自分の創造力や可能性を広げていけるのだ

まとめ

レズニックに軽快な印象を持つのは、レズニックが学校外で子ども達が自由にものづくりに取り組めるクラブハウス(低所得者コミュニティの若者たちの課外学習センター)を創設したことからも分かるように、Scratchの活動を学校のカリキュラムとは別として考えているからなのだろうなと思う。
パソコンがこれだけ普及した現在であれば、Scratchの活用方法を分かっていて、あとは自宅にパソコンがあれば子どもたちは世界中の人とつながり自分の創作活動を進めていくことができる。
フランス語をフランスで学ぶように数学やコンピュータの言葉を学ぶべきという壮大な考えは、Scratchの世界にしっかり埋め込まれていて、大きな声でそれと言わなくてもすむくらいになっている。
もし仮にどのような形であれ、子ども達が小学校や中学校でScratchを学び、Scratchの思想に触れたとしたら。ゲームやアニメのコンテンツを消費する側の子ども達が、小さい頃からメディアを用いて自分の世界を表現するようになったら、また世の中の流れが一気に加速するだろう。
ここ1、2年のプログラミング学習の中でも、プログラミングの授業を心待ちにしている子どもがいると聞いた。そんな理由で学校に来るのが楽しみな子が増えたらそれだけでうれしい。



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