「資金決済法等改正法 暗号資産交換業者規制の見直し」を読みました
大和総研さんがまとめてくださったこちらのレポートを読んだので、所感をまとめておきます。
免責事項:この記事はあくまで個人的な所感であり、筆者の属するあるいは過去に属したいかなる組織の意見を代表するものではありません。また、筆者が想像で書いている部分もありますのでその点ご承知おきください。
先日可決した資金決済法の改正に関するものです。
基本的には証券向け、あるいはデリバティブ取引向けに既に整備されている法律を暗号資産、暗号資産デリバティブにも適用していこうというもので、全般的に大きなサプライズがあるような内容ではないかなと思います。そのため、この記事では個人的に気になったポイントだけピックアップしていきます。
一点目は、顧客資産の保全(分別管理の強化など)の内容の中で、「a. 顧客資産のうち、金銭は、自己の金銭と分別して管理し、信託しなければならない。」とあります。金銭とあるのでこれは暗号資産ではなくいわゆる法定通貨(Fiat Currency)で円やドルを指していると思います。暗号資産を買うためにはまずそれに見合う法定通貨を取引所に送金してトレードを始めると思います。その法定通貨に関して、取引所は自己の金銭と分別して管理し、信託せよということですが、読んで字の如く受け取ると、信託銀行の信託口にこれを置かなければならないように読めます。私は現在はオペレーション周りは関わっていないので、各取引所がどういう口座構成でどのような管理が行われているかなどは詳しくはないのですが、現状、信託までしていなかった場合は、
これまで:顧客の銀行口座 → 取引所の銀行口座
これから:顧客の銀行口座 → 取引所の銀行口座 → 信託銀行の信託口
となるので、取引所から向こう側の事務手続きが増えることになると思います。取引所を利用する顧客側においては追加の事務などはおそらくないのではないかと思いますが、取引所の事務が増えますので、顧客目線で気になる点としては出金周りの事務にどれぐらいの時間を要するかという点について影響があるのかどうかというところでしょうか。
あと、余談ですが、「改正法では、顧客の暗号資産の流出事案や暗号資産交換業者の倒産リスクなどを踏まえて、暗号資産交換業者による顧客資産の分別管理を強化することとしている。」とありますが、私が前職が関わった店頭デリバティブ取引に係るマージン規制の中でも、当初証拠金と呼ばれる担保について倒産リスクを避けるためにカストディアン/信託銀行に預けよとなっており、似たような話をしたのですが、預けた先のカストディアンや信託銀行が倒産したらどうなるのかとかその辺もかなり議論をしました。私は法律の専門家ではないので詳述はしませんが、法律の立て付け的に金銭は証券と異なっており、本当の意味で倒産リスクから完全に隔離して分別を行うには制度面・実務面などそれなりの困難が伴うような内容だった記憶があります。その結果、当初証拠金に金銭使うのはやめよう、という感じで当事者同士で利用する担保物を定義できるのでそこで握るような感じでした。
二点目は、「暗号資産そのものについては、改正法の下でも、原則、資金決済法が規制対象としている。にもかかわらず、暗号資産の売買等に関する取引規制は、資金決済法ではなく、金融商品取引法が定めている」という点で、レポート本文にもある通り、金商法の守備範囲を柔軟に拡大する試みであるという点が評価されているようです。これは個人的には良いことかなと思っていまして、昨今のFinTechの進化により、法律が時代に追いつかなくなってしまうことが多々あるのですが、立法コストを最小限にしつつ、効果をあげられるという点において非常に良い試みだと思います。
三点目はみなし業者に関する部分で、ひとことで言うと、この法律が施行されたらみなし業者は早ければ半年、遅くとも1年半以内に登録業者にならなければ業として取引所を運営することはできなくなるようです。半年以内に登録の申請をあげて、金融庁側で審査している期間中は業務継続が許されるようですが、それも最大1年ということのようです。
また、みなし業者は法律施行後に新規顧客の獲得はできなくなり、施行時点における既存の顧客に関する取引業務を行うことのみ認められているようです(取引通貨の拡充も認められていない)。このタイミングで一気に整理される流れになりそうです。