くらげ
借りた傘を返す不器用さが、彼女にまだあった頃。
見に行った海の色を、鮮明に覚えている。
月の欠けた夜の海を、冷たく乾いた砂の上。
並んで見ていた。
今はまだ、思って見た横顔が遠くを見ていた。
視線の先を知れないままに、夜が暗く、深く。
僕の夢が醒めるほど、暗く、深く。
詰まる言葉も、縋る想いも、今はただ。
隠しておける場所を、心とか呼ぶ。
その場所をやっと、見つけてしまった。
くらげ
雪屋双喜
2024.10.6
言いたいことを伝えたくなくて。
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