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雪 ラジオ投稿ネタ #シンカの学校

身体の芯に寒さが染み入る夜。
私は寒さから逃れるため、布団を肩まで被り、隣りにいる娘のゆずに、絵本の読み聞かせをしていた。

「そらをみあげると、『ゆき』がふってきました」

絵本の一文を読み上げたとき、ゆずは不思議そうな顔をして、私の顔を見てこう言った。

「ねぇ?かーちゃん?『ゆき』ってなぁに?」

あ…、そうか。
冬で寒いとはいえ、この土地では、1年を通して『雪』が降らない。

「『雪』っていうのはね…。うーん。そうねぇ…、かき氷みたいなふわふわの氷が、雨みたいにお空から降ってくることを言うの」

ゆずに合わせた説明をすると、キラキラした目でゆずは私にこう言った。

「えっ!?かき氷がお空から降ってくるの!?」

あ…、かき氷が真っ先にインプットされてる…。
おそらく、ゆずの頭の中では、いちごシロップのかき氷が空から降ってきていることだろう。

そう思い、私は枕元のスマホで、雪景色の動画を検索し、ゆずに見せてあげた。
スマホの中には、真っ白に染まった街に、しんしんと雪が舞い踊る風景が映し出されている。

あ…、寝る前にスマホを見せてしまった…。
寝かしつけのための読み聞かせだったのに…。

案の定、ゆずはスマホに映し出された景色に釘付けになっていた。

「すごーい…。キラキラしてる…」

これを期に、ゆずは『雪』にのめり込んでいった。

雪だるまに雪うさぎ。ゆずが選ぶものは、全て雪が関連したもの。
これに加えて、暇さえあれば、私のスマホで雪景色の動画を見漁っていた。

ある日の夕飯のとき、私はそんなゆずの実情を夫に話してみた。

「雪、かぁ…。本物を見せてやりたいけどなぁ…」

お世辞にもウチは、裕福な家庭というわけではない。
しかも、ここは遠出を考えると、飛行機を使わざる終えない。

「だからよー…。」

思わず諦めに似た言葉が、私の口から溢れた。

二人の間に、なんとなく気まずい沈黙が流れる。

こういうときはだいたい、ゆずが騒いでる声が聞こえるんだけど…。

今日は、やけに静か…。
…嫌な予感がする…。

私は、咄嗟にゆずを探した。

…いない…。
…ヤバい…!

私は、ゆずがいるであろう部屋の襖を、勢いよく開けた。

「あっ!かーちゃん!見て見て!雪〜♪」

そんな言葉と共に我が娘は、手に握った何かを空中に撒き散らした。
暖房で温まった部屋に、白い何かが舞い踊る。

ゆずの足元には、発泡スチロールのカスと白い紙の山が降り積もっていた。

「ん…?どうしたー?」

夫が呑気な声を出しながら、部屋の惨状を見に来た。

…絶句。

あ…、『言葉を失う』って、こういう事を言うんだ…。

そんなことを思っていたら、いつのまにか、夫は娘の隣に移動していた。

「よーし!吹雪だぁー!」

夫は両手いっばいに『雪』を拾い上げ、その『雪』を部屋いっぱいに撒き散らした。

寒い冬に、暖房で温めた部屋で雪にまみれ、はしゃぎ倒してる二人。

…『雪』ってそうだよね。
キラキラ楽しいものだよね。

でも、大人になって思うんだ。
やっぱり、『雪』って面倒だなって。

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