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交換手のお仕事 #毎週ショートショートnote (お題:桜回線)

最近は温かいが多くなってきたと感じた頃。
私達の職場は繁忙期を迎えていた。

ひっきりなしに鳴る呼び出し音。
あちこちから聞こえてくる『ガチャン』という音。

例に漏れず、私も忙しく手と口を動かしていた。

ージリリリリリーン!ー

私の前で、けたたましく鳴る呼び出し音。
反射的に受話器を手に取り、定型文が私の口から流れ出た。

「もしもし?こちら、東京交換局です」

「もしもし?鹿児島の吉野さんに繋いでくださる?」

私はお客様の要望通りに、鹿児島の交換局へ繋いだ。

『ガチャン』という盛大な音と共に、受話器から呼び出し音が鳴り響いた。

「もしもし?こちら鹿児島交換局です」

受話器から聞こえてくる交換手の声で回線の接続を確認した私は、次の接続先を告げた。
しばらくすると、吉野さんの声が受話器から聞こえてくる。

「もしもし?こちら吉野です」

無事、回線接続が完了したようだ。
ここからは、回線開放のため、二人の会話を黙って聞くことになる。

「そちらはどう?そろそろ、花開いたんじゃない?」

「今年はまだなのよ…。思ったよりも気温が上がらなくてね」

「あら?今年は暖冬と言ってたのにね?」

「そうね。でも、そろそろ開きそうよ」

「あら?じゃあ、同じぐらいに開きそうね」

「あら?そう?しかし、あなたも元気そうで良かったわ」

「こちらも元気な声が聞こえて嬉しいわ」

「また、近いうちに連絡するわね」

「ありがとう。またね」

ーガチャンー

受話器を置いた音をキッカケに、私は回線を開放した。

そうか。
こっちもあっちも明後日あたりに開花かな?
もうすぐ、春本番かぁ。

そう思いながら私は、次の回線接続の準備に入った。


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