遠足 #シンカの学校 ラジオ投稿ネタ

良く晴れた青空。
僕らは、先頭を歩く先生の後を一生懸命に追っていた。

ふと横を見ると、広大な原っぱの滑り台が広がっていて、その奥には、ところどころに白波が立っている真っ青な海が広がっている。

「お腹すいたねぇー」

隣を歩いているサクラちゃんから、誰に話しかけるでもない言葉が漏れた。

「だからよー。お腹空いたー」

その声に反応するように、僕の後ろを歩いているサトシくんが反応する。

「もうすぐお弁当の場所に着く時間みたいだよー」

周りの景色に目もくれず、遠足のしおりとにらめっこをしている、ハルカちゃんが答えた。

『ぶぉっ』と、強めの風が吹く。

その風を合図に、先生は足を止めた。

「はーい!ここでお昼にしますねー。班ごとに集まってシートを敷いてくださいねー」

「「「はーい」」」

僕らは先生の声に返事をしつつ、お弁当を食べる場所を探しはじめた。

しばらくして、僕らの班は大きな木の近くにシートを広げることにした。
この場所を選んだのは、サクラちゃん。
理由は『涼しいから』だそうだ。

僕は、背負ったリュックからビニールシートを取り出し、お弁当を探した。

…あれっ?
…無いっ!?

僕は慌てて、リュックの中身をひっくり返した。

無いっ!?
…無いっ!?

いくら中身を出しても、お弁当は見つからない。

えっ!?
うそだっ!?
昨日の夜に全部リュックに入れたはず!!
あとは、最後にお弁当を入れば…。

そして、僕は今朝の行動を思い出した。

今朝、僕は寝坊した。
バタバタと準備をし、朝ご飯も食べずに家を出た。
捨て台詞のように「なんで起こしてくれなかったんだよ!!」と、かーちゃんに文句を言いながら。

この間、僕はリュックを開いた記憶がない。

…忘れた…。

僕の全身から血の気が引いていく。

「どーした?飯にしようぜ!」

遠退いていく僕の意識を繋ぎ止めるように、声をかけてくれたのは、サトシくん。

「…お弁当…忘れた…」

僕は、絞り出すように声を出した。

「「「えぇーっ!?」」」

昼食の準備を進めていた3人の声が、一斉に木霊する。

「…どうしよう…」

いろんなものを堪えながら僕が絞り出した言葉に対して、いち早く反応したのはサトシくんだった。

「しゃーねーな…。少しだけだぞ」

サトシくんは、弁当箱の蓋に一口分のご飯と唐揚げ、プチトマトを乗っけて、僕に差し出してくれた。

それを見たサクラちゃんは

「じゃあ、サクラも!」

と言って、ご飯と共に肉巻きアスパラガスを2本乗っけ、続くようにハルカちゃんも、無言でご飯と卵焼きを乗せてくれた。

僕の眼の前には彩り豊かな…、でも、少しだけ物足りないお弁当が出来上がっている。

「…いいの…?」

そんな僕の言葉に、3人は無言で頷く。

僕はサトシくんの手から『お弁当』を受け取った。

「よーし!飯にしようぜ!」

そんな言葉とともに、ドカッと座り込むサトシくん。

僕も慌てて座ろうとすると

「ちょっと待って!」

と、サクラちゃん。

眼の前では、僕が何処かに投げ捨てたシートを、ハルカちゃんが敷いてくれていた。

「…ありがとう」

気付けば、僕の口からはそんな言葉が漏れていた。
どこか少しだけ居心地の悪い気持ちのまま、僕はシートの上に座る。

「いただきまーす!」

そんな声とともに、サトシくんは弁当に食らいついた。

僕も『お弁当』に手を付けようとして、とあることに気がつく。

…お箸…。

そう思いつつ、パッと横を見たら割り箸が置いてあった。

…きっと、ハルカちゃんだろう。

僕は、横に落ちていた割り箸を有り難く頂戴して『お弁当』に手を付けた。

最初は唐揚げ。
サクッとした食感と同時に口いっぱいに広がる豊かな風味。

視線を感じて顔を上げたら、サトシくんが自慢げにこちらを見ていた。

次はアスパラ。
僕がアスパラに箸をつけた瞬間

「それね!サクラが一番好きなヤツなの!」

と、自慢げなサクラちゃん。

そのまま口に運ぶと、シャキッとした食感と甘辛い脂が口いっぱいに広がった。

次は僕の大好物の卵焼き。
一切れしかないから、いつものときより小さめに一口。

…えっ!?
しょっぱい!?

予想外の味にビックリして固まっていると

「美味しく…なかった…?」

不安げなハルカちゃんの声が聞こえてきた。

その声に慌てて、口の中身を飲み込もうと咀嚼を繰り返した瞬間、しょっぱさの奥から鼻を抜けるいい香りが…。

あれ…?
これはこれで…。

そう思いつつ、僕はもう一口、卵焼きを口に入れようとしたとき、ハルカちゃんが

「大根おろし…。お弁当には入れられないからさー…」

と、呟いた。

僕はそのまま、卵焼きをもう一口。

ふわりとした食感と、しょっぱさの奥にある少しの甘みと口いっぱいに広がるいい香り。

「美味しい…」

自然と僕はそう呟いていた。

ハルカちゃんは、ホッと安堵したような、どこかはにかんだ様な表情を浮かべていた。

でも、一番美味しかったのは、そんな思い出話をしながら食べたかーちゃんの弁当だった。

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