年越し ラジオ投稿ネタ #シンカの学校

窓からの冷気が身体に染みる夜。
俺は、デスクライトの明かりを灯しながら、勉強机に向かっていた。

コンコン!ガチャ!

ノックに対しての返事を待たずに、部屋の扉が開く。

「あんた。今日と明日ぐらいは、勉強お休みしてもいいんじゃない?」

かーちゃんだった。

「いや…。不安だから…」

俺は、問題集から顔を上げずに答えた。

「…そう?…あとで、年越しそば持ってくるね」

少し淋しげな声と共に、扉が閉まる音が聞こえた。

センター試験まで、あと2週間。
今年と同じ轍は踏みたくない。

というより、約束。
…では、ないか。
俺の勝手な思い込み。

幼稚園から高校まで一緒にいた、幼馴染の女の子の言葉。

『そーだね…。大学まで同じだったら、ずっと一緒にいるんだろうなって』

いつ、どんな状況で言われたのか…。
もう、覚えてはいないけれど。

ずっと、一緒にいたい。

そう言われたとき、強く、そう思ったことをいまでも覚えてる。

にも関わらず、俺は落ちた。

何度探しても見つからない、俺の受験番号。
隣には、合格を喜んでいる幼馴染。

「…おめでとう」

俺は精一杯の笑顔を作って、そう呟いた。

そこから先の記憶はない。

気付けば、自分の部屋のベッドで泣いていた。

その日以降、なんとなく幼馴染の顔が見られなくなった。

家が近いってことが、こんなにも疎ましいんだって、初めて思った。

どんなに顔を合わせたくないと思っても、姿すら見たくないと思っても、普通に生活していれば、顔を合わせなきゃならない。

日々、綺麗になっていく幼馴染。

いつもなら、隣りにいれたのに…。

置いていかれている気がした。

だから、すごく悩んだ。

一年遅れでも同じ場所に行くか。
それとも、違う道を進むのか。

諦めきれなかった。
一緒にいたかった。

だから、情けないとは思いつつも、俺は両親にワガママを言った。

「今年だけ…。今年だけでいい!もう一度、挑戦させて下さい」

二人共、理由も聞かずに

「…好きにしたらいいさ」

と言ってくれた。

ワガママの手前…。
ってのもある。

でも、それより、『もしかしたら?』って思う。

いや…、言い訳だな…。

見るからに大人になった幼馴染。

あのときの言葉なんて、覚えていないだろう。

でも、少しでも足掻きたい。
少しでも近くにいたい。
諦めたくない。

そんな思いで、一年勉強してきた。

「今回こそは…」

思わず、口から言葉がこぼれてしまっていた。

パンッ!

俺は、両頬を叩き、気合いを入れ直して、問題集に取り掛かり直した。

ライン♪

スマホから通知音がした。

『初詣行くよ!』

スマホをチラッとみると、メッセージの送り主は幼馴染だった。

『この時期だし、流石に勉強しないと…』

俺は咄嗟に、そう返信した。
直後、俺のメッセージなんて読んでいないだろうタイミングで返信が来た。

『しらない!初詣行こう!』

えぇ…!?
『しらない』って…?
受験生にとっては、めちゃくちゃ大事な時期なんですが…。

そんな思いを返信しようと思っていたら、幼馴染から追加のメッセージが来た。

『もう、下にいる』

へ?
下にいる?
なんで?

そう思いながら、着のみ着のままダウンを引っ掛けて、俺は幼馴染のもとへ向かった。

ガチャリ!

玄関の先には、祈るような顔でスマホを睨んでいる幼馴染が立っていた。

声をかけようとした瞬間、彼女がスマホからゆっくりと顔を上げる。

俺を見るなり、彼女の目はいつも以上に大きくなり、その後、いつも以上に細くなった。

「まったく…!どんだけ待たせるつもりなの!?」

そんなセリフとともに、俺は彼女に手を引っ張られなかがら、初詣へと向かった。

そのとき、一瞬だけ見えた彼女の横顔は、寒さで頬が赤くなっていた気がした。

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