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良くも悪くも慣れる日がくる〜そんな道を通って行った日のこと〜

“あの蒼ざめた海の彼方で
今まさに誰かが 痛んでいる”


この歌詞は、
いつもダイレクトに心に刺さる。



『痛んでいる誰かを思って
いつもどこかで心を痛めている1人は、
間違いなく私です』

今は素直に思えるし、
そんな私だからええねん
って自分で言える。



ついに生まれて初めて、
福島県沿岸部に行ってきた。




私が住む県北エリアの伊達市から、
川俣町、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町。


このエリアは、
福島では相双(そうそう)地区と呼ばれている。

話には聞いていたが、上陸したのは初めて。


大熊町には、
あの有名な原発がある。


『海沿いを走ると、もろに原発を目にする』


何となくそんな思いがあったので、
あえて
山を越えていくルート(1番近い)を選んだ私。


隣町の川俣町で、唯一帰還困難区域に指定されていた(今は解除されている)山木屋地区に
度々出向いて、優しい人たちや広大な畑に
毎度楽しい思いをさせてもらっている私。


知っている場所(山木屋)の先に進めば、
そのうち海にでる!!

そんな気持ちで、
Googleさんに全てお任せしたルート。



いつもの見慣れた山木屋の風景。
何だか心が和む。

目の前にずっと警察がいること(1車線のみ)と、
片側交互通行(やたら道路が崩れていて工事中)で待たされる以外は、全て順調!




でもこの写真の先で、
一気に景色が変わった。


ついさっきまで、
家の横の畑で
野菜の世話をしていたばあちゃんがいたのに
突然、




No entry!
No entry!!!

帰還困難区域につき、
長時間駐停車禁止!!

caution!!!
caution!!!!!

この先“帰還困難区域”(高線量区域を含む)


黄色い不気味な看板が路肩に続く。



え?!
ここ、通ったらあかんとこやったんちゃう?
何これ?大丈夫なん??!!


心拍が一気に早まる。
脳味噌に一気に血が集まる気がする。
私の苦手な動悸が近づく。


でも、
私の前の車はパトカー。
後ろからも二台続けて走っている。
対向車も次々に来る。


この道、通ってもええ道なんやわ。
他の車もおるわ。
だから大丈夫や。心配ない。

繰り返し、自分に言い聞かせる。



さっきまで畑にばあちゃんがいた景色が、
突如、うっそうとした森に変わる。

人が住んでいたであろう家々が建物が、
深い森に飲み込まれている。



ニュースで度々見たそれが
まさに目の前に広がっていた。

猿の親子が
ガードレールに座って
静かにこちらを見ている。
森の主はもう、人じゃない。
それだけは、伝わる。



後から
よく知る人に話を聞くと、

道は除染されているから体には害はないよ。
でも、精神的にすごくしんどい道なのは間違いないよね。
』って。

ここはしんどい道...
自分の思いに共感してもらえたことに
何よりホッとした。

車を走らせると、
次々とよく聞く町の名前が現れる。


大熊町の町境にある、
可愛い黒熊の親子のイラスト看板が
めちゃくちゃ心に響いて痛い。


車道には、
相変わらず不気味な看板が続く。
側道への入り口には
全て柵がつけてあり、

『この先“帰還困難区域”(高線量区域を含む)』
と書いてある。



そして、帰還困難区域への広い入り口には、
だいたい警備員のおじさんが立っている。


おじさんは外気に触れてても大丈夫なの?
おじさん、ずっとここにおるん?


よく分からない。。
なんだかもう、全てがよく分からない。
混乱、カオス、しんどさ、不安、恐怖
...

その全てが集められたような道路。
私はひたすら自分のハンドルにだけ集中して
一度も止まらずにそこを通過した。


いくつもあった信号は、
どれもこれも
黄色に点滅し続けていた。


警告。
ここを出ろ。
人は近づくな。
早く立ち去れ。


背中の向こうにおぞましく不気味な何かがいて、ひたすら追いかけてくる。
そんな得体の知れない何か。
ついついアクセルを強く踏んでしまう私。



車の中は、
子供らが近頃ハマっている
ディズニーの音楽が爆音でかかっていた。

子供らに負けじと
私も大声で
やたら陽気なスティッチの歌、リトルマーメイド、ラプンツェル、メリーポピンズ...

歌う歌う。。

『窓だけは開けんといてな!
クーラー入れてるから!』

子供たちにそれだけは言っておく。

ここで突然外気が入ってきたら、
私たち、どうなるか分からない...
そんな気持ちだけがした。

(道は除染されてるから、
山の中に迷い込んだりしない限りは
心配ないって後で教えてもらったけど)


楢葉町に入ると、
一気に空が青くなった。


キレイに整備された道や新しい建物。
私たちが普段よく見る風景に変わり、
人がいて、
コンビニや商店があり、
当たり前のように信号で車が停車していた。


ホッとして、私はようやく窓を開けた。


ここにいる人たちに会いたいから、
私はここまで来たんだわ。


(どんな人たちに会いたかったのかは、
また改めて書きます。)

帰り道は、海沿いの道を帰った。

私が思っていた道とは違って
原発は見えなかったし、
今まで耳にすることの多かった南相馬市に
初めて足を踏み入れることができた。

途中までは、
『この先“帰還困難区域”(高線量区域を含む)』の看板と、警備員のおじさんが箇所箇所に存在する。


広いバイパス沿いには、
主である人間たちが去った後の
多くの商店の残骸。
コンビニ、ホームセンタ、パチンコ屋、結婚式場、飲食店...


2時間半ほどかかってようやく帰宅。


ほんまに大きく気持ちが動いた一日やった。


良くも悪くも、慣れる
そこに生きる素敵な人たちが
語っていたこと。


人々が、
その土地でまた前を向いて生きていくには、
希望を持つより他、ないのかもしれない。


それが何より
人間らしい生き方なんやと感じた。
歴史の中でも人間は
そうやって生き続けてきたのかも...

ふとそう感じた。


この話はまた書きます。


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