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自分だけの桃

子どもが生まれてから、旅行に行くときの電車や飛行機で窓際に座れなくなった。子どもが生まれる前はいつも私が窓際だったのに、子どもが生まれたら、窓際は子どもの特等席。

いつのまにか子ども優先

桃が大好きだ。大好きだけど、ちょっと高いから、桃を買うときは4個入りなどの安い桃を買うことが多い。1個売りや2個売りのちょっと良そうな桃にはなかなか手が出せない。4人家族で私1人で1個売りの桃を買うのは気が引ける…。

桃に限らず、子どもを生んでからの私は、いつもちょっと遠慮がちな生活をしていたように思う。大きい桃と小さい桃があったら子どもに大きな方を。お肉でもお菓子でも、何も考えずに子どもたちに美味しそうな部分、大きな方を渡し、最後に1つ余れば、子どもたちがじゃんけんで取り合う。

そのことに不満があるわけでも、無理をしているわけでもない。ただ、気づいたら窓際に座れなくなったように、気づいたら、食べ物も子どもや夫に譲ることが多くなっただけ。

桃を手に取り

義父母から大きな桃やぶどう、ゼリーが宅急便で届いた。孫たちに食べさせたくて送ってくれたのだろうけれど、あいにく子どもたちは1週間、家にいない。果物以外ならとっておけるけれど、1週間は難しいので、ゼリーを残して、夫婦で食べることになった。

丸ごとの桃。自分だけの桃。それだけで胸が躍る。
誰にも気兼ねなく、私は桃を食べる。ただそれだけのことなのに、神聖な儀式に挑むような気持ちで桃を手に取った。桃を口いっぱいに頬張りながら、味わいながら、こんなことで私は、私に戻れちゃうんだなと思う。

自分に戻る

毎年恒例のキャンプ。いつもの数家族といつもの場所で、お互いの子どもの成長を見合えるのが嬉しいキャンプ。

キャンプ場に着いた翌朝、友達の子が焚き火のところにやって来て、「あーやっと私に戻ってきたー」と言った。街での暮らしや学校生活では窮屈なことも多そうな自然が大好きな子。こうして、自分の好きな場所に戻ってきて、それを実感できるのが素敵だ。

忘れないでおこうと思う。大きな桃を手に取って、「あー、私は桃が大好きなんだな」と思いながら、愛おしそうに桃を眺めて、桃の香りをかいだ私。そして思い切りかぶりついた、自分だけのために食べた桃のことを。


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