【声劇フリー台本】空からの音

皮肉ったり陰鬱ったりする一人用台本です。
ご利用の際は利用規則をご一読ください。


【利用規則】


◆この台本の著作権は全て影都千虎に帰属しています。

 商用・非商用問わずご利用いただけます。
 ご自由にお使いください。

 利用時のご連絡は任意ですが、ご連絡をいただけますと大変励みになりますし、喜んで影都千虎が拝聴致します。

 音声作品には以下を明記するようお願いいたします。
・作者名:影都千虎
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(@yukitora01)

 配信でのご利用も可能です。
 配信で利用される際には、上記二点は口頭で問題ございません。

 また、配信で利用される場合、台本を画面上に映していただいて構いません。

 台本のアレンジは自由ですが、台本の意味合いが大きく変わるような改変(大幅にカットするなど)は不可とします。
 便宜上、一人称・二人称を設定しておりますが、いずれも変更していただいて問題ございません。


◆無断転載、改変による転載、自作発言は絶対におやめください。


【台本】


 とてつもない光景だ。
 人々が一箇所に集まって、空から降る音を聞いてはむせび泣いている。

 ある者は手を合わせて感謝し。
 ある者は狂ったように踊り出し。
 ある者は音について語り出し。
 ある者は自分だけがその音を手に入れようと空に手を伸ばしている。


 ああ、なんてことだ。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 そんな様を側から見ていると、彼らの異様性が一層際立つ。
 異様で、異質で、おぞましい。
 どれもこれも狂っている。
 どれもこれも気味が悪い。
 どれもこれも気持ち悪い。

 もはや人ではなく、化け物のようだ。
 勝手に狂って、勝手に盲信する、憐れで醜い化け物。

 こうはなりたくない。
 こうなってしまったらお仕舞いだ。

 そんなことすら思う。


……けれど、どうだろう。
 自分も本質的には彼らと同じ様なものだ。
 今はたまたま彼らの中にいないだけで、かつての自分もこうだったのではないか。
 とんだ醜態を晒していたのではないか。
 おぞましい姿の化け物は自分なのではないか。


 だとしたら。
 だとしたら。


 盲信的な姿は空から降る音をおとしめるかもしれない。
 狂信的な姿は空から降る音を穢すかもしれない。
 空から音を降らせる正体ものは何を思うだろう。

 遥か上空からすれば、自分など砂のほんの一粒でしかない。
 砂の一粒が何かを喚いたところで、という話ではある。

 それでも、せめて自分は醜い泥では在りたくないと思ってしまった。
 どんなに足掻いたところで同じだとしても、同じになりたくないと浅ましくも思ってしまった。


 あの音が欲しいと強請ねだる姿が。
 この音が良いとよろこぶ姿が。
 もっと音を増やしてくれとせがむ姿が。

 見れば見るほどに嫌悪感を募らせる。
 こんなものを見るためにあの音を聴いていたわけではないのに。
 日に日に嫌悪が膨れ上がって、自分の首を絞めていく様だ。
 これはきっと、同族嫌悪に近い。


 こんな言葉を吐けば、怒り出した彼らによって自分は殺されるだろうか。
 無数の矢で、刃で、銃で、全身を貫かれ刻まれ砕かれ、そうして無惨な姿で死んでいくのだろうか。

……いいや、きっとそうではない。
 どうせ、彼らは空からの音に夢中で、他の言葉など聞き入れるわけもない。
 ずっとそうだった。
 今までがそうなのだから、これからもそうなのだろう。

 だからこそ、余計に彼らは加速していくのだろう。
 閉鎖的な思考で、停止した思考で、欲望だけを追い求める。

 もし、自分もそのような化け物に成ってしまったら。
 もし、自分がまた化け物に成り果ててしまったら。

……ああ、とてつもない光景だ。
 これが異様と思える内に。
 これが異質と思える内に。
 今の内に、この首を切り落としてしまおうか。
 そうしたら、今抱える不安も嫌悪も恐怖も、何もかもが解決する。

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