トポロジーについて(イメージ)

トポロジーは数学の一分野であるが、物理学でも重要な概念である。ここでは実験物理学の一研究者の視点からトポロジーのイメージを説明したい。

Wikipediaの説明によると、トポロジーは「何らかの形を連続変形(伸ばしたり曲げたりすることはするが切ったり貼ったりはしないこと)しても保たれる性質」に焦点を当てたものである。

平たく言えば、丸と三角が同じであるとか、立方体と球が同じだとか、形のディテールを気にせず同一視しようという思考形態である。よく言われる例は、コーヒーカップからドーナッツへの連続変形が可能であることである。下図のように、穴の数が同じだから変形可能である。一方、穴のない「あんドーナッツ」へは変形が不可能であり、違うトポロジーの性質を有する。

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           図1:Wikipedia「位相幾何学」より


このような図形の変形をしたときに「保たれる性質」とは何だろうか。穴の数、というのが模範解答であり非常に視覚的にわかりやすいわけだが、もっと隠れている「保たれる性質」もある。以下の説明は、都築卓司先生の『トポロジー入門』によればトポロジーでない幾何学の範疇にあるそうだが、非専門家向けの説明(あくまでイメージ)ということで許して頂きたい。

簡単のため、「丸を三角に変形しても保たれる性質」として、丸(円)の外側に半径差1 [cm]の同心円を描き、2つの丸の円周差を考える。円周差はいくつになるだろうか。以下の図をよく見たらわかるように、円周が2π×半径で表せることに注目すると、2つの円周の差は2π [cm]であることがわかる。

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        図2:赤い円の外側に青い円(半径差1cm)を描く

では三角に変形したときに、同じように三角の1[cm]外側に図形を描いたとしよう。このとき、2つの図形の全辺の長さの差はいくらだろうか。以下の図をよく見ると、その差は角の部分の差に由来しており、全部を勘定すると半径1[cm]の円周に相当し、やはり2π [cm]となることがわかる。

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       図3:赤い三角の外側に青い三角を1cm離して描く

以上は丸と三角の2つの例だが、実は、途中でへこんでいるような変な図形(下図参照)を考えても、「2つの図形の全周の長さの差」は必ず2πとなる。すなわち、連続変形で保たれる性質になっている。先ほど言ったようにこのような「長さ」という概念は真のトポロジーには入る余地のない概念(トポロジーでない幾何学の概念)だそうだが、図形の変形の中に不変に保たれる性質が「よく考えると隠れている」ことを実感するには良い例のように思う。

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      図4:変な形の図形。外側に青い図形は難しくて描けず。。

このように変形可能な図形の中には変形しても保たれる性質が隠れている。「隠れている」というのが重要で、頑張って探す(=研究する)ことによって見つかる性質があるのである。このような思考は図形に限らず、より広く応用が可能である。物理学の概念も数式で表現できるので、トポロジーの考えが適用できる。そのような思考のなかで「隠れた性質」が研究者の努力によって最近続々と見つかってきており、現代の物理学において新しい物理現象をたくさん予測している。言うまでもなく、物理学は現実世界を対象とする学問だが、数学的思考によって見つかる「隠れた抽象的性質」が、現実に現れることは大変興味深いものであり、物理学者のみならず幅広い研究者の興味を集めているのである。

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