『凝縮系物理学』§1.磁性の基礎
§1-1.電磁気学と磁性
電磁気学では、電気と磁気に関する法則を学んだ。磁気を感じる典型例は磁石である。磁石はN極とS極の対を基本構造とすることはよく知られている。磁性の目標の一つは、「なぜ物質は磁石になるのか?をミクロに説明したい」ということである。この目標の達成を本授業の主な目標とする。
一つの棒磁石を考え、周囲の磁力線を考える。磁力線はN極から出て、S極へと入る。
マクスウェル方程式より
より
となる。つまり、磁石の端面で磁化の空間変化があるために磁場が発生することになる。
このようにマクロな物理量M、H、Bの間の関係は電磁気学で記述される。しかし、なぜ磁性が出るのか、なぜ磁性がでない物質があるのか、ということについては教えてくれない。本授業では、これらの問題について量子力学を使って理解することを目指す。
§1-2.いろいろな磁性
①強磁性とフェリ磁性
磁石は強磁性(Fe,Co,Ni,ネオジム磁石など)かフェリ磁性(フェライトなど)である。強磁性体は磁気モーメントが同じ方向にそろっているものである。フェリ磁性体には、互いに逆向きにそろっている2種類の磁気モーメントが存在しているが、磁気モーメントの大きさや数が異なるために全体として磁化を有するものである。図は、ここにある。
強磁性体・フェリ磁性体としてはいろいろな元素の組み合わせがあり、磁化の大きさは物質により異なる。金属のものも絶縁体のものもある。伝導電子を有するものとそうでないものの両方があるという点で、磁性が発現する物理機構は一つではないことが推測される(実際にそうです)。
②反強磁性
磁気モーメントが反平行にそろっており、全体の磁化がゼロになっているものを反強磁性体という。1つの軸方向に磁気モーメントが整列している(これを上下方向とする)が、M↑の数=M↓の数となっている。(強磁性の場合は、M↑(あるいはM↓)だけだった。)
③らせん磁性
磁気モーメントは、必ずしも1つの軸方向にそろうわけではない。らせんを巻くように整列する場合をらせん磁性という。
④常磁性
磁気モーメントがランダムな方向を向いており、全体の磁化がない状態が常磁性である。原子が不対電子をもち磁気モーメントがあるが、「そろっていない」場合に相当する。強(フェリ)磁性体・反強磁性体・らせん磁性体は、温度を上げると熱エネルギーによる磁気モーメントの配列の乱れにより常磁性体になる。
外部磁場により、磁場と同じ向きの磁化が生じる。金属で現れるパウリ常磁性や、絶縁体で重要なキュリー常磁性がある。パウリ常磁性は温度によらずほぼ一定であるが、キュリー常磁性は温度に逆比例する温度依存性を示す(キュリーの法則)。ヴァン・ブレック常磁性という機構もある。
⑤反磁性
反磁性とは、外から与えた磁場の向きと逆向きに磁化が生じる場合である。大きさとしては小さいが、閉殻となっており不対電子がない物質の場合に(常磁性がないため)重要となる。ローレンツ力による電子の円運動(環電流)に起源をもつ。閉殻になった対電子に由来するラーモア反磁性と、伝導電子に由来するランダウ反磁性がある。