『物性物理学1』§0:はじめに

この一連のノートは、『物性物理学1』の講義補助資料です。あくまで補助ですので、あしからず。

参考文献としては、

[1]『The Oxford Solid State Basics』(Steven H. Simon)

[2]『物性物理学』(永田一清)

[3]『物性論』(黒沢達美)

あたりを参考にしている。有名どころは、

[A] 『固体物理の基礎』(アシュクロフト-マーミン)

[B]『固体物理学入門』(キッテル)

[C]『固体物理学―21世紀物質科学の基礎 』(イバッハ-リュート)

であろうか。好みがわかれるようである。

(1)物性物理学で何を学ぶか?~周期構造中を伝わる振動・波動~

我々の周りに存在する物質は、膨大な数の粒子が凝縮した系である。物性物理学では、物質が示す巨視的な(マクロな)性質や現象の背後にある物理を、微視的な(ミクロな)観点から明らかにすることを目指す。

まず大事なこととして、我々が扱う固体(結晶)は、非常に多くの原子が高密度に規則的(周期的)に配列している。

画像1

原子核(イオン)の配列を「格子」と呼ぶ。また、原子核の周りには「電子」がまわっている。原子核の配列する間隔は、オングストローム(10^-10 m)スケールと非常に小さい。電子が近い距離にたくさんあるのでクーロン相互作用が強そうだが、金属では電子は独立に動くことができる。

おおきく2つにわけて、電子が流れる物質(金属)と流れない物質(絶縁体)がある。物質中の電子の流れを「伝導」と呼ぶ。また、原子核の振動も、ばねのように隣の原子核と繋がっていると考えると、隣に伝わって伝搬する。これを「格子振動」と呼ぶ。格子振動を量子化したのが「フォノン」と呼ばれる準粒子である。

電子には粒子と波動の二面性がある。これを以下に説明しよう。鍵となるのは、不確定性関係 Δx Δp ~ ℏである。

①金属の(電子が動き回る)とき: 電子はどの原子の近くにいるか特定できない。つまり、Δx ~ ∞である。よって、Δp ~ 0となり、運動量の不確定性はないことになる。つまり、運動量が確定した状態であり、これは「波動」である。イメージとしては、電子を物質中のどこにでも見いだせる確率があるわけで、このような広がった感じが「粒子」でなく「波動」を表している。量子力学での波動性は「自由な」運動と言い換えられる。

               ↕

②絶縁体の(電子が束縛されている)とき: 電子は局在している。つまり、Δx ~ 0である。よって、Δp ~ ∞となり、運動量は不確定となる。(波動の言葉でいえば、異なる波長の波が重ねあわさった状態である。)原子の周りで激しく電子が動き回っている状況であり、これは零点振動と呼ばれる。運動エネルギーを損した状態が発現している。さっきのイメージでいえば、電子が一点にある感じが「粒子」的である。

このあたりの説明は、『固体の電子輸送現象』(内田慎一)に詳しい。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?