力学§1:序論

§1-1.テクニカルな注意

力学の目的は、物体の運動を数式で表現することである。ただ、現実の運動は複雑すぎるので厳密に運動を数式で記述することは難しく、数式で表現するために「近似」(要するに理想化)が必要である。これから色々な近似が出てくるので、運動を記述するためにどういう近似をしているのかについて注意する必要がある。

次節以降で明らかになるように、物体の運動は運動方程式という微分方程式で書かれるので、運動を理解するには、微分方程式を解く必要がある。これには数学的な技術が必要になる。もちろん一般的な微分方程式を解くわけではなく、運動方程式(二階の微分方程式)に限られる。当面必要になる限定的な場合のみで良いので、解き方を理解することが力学の理解に必要である。

また、我々の住む世の中は3次元空間なので、ベクトルの取り扱いと演算(内積と外積)について習熟しておく必要がある。行列の演算も使えたほうが便利である。数学の授業の内容と前後して、まだ習っていない数学のテクニックを使う場合もあるかもしれないが、学期が終わるまでに理解できればよいので焦らずに学習を継続してほしい。

§1-2.力学が生まれた時代背景に関する注意

力学が生まれたのは、ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)やアイザック・ニュートン(1642-1727)の時代であり、まだ科学についてよくわかっていないことが多かった時代である。古代ギリシャのアリストテレスの(誤った)考え方が常識としてあり、それを覆すものとして力学が確立したという時代背景がある。

例えば、落下運動に関するアリストテレスの考察として、「落下速度はその物体の質量に比例する」というのがあるようだ。つまり、重いものほど速く落ちるということである。それを反証したのが、有名なガリレオのピサの斜塔の実験である。実際には空気抵抗の影響があるので、アリストテレスが間違えたのにも理由はあり、ガリレオの「すべての物体は同じ速度で落ちる」という指摘は「空気抵抗がなければ」という理想化(近似)された状況で成り立つものである。

また、アリストテレスの考察には「物体の速度は駆動力に比例する」というものもある。運動には原因が必要であり、原因がなければ運動は終了するはずだという尤もにみえる考えであるが、実際には「物体の加速度が駆動力に比例する」が正しい。このように紀元前の時代の常識が残った中で、物理学としての力学が現れてきたという時代背景がある。

また、舞台はヨーロッパであり、キリスト教の影響が強かったようである。科学が大きな成果をあげていない時代なので、自然科学が聖書をしのぐことはない。我々人間は特別な存在であり、地球が世界の中心であるという天動説が常識としてあった。ただ、地動説がキリスト教の宗教家によって迫害されたという話は否定する意見もある。度々登場しているアリストテレスは天動説を支持していたようである

いずれにせよ当時は天動説が常識としてあり、それが正しくないことに気づくきっかけとなったのが、望遠鏡の発明(1608)である。望遠鏡の発明により、天体の運動を観察することが可能になり、運動に対する理解が深まった。ガリレオやケプラーなどは望遠鏡を自作して天体の運動を観察していたようである。

以上のような時代背景が少なからずニュートン力学には反映されているようである。





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