力学§2:運動の記述と数学の基礎

§2.1 質点と剛体

力学の目標は、「物体」にはたらく力と運動の関係を調べることである。では「物体」とは何だろうか。一般には、大きさがあり、形があり、時には変形することもあろうが、話が複雑になるので、我々の考える物体について以下のような理想化(近似)を行う。

①剛体:大きさはあるが全く変形しない物体。この変形しないという性質を仮定することで話が簡単になる。

②質点:質量をもち、大きさを持たない仮想的物体。質点を考えることで、さらに話が簡単になる。

我々の目標は現実の物体の運動を考えることにあるが、質点のような仮想的な物体の運動を考えることに意味があるだろうか。実は、後半で習うように、剛体の重心の運動は質点の運動と同じ運動法則に従うことが知られており、質点の運動法則が剛体運動の基礎になる。

§2.2 質点の運動

まずは質点の運動を学び、その後、それを基礎として剛体の運動を考えよう。質点は大きさがないため、以下のように3次元座標を使って表現できる。

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これを位置ベクトルと呼ぶ。原点は好きなようにとってよい。ベクトルは大きさと向きをもつ量であり、質点の位置の特定には両方の情報が必要である。一方で、質量のように向きがなく大きさだけをもつ量をスカラーと呼ぶ。距離だけでは質点の位置を特定することはできない。位置ベクトルの大きさは、長さ(メートル)の次元をもつ。

質点の運動を知ることは、時間とともにその位置がどのように変化するかを知ることである。これは、位置ベクトルが時間(t)の関数として求まればよい。つまり、

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が求まればよい。力学においては、位置ベクトルの時間依存性を、微分方程式(運動方程式)を解くことで計算する。

§2.3 ベクトルの演算の基礎

質点の運動を考えるには3次元ベクトルの計算が必要となる。重要な演算として、内積と外積があるので、よく習熟しておく必要がある。内積と外積は幾何的表現と代数的表現があり、例えばここに解説がある(ネットに多くの解説がある)。理解の確認のために以下の問題を考えよう。

問2.1:幾何的表現と代数的表現が一致することを示せ。

問2.2:3つのベクトルに関して成り立つ以下の式(スカラー三重積とベクトル三重積)を示せ。

スカラー三重積

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ベクトル三重積

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§2.4 座標

物体の運動を数量的に扱うためには座標が必要であり、位置ベクトルを導入した。しかし、位置ベクトルは、原点を定めただけでは一つには決まらない。例えば、x軸を3次元空間のどの方向にとるかは好きに決められる。好きにとれる以上、運動を求めるための計算が簡単になるように座標系をとるのが基本である。例として鉛直下向きに物体が落下する運動を考えるには、その向きにz軸をとってz軸方向の運動を考えれば話が簡単になる。坂道を球が転がる場合には、(水平方向でなく)坂道方向をx軸にとる。

我々はx,y,zが互いに直交する座標軸をとりがちだが、振り子や惑星の運動のように円運動を考えるには、円運動に対して便利な極座標を利用した方がよい。座標のとり方は人間が好きに決めたものであり、どの座標系で書いても物体の運動は同じである。問題によって最もよさそうな座標系をとり、異なる座標系の間を互いに変換できることが重要である。これは数学的な技術である。

①デカルト座標(直交座標)

我々が慣れた座標系であり、二次元の場合は

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である。e_xとe_yは単位ベクトルである。

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三次元の場合は、

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ここで、

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は単位ベクトルである。( )書きでベクトルを表現するよりも単位ベクトルを使って表現する方が見栄えがすっきりする場合がある。単位ベクトル同士は直交している。

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計算をするうえでは、この性質は大きなメリットになる。

ベクトルの大きさは、

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である。

②極座標

円運動に対して便利な座標系である。二次元の場合は、動径方向の単位ベクトルe_rと回転方向のe_θの2つの単位ベクトルを使って、(r,θ)にように書かれる。直交座標系を使うと

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である。例えば振り子の場合は、rが糸の長さで、θが回転角に相当する。

2d-極座標

三次元の場合は、rとθとΦの3つで表現され、

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である。θやΦの意味として、例えば図はここにある。

3d-極座標

§2.5 速度ベクトルと加速度ベクトル

質点の速度ベクトルは、位置ベクトルの時間微分で定義される。

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時間微分は、しばしば文字の上にドットをつけることで表現される。速度ベクトル(velocity)の大きさが速さ(speed)であり、長さ/時間 (m/s)の次元をもつ。

速度ベクトルの成分は、直交座標系において

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が等しいことにより、

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が得られる。(今後、時間微分はd/dtとドットが混在するので注意してください。)

加速度ベクトル(acceleration)は、速度ベクトルを時間微分することで得られる。

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すなわち、位置ベクトルの時間に関する二階微分である。

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成分で書けば、

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である。加速度の単位は、m/s^2である。

速度ベクトルを時間微分することで加速度ベクトルが得られるが、速度ベクトルと加速度ベクトルが同じ向きを向いているとは限らないことに注意する。例えば、等速円運動の場合、速度ベクトルは円周方向を向くが、加速度ベクトルは動径方向であり(常に中心を向く)、互いに直交している。このような円運動を調べるには速度ベクトルと加速度ベクトルを極座標表示するのが便利である。

問2.3 二次元極座標における速度ベクトルと加速度ベクトルを書け。余裕がある人は、三次元極座標でも計算してみよ。


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