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30歳で逆上がりができることもある

悩める10代に向けて何かを書く。何を書けるだろうと、10代の頃を思い出してみたが、結構暗い気持ちになる。戻れるとしたら、いつがいい?話は定番だけど、10代だけはゴメンだ。頼まれたって戻りたくない。

私は運動が苦手だ。そのくせ身長だけは高かったもんだから余計みすぼらしい姿だったのではなかろうか。走れば遅いし(運動会が嫌で嫌でしょうがなかった)、高くも遠くも飛べない。唯一水泳だけは小学校から人並み以上にできたが、中学に上がるとポッチャリ体型を人にさらすのがとても恥ずかしくなり辞めてしまった。特に鉄棒がひどくて、逆上がりなんてどうしてもできなかった。工事現場の看板みたいな補助器具を目の前に置いても上がれやしない。これは本当に辛かった。

見た目だって良くはないから女の子にモテることはなく、彼女だってできなかった。初対面で話しかけたり打ち解けるのが苦手だから、クラス替えがあった1学期なんてほぼ1人でお昼休みを過ごしていた。

ここに書いてあることなんてまだまともな方で、書けないようなこともいっぱいある。

あぁ、書いているだけで暗い気持ちになる。

それでも、仲良くしてくれる友だちができて、人と繋がり、人との縁で何とか10代を乗り切った。

中学の時に先生が言った。
「いいか金子、男は30代からだ」

10代前半の男子になんてこと言うんだ!?と今なら思うが、よっぽど前途多難に見えていたのかもしれない。実際、「そうか!」なんて納得してしまった。

たしかにそれはある。

30歳の時、はじめて逆上がりができたのだ。

散歩の途中でふらっと入った公園で、ふと目に入った鉄棒。今ならできるのではと何気なしに握り勢いをつけて地面を蹴る。あの頃とは明らかに異なる感触、振り上がる足。お腹に感じる少しの痛み。くるりと回った身体は2本の腕に確かな重みをあずけている。

できた。
少し上がった目線から景色を眺める。

手のひらからの鉄の匂いをかぎながら、少し誇らしくなる。
確かに男は30代からだなぁ。なんてことを思ったかもしれない。

パッとしない男がパッとしないまま、だた生きてきたという話だ。
しかし、30年生きてこなければ逆上がりはできなかった。

逃げたっていい。情けなくたって構わない。
ただ、生きているだけでいい。
それだけで、たまにはごほうびがやってくるものだから。

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