どうでもいい話(2022年 10月分)
父親も、アレ②
小二に上がったばかりの頃、父親の仕事繋がりか、中国の友人ご一家が遊びに来た。
多分ご友人の お父さんは、幼少の私に ちょいちょいヌイグルミとか くれた方だと思う。
中国の お父さんは日本語が お上手で、私の父親も中国語で喋れる。
私より少し大きい息子さん(R君)と奥様は、一切 日本語を知らない。
もちろん、私も中国語なんか喋れない。
ご一家が滞在中、私もついでに方方に連れて行って貰ったから、実家に何泊かしたのかな。
言葉は通じずとも意思疎通とれるのが子供の不思議。
R君とは大はしゃぎ、二人して転げ回ってた。
同時期、近所の商店で縁日が開催されてた。
折角なので、と連れて行ってくれたのが 中国のお父さん。
奥様は居なかった気がするから、長旅でお疲れで 実家で休まれていたのかな。
私の父親も居なかったから、その日は仕事かな。
チラシか何かに縁日の おもちゃ引換券が有り、それを握って行ったんだが…
残念な事に、1枚しか無かったのだよ。
「二人で仲良く選びなさい」
と言われたけれど、流石に こればかりは言葉を交わさねば自欲は通せぬ。
私は ピーヨロロと鳴く、鳥の水ぶえ が 欲しかったんだけど、R君の選んだロボットのハッカ笛になってしまって、悲しかった。
お小遣いも足らなくて、買えないし。
お客人に おねだりも出来ない。
なんて、モヤモヤとしていたら、何と!目の前でR君が お父さんに 鳥の水ぶえ を買って貰ってるじゃないか!
なんて羨ましい…
ハッカ笛を首に掛け 水ぶえ吹き吹き実家に戻る R君に「貸して」って伝えようが無くて、もどかしい思いをしたのを覚えている。
滞在の最後の一日。
私の父親も休日だった。
「よし!今日は○○も一緒にデ○ズニーランド行くか!」
やったー☆♪!
U○Jも無い、リゾートでもない、チケット時代のT○R。
子供が喜ぶ観光スポットと言えば、やはり ここだろう。
私は ようやく背が達して、そこそこ遊園地の乗り物に乗れるようになったばかり。
嬉しくて嬉しくて たまらない。
電車に乗って夢の国へ。
ワクワクが止まらない。
心躍る音楽に、きらびやかな入口。
入園前から、一気に魔法に掛かった私は、自分じゃ覚えておらんのだが、駆けずり回ってた事だろう。
気づけば私もR君も、それぞれ大人に手を繋がれていた。
R君は、お父さんと。
そして何故だか私は、奥様と。
私の父親はと言うと、一人でプラプラ先を歩んでいる。
そう。私の父親、誰かと足並み揃えられない人なんだ。
小さいくせに歩くのが速く、子供の歩みでは追いつかない。
ズンズン先を行く私の父親。
人混みに走り回る小さい子、母親の持つ危機感だろう。
奥様が私の面倒を自然と見てくれていた。
とは言え、二人とも言葉を知らなくて会話が出来ない。
終始 無言のまま、という不思議な状態…
それでもテンションは下がらないのが、子供の私。
名前なんだったかな…父親の好きなス○ーウォーズのアレに乗り、父親もテンションが夢の国の住人へ。
「ス○ースマウンテン乗ろう!」
揚々と歩む父。
私、知らなかったんだ。
実は父親、一切ジェットコースターに乗れない人だ、と。
父親と一緒に遊園地に行った記憶も ほとんど無くて、自分から「乗ろう」と言い出したもんだから、平気なんだと思ってた。
入口の長いオートスロープの前で私も身長をクリアし、5人揃い近未来的なアトラクション内へ。
長い列が宇宙船内を進むにつれ、言葉数少なくなっていく父親。
薄ら悲鳴が聞こえる乗り口付近まで来れば、完全に 身をすくませ より小さくなっている父親…
私が後2歳くらい上だったら「父ちゃん、止めときなよ」て 言えただろうが、当時の私には“父親の様子が変”としか分からず、何も出来なかった。
手を繋がれたペアのまま、二人がけのジェットコースターに並んで乗る。
父親は一人、最後尾。
最後尾って、一番 怖いって言いますよね…真っ暗なス○ースマウンテンでも、そうなのか分かりませんが。
走り出せば温風吹き抜け、満点の星空に、流れ星の様に翔ける他の車両。
うひゃあ!たぁのしい♪
あ、はい。アレ、落ちないから平気なんです、私は。
背後から父親の声は聞こえない。
バシュウウッ!
あっという間にプチ宇宙旅行が終わり、乗り物から降り振り返えれば、真っ青な顔して動かない父親。
え?父ちゃん、どうした?
自力で降りる事すら出来ず、二人のキャストに手を借りていた。
背の高い男性キャストに両腕を抱えられた父親は、完全に捕獲された小太りなエイリアン…
今の私だったら、確実に大爆笑しながら写真を撮ってるシーンだ(しみじみ)
先程までの足取りは どこへやら。
ヨロヨロと壁伝いに歩む父親の背後を、心配するご夫婦と共に ゆっくり追った。
出口を出て即、父親はトイレに入っていった。
「おえっ…おええっ」
──まさか、吐いてる!?
トイレの入口から響いて聞こえて来る父親の声、どうしようもなく立ち呆けるしか出来ない中国ご一家と、私…
恥ずかしい人だな。
と 思いましたよ、子供ながらに。
父親は、しばらくトイレから出て来なかった。
「父ちゃん見てるから、乗っといで…」
完全にノックアウトされた父親は、隣のゴーカートをリタイヤした。
中国ご夫婦に私を預け、花壇に腰掛け手を振り振り。
特に会話が無くても平気なのが、私。
30分くらいかな。
奥様に手を繋がれたまま、中国語で楽しそうに お喋りする ご一家に紛れていた。
乗り口で身長計測。
「身長が足りないので、一人では乗れません」
なんと!!
私もR君も背丈が足らなかった。
「大人の方が一緒でしたら、運転 出来ますよ」
あ、良かった。
説明を聞き、奥様に通訳し終えた中国のお父さんとR君ペアは、R君の運転で発進。
車(?)を運転出来るだなんてワクワクだ。
ゴーカートの左側から乗り込む。日本車なので、もちろん右ハンドルだ。
私の手を引き、先に乗り込む奥様…ハンドル側だ。
えっ!? そっち乗っちゃうの!?
と 思ったけど「私が運転したい」て伝えようがなく、仕方なしに 渋々 助手席に乗った。
キャストがシートベルト確認と、注意事項を説明する。
日本語の説明に困った奥様、サッと手で遮った。
「私、日本語 分かりません」
──ええーッッ!!?
奥様が日本語を喋ったのも驚いたが 何より、物凄くネイティブ感 溢れる流ちょうな日本語であった。
キャストの方は「あっ」と言って、車内の多言語説明プレートを指差した。
それを一読みし、発進。
「ひゃあーッ♪ きゃあーッ♪」
ガッツン ガッツン、中央レールに ぶつかりながら、楽しそうに運転される奥様と、助手席で頭を振られる私。
…何やってんだろう、私。
て 思っちゃったのは、内緒だ。
その後、少し休んだけどテンション低めの父親と合流、池の島で遊んだり 遊覧的な乗り物に乗った。
奥様、ひょっとして日本語 喋れるのかな…?
なんて思って、間で何度か話し掛けてみたけれど、私の言葉に奥様はニッコリ微笑むばかりで、頭の上にデッカイ?マークが浮かんでるのが視える気がした。
ううん…なんで、あの時だけ…
当時は物凄く不思議でならなかった。
多分だけど、ご主人が奥様に「この言葉だけは覚えとけ」て、ひたすら練習させたに違いない。
言葉を知らない海外を旅行するってのも、大変そうだな。
国内から出た時 無いから知らんけど。
正直、その事ばかり考えていて、パーク回っている間、私は父親と会話した記憶が無い。
多少は喋ってると思うんだがなあ…?分からん。
それから、この話…凄く語りにくいんだけど…
ううん、どう言ったものか…
先に奥様と世界中の全女性に謝ります!ごめんなさい!
この話は性差でも何でも無くて、私が幼く無知だったから、そう 捉えてしまっただけで、申し訳ございません(礼)!
私の母親、そういうの一切 見せない人だから、尚更…
日も暮れ閉園まで少し有るけど、早めに撤収するファミリー層にならい、私達も帰ることになった。
出口付近のトイレは長蛇の列で混雑していて、奥様はその列に並んだ。
私、おトイレまだ行かなくて平気なんだけど。
思ったけど、奥様が手を離さないもんだから、ぽやっと くっついて並んでいた。
順繰りに空いて行く、沢山の扉が並んだ、女子トイレの個室。
「私はトイレ行かない」ってどうにかジェスチャーしたら、迷子にならないようにか、奥様と同じ個室に入れられてしまった。
和式便座の半畳ほどの空間。
私の立ち位置が、悪かった。
奥様の正面側の、壁の角に寄りかかっていたんだ。
スッとパンストとパンツを下ろし しゃがんだ奥様を、私は見下ろした。
──えっ!!?
大人なのにオムツしてる!
そう、思っちゃったんだ。
しかも、何…血まみれ!!!
オムツが血染め、という衝撃的な映像に、凍りついてしまったんだ。
奥様、生理中だった。
滞在中 顔色悪かったのも、その所為だ。
そんな事も知らない、私。
急に、奥様単体では無くて “女性” というものが恐ろしくなってしまった。
トイレから出た瞬間、私は繋がれていた奥様の手を振りほどき走って逃げた。
待ちほうけていた父親の大きな お腹に ぎうっ、としがみついた。
「なんだ急に。甘えん坊だな」
違うんだ。怖いんだ。
手を振り解かれた奥様はショックだっただろうな…
本当に、申し訳ございません(礼)!
今は“女性”と“男性”の生物的違いは、理解しているつもりです…
あの時、何で あんな逃げ方しちゃったんだろう、て悔やまない日はありません。
本当に、ごめんなさいでした(泣)!
ああ、随分と脱線してしまったな…
こうして 言葉も全く通じない中、半ば獅子が子を谷底に落としたような実地の、異文化交流は幕を閉じた。
なかなか出来ない、貴重な体験であった。
これ、今更ですが“父親の想い出”ではなくて、“中国ご一家”の想い出でしたね。
あはは…
…ふう。
③に続く──
映画好き
父親も母親も映画が好きだ。
映画に囲まれ、私も もれなく映画好きに育った。
最近の映画はチェック出来ていないけど、昔の映画はかなり観てる方と思う。
特に8~90年代。
実家の最寄り駅前にレンタルビデオ屋が在って、小さい頃は よく父親が借りるだけ借りてきた映画ビデオを全部観た。
映画館にも よく連れて行ってもらった。
私は漢字が読めないけど、洋画字幕版という、荒行…それでも「面白い」と思ってたから、映像って凄い。
タイトルも俳優も分からず観ていたから「あの話また観たい!」と思っても、調べよう無くて困るんだが。
大抵の昔映画は観れば「あ、知ってる」て なる。
特にアクション、コメディは多かったな。あと、ジ○ッキー・チェン。
始まったばかりの『タ○ミネーター2』のデジタル演出は、物凄く感動した。
サラ・コ○ーが めちゃめちゃ格好良い!強い女性って、素敵ですね?
でも、一番好きなのは…
『ダ○・ハード』シリーズ
ボヤいてばっかの、おっさん萌w
そうそう、昔のビデオテープって、録画 再生 巻き戻し、繰り返してると切れちゃうのよね。
よくカバー開いてセロテープで、磁気テープを直接 貼っつけて直したっけ。
小四くらいの時だったかな、ビデオデッキの中にテープが一本 入ったまま、出てこなくなっちゃったのよ。
それも、『ラ○ボー2』。
しかも、爪を折ってある上書き出来ないやつ。
仕方ないから 連日ラ○ボーばっかり観てた。
まだニュースの面白さとか知らんかったから、どうしても映画が観たかったのよね。
何十回 観ただろう(遠い目)
そろそろ飽きたな~て頃に、ようやく新しいビデオデッキが やって来た。
「好きにして良いよ」
捨てる前に、古いデッキを母親がくれた。
私は工具が使えるくらいになってて、何でもバラしてみるのが趣味だったもんで、良い玩具だと思ったんだろう。
早速、外カバーを開いてみた 私。
直ぐに見えるのは、取れなくなってたビデオテープ。
…あれ?これ、取れんじゃね?
意外と簡単にね、取れた。
中身の部品のズレを少し調整して、外カバーはめて、再生チェックに取り出しチェックしたらね…
なんと!また使えるようになったんだよ!
やったー☆
もちろん、新しいデッキと古いデッキ、2台 有るって事は、ダビング出来るはず。
配線 繋ぎ変え、2台 重ね置いて テレビ台の下に押し込んだ。
母親はワープロ以外の機械が苦手で 全然 関心持ってくれなかったもんで、私 専用のダビングセットになった訳だ。
それで一番に何やったかって…
映画のさ、濡れ事ばかりを集めたエロビデオ作成。
やる事が阿呆。
だってさあ、母親そういうシーン観してくんないんだもん!
後から観てたけど。てへ♪
遊び屋④ ※子供のごっこ遊び※
幼児自慰、もれなく私も経験者だ。
小さい子が股間を触っちゃうような癖のこと。
コレ、別に悪いことじゃあ ないんだって。今日知った。
小二位まで、実家の食卓の角に座るのが好きだった。
いっつも角に座っているから、家族・いとこ皆に「変な子」て言われてた。
大きな天板の食卓テーブルは、当時 私の おへそ位の高さで、ひょいっと腕で突っ張って乗れる良い高さ。
角は大きく円を描いて、面取りしてあってね。
ここに 股間をだね、乗せると…
なんとも言えない気持ち悦さ、だったのだ。
乗るよね、そんな事 気付いちゃったらさあ。乗るに決まってるでしょ。
直接、手で触る事は無かったけど、背と体重が増えて「何か違う」て思うまで、止められんかった。
性の目覚め、は小三の時。
2~3こ年上の おねえさん と遊んでいた時だ。
あ、私の姉ら の事では無いよ。
おねえさん の四畳半程の一人部屋には、勉強机と布団の掛かった おこた が置いてあった。
「○○、コレ知ってる?」
おねえさんが開いて見せてくれたのは、兄貴からパクってきた ヤングジ○ンプ。
縦割りの大ゴマで、着衣乱れる仰向けの可愛い女の子が、男の人に組み敷かれている絵が載っていた。
数コマに渡り、そんな構図。
喧嘩?
「セックスって言うんだって」
セックスって、何??
それこそ「赤ちゃんはキャベツから生まれる」って母親に教わって、キャベツから生まれるんだって信じていた頃だ。
おねえさんは効果線が沢山 入った、2人の交わる腹部を指差した。
「男の人が ちんちん を、女の人に挿れるの」
──え!!?
ちんこって、その為に有るの!!?
恐ろしい程の衝撃だった。
何かよく分かんないけど、頭に血が昇ったのを覚えている。
そして、説明だけでは気が済まなかった おねえさん に誘われ、子供じみた空想遊びを する事になった。
おこた に 二人並んで横になって入り、眠っていたら、何故か おこたの中に もう一人居た、というホラーな設定…
子供とは言え、変態。
もちろん、他に人なんか居ない。
それぞれお互いを、おこた の中で触り合いっこ するのだ。
最初はね、恥ずかくってビクビクで、ツンツン、くらいしかしなかったけど…
私の触り方が、じれったかったんだろうな(遠い目)
「おっぱい、触って」
なんと、おねえさん から お触り許可が出たのだ。
ひゃああ…ほよん、ほよん…
「パンツに手、入れても良いんだよ」
ひゃああ…
てな感じで、私もおねえさんに触られながら、どんどんとエスカレートして行った訳だ。
「おこた の中の人が、悪さしてる」
て名目で。
ただね、あんまり興奮してたもんだから、この“ごっこ遊び”が どこで終わったのか覚えとらんのだよ。残念な事に…
本当に、残念無念だ…
以来「股間を触ると気持ち悦い」事を覚えてしまった、私。
押し入れに潜り込んでは真っ暗な中で、本格的に自慰行為を始めた。
しばらく記憶の漫画で頑張ったけど、新しいオカズってのは欲しいもんで…
当時の映画は規制が緩くて良かったな。
動画なんか無い時代。ビデオも雑誌も買えない年齢。
良くポストにアダルトビデオのチラシが投函されてた。
アレ、良かったよ~。
白黒パッケージ写真に、細かい説明が 40作位びっしり一面に書かれて、4面。
それだけで、めっちゃ遊べた(照)
何枚か本棚に挟んで隠しておいたっけな。
⑤に続く──
小学ひとコマ
小五の給食の時間、毎日一人ずつ三分間スピーチをする時間があった。
私みたいな お馬鹿な奴ってクラスに他にも居る訳で。
仲の良い お馬鹿な男子が、その日は担当だった。
6人班ごとに机を向き合わせ、和気あいあいと 給食を食べている時。
お馬鹿男子は、一人芝居を始めた。
一人二役の熱演。
内容が、ハレンチ極まりないものだった。
クラスの誰もが見て見ぬふりを決める中、私は体を摩りながら床に寝そべった お馬鹿男子が観えなくて、椅子の背に腰を上げ興味津々 食らいついた。
「○○!止めろ!」
先生に怒鳴られたのは、何故か、お馬鹿男子ではなく、私だけだった。
コインランドリー恋歌④
小料理屋の お兄さん の想い出も記憶の倉庫に仕舞い、元配偶者に再び翻弄されつつ、仕事にリアルに忙しくしていた、ある深夜。
明日も仕事と、そろそろ寝ようかと思っていた時だった。
ベッドに横になり、寝る前のスマホチェックを行うと、ラインが一件 入ってきた。
『○○駅で呑んでたんですけど、終電逃しちゃって。
家、近くですよね?
今から行っても良いですか?』
──お兄さんからだ!
うえっ!?今から!?
時間は深夜2時をまわり、明日も仕事だし、常識的には お断りしたい時間である。
ええぇ…でも、久々お兄さんには逢いたいな…
精神が疲弊していたから
癒しが欲しかった。
『良いですけど、家、何も出せないですよ』
冷蔵庫は無い。お茶の ひとつも出せやしない。常温の水道水しか無いんだ。
それでも良い、と返ってきたので、住所と道のり を伝えた。
──あっ!着替えなきゃ!
流石に まだ友達でも無いのに、パジャマ姿では逢いたくない。
慌てて短パンとトレーナーに着替えた。まあ、パジャマと大して変わらんが…
呼鈴が鳴り、オートロックを解除して、お兄さんが昇って来るのを待った。
♫ピンポーン
ガチャリ玄関扉を開ければ、赤ら顔した懐かしい笑顔。
「こんばんは~♪突然ごめんね。あっ!着替えちゃったの?」
着替えますよ。
そういうの、気になるんで。
ぶっちゃけ、親友ら と集まる時は いつも くたくたパジャマだけど。
「お邪魔しま~す♪うわあ、ねこちゃん!」
…お兄さん、へべれけ だな。
招き入れ、廊下を歩む お兄さんの背中は 揺らん揺らん。
お酒強いって聞いてたけど、どんだけ呑んでんだ?
大丈夫かなぁ…
「お水、飲みます?」
「ううーん、要らない」
飲みなさいよ。
これは意地でも、水 飲ませたい。
お兄さんを押しのけ、財布と鍵を持った。
「コンビニ行ってきますけど、何か要ります?」
「ううーん、大丈夫」
だいじょばないだろ。
シロと たわむれる お兄さんを部屋に残し、私は家を出た。
近くのコンビニで自分用のビール2缶と適当なジュースをカゴに入れた。
…なんか、小腹が空いたな。
レジ横のスナックケースは点灯していて、中に入れ物が見える。
「唐揚げ下さい」
「今から揚げるので、時間 掛かりますよ」
何だと!!?
もう一度ケースを見れば、入っているのは 見本用 空容器。
ええー…
でも注文してしまった分、気持ちが「唐揚げ食いたい」に。
「…時間 掛かっても良いです」
多分、もう寝る時間無いだろうし。朝までは長い、腹ごしらえせねば。
ちょっと買い物…位が、予想外に お兄さんを一人 待たせてしまった。
こんな事ならコンビニ待ち合わせに すれば良かったな…
出不精であるのが、仇に。
「遅かったね」
「あー、はは…ちょっと。はい、飲み物」
家に帰りコンビニ袋からジュースを差し出した。
「あ、こっちが良い」
そう言って お兄さんが手にしたのは、私用の缶ビール。
止めときなさいよ。
言えない仲なのが悔しい。
仕方ない、様子 看てなきゃ。
私がベッドに寄り掛かり 床の敷物の上に直座れば、お兄さんは その場に座ってビールを開けた。
ちょうど閉めた部屋扉前。微妙に敷物から外れている。
「こっち、おいでよ」
「ううーん、ここで大丈夫」
取って喰いやしねぇよ。
思ったけど、言えません。
唐揚げ食い チビり呑みつつ、近況報告。
「それでね…お兄さん?」
「ん…あ、聞いてるよ」
お兄さんの頭は カックン カックン、船を漕ぎ始めた。
「寝るならベッド使って下さい。私 床で寝るんで」
「ううーん、寝ない…」
いやそれもう、寝るでしょ。
お兄さんが寄りかかっているのは閉めた部屋扉。
そこで寝られると、トイレが困る。
どうにか場所を動かしておかねば…
「おっきして、おっき」
膝立ち両手を差し出す。
私の手を取る、お兄さん。
だが 悲しい事に、私に成人男性を引っ張り上げる力は、既に無かった。
ううーん…弱った。
手を離せば、お兄さんの上体は前に倒れた。
背後に出来た隙間から、両手脇下に入れる。
「よいしょ、よいしょ」
ずりずり と お兄さんを扉から離す事に成功した。
ここまで来たら放置しても良いんだが。
お客人を床に寝かせるのは、ちょっとなあ…
ぶっちゃけ、親友ら はいつも 直床に雑魚寝てゴロゴロしてるけど。
友達でも無い人に、そんな扱い出来はしない。
「お兄さん、立って」
背後のベッドまでは僅かに残る、腰掛け程の高さ。
私の呼び掛けに お兄さんは反応を示すも、漕がれる足は夢の中。
あと、ちょっと なんだよなぁ…
私は しゃがみ、お兄さんの脇下に回した腕を組んだ。
「うおりゃあッッ!…うわッ!?」
思い切り立ち上った、私。
足を踏ん張りきれなかったんだ。
ぼふんっ!
あッ…
視線の先に見えるは、天井。
例えるなら、失敗しちゃったバックドロップ。
私は お兄さん の下敷きに、ベッドに倒れていた。
倒れた衝撃に、全身に掛かる人の荷重。
私の体調では 疝痛が走っても、おかしくない状況。
覚悟をして、自分の体の感覚を確認した。
──あれ???
痛くない…
引越し転院して専門外来に通院していた。
処方された薬も見直され、増量を始めた 痛み止め が功を奏したか。
──あったかい…
久方振りに、全身に のし掛かる人の加圧。
懐かしくあり、心地好くもあった。
だけどまあ、このまま では いられない。
お兄さんの背中から抜け出そうと
試みるも、がっぷり下敷いた私の筋力では にっちもさっちも動けない。
──うえーん!何も出来ないよ(泣)!
お兄さんの胸に回った両腕は、動かせるんですがね。
ぶっちゃけ、合意有れば触りたい放題な体勢…
ほら、流石に泥酔している人の体を触りまくったら、犯罪でしょう!?
お触り禁止の苦行。
おっぱい摩りたい!
乳首摘みたい!
股間まさぐりたい!
と 思ってたのは、内緒だ。
こんなに酔っ払ってたら、ちんこ勃たんでしょうし。
危うく犯罪行為を行う一歩手前の状況に為す術無く、時間だけが経過していく。
ちょっとだけ…
お兄さんに回した腕で ぎうっと、ハグだけ さしてもらった。
えへへ♪幸せ♪
心地好さに身を任せ、人肌の温もりだけ を堪能した。
凄く、悦かった。
スマホのアラーム音に、ハッと気付いた。
──やっちまったあぁー!!!
そう。あんまり心地好かったものだから、眠ってしまったんだ私。
目醒めれば、私の上に お兄さんの姿は無かった。
トイレにも居ない。
スマホを確認すれば、お兄さんからのライン。
『仕込みが有るので帰ります。家の鍵 開けっぱで、ごめんね』
玄関扉を見れば、解錠されたままの家の鍵。
くうぅ…ナニか、してけよ!
お兄さんも「眠ってる人には手は出せない」て 葛藤しただろうか…?
だとしたら、残念では有るが、嬉しくも有る。
──数年後
都会の喧騒から離れ、今度こそ しがらみを断ち切り、田舎で隠居生活を始めたばかりの頃。
スマホに知らない電話番号から着信があった。
…どうしよう。
伝言も残っておらず そんな不可解な電話、いつもなら番号検索後 確実にスルーするんだが、何となく引っかかりが有って悩んでいた。
私は知らない電話番号に掛けてみる事にした。
「──もしもし、お電話 頂きましたか?」
『──あっ!○○さん!? 僕ですよ、○○店の元店長です!』
ええと…あ!!? お兄さん!!?
何年も連絡すらとっておらず、すっかり忘れていた。
「えー、懐かしい!どうしたんですか?」
世間話に花が咲く。
『よかったら、今度 一緒に呑みませんか?』
ぐっ…
「──私、引っ越しちゃって、今 違う所に住んでるんです。遠いからなぁ、どうかなぁ…」
『じゃあ、中間点の○○辺りとか、どうですか?』
ぐぬっ…
私、お兄さんに 逢いたくない。
どうやって断ったものか…
これには列記とした理由が有る。
その頃 私は、過去最高記録の超わがままボディ。
お兄さんと出逢ったのは、現役時代 最低記録の ほっそりシュッとし小綺麗にしていた頃。
差し引けば 35kg 増…
お米3.5袋ですよ!
どうやって くっついたんですかね!
逆ビフォー アフター、逆 仰天…
そんなコーナーが有れば応募したかった程だ。
私と もう一人の姉だけは、ずっと細かったから太らないんだと高を括っていた。
それがいけなかった。
遺伝子に負けたんだ。
ていうか、自己怠慢。
あんだけ呑み食いゴロゴロしてれば、太るというもの。
体型が緩むと お洒落する気も失せる。
鏡を見たくないんだ。
完全に、別人。
逢いたくない。
いや、本当に“別人”なんだよ!
母姉・親友・親族一同、口を揃え
「○○!? どうした!!」
て、言うんだよ!
もうね、自他ともに認める“別人”確定。
免許証の更新とか、二度見されたからね。良く更新出来たと思う(遠い目)
そんな変わり果てた私の姿、お兄さんに見せたくない。
「私…太っちゃって」
『前は痩せすぎでしたもん。少しくらい肉付いた方が良いと思ってた』
少し、どころじゃない…
激、太りしちゃったの(泣)!
お兄さんの お優しい とりなし が、かえって痛い。
とにかく なんやかんや理由付け、お兄さんに逢うのを回避しようと、懸命に頭をフル回転させた。
断り続けるのも一苦労。
「…じゃあ 時間出来たら、こっちから連絡します…」
結局、嘘を吐かざるを得なかった。
忙しくなんかないのに「忙しい」と、言い通した。
もちろん、連絡する気なんか無い。
あれから、また何年か経過した。
私はお米2.5袋 減量して、少しばかり洒落っ気も 取り戻しつつあるが、別人には違いない。
小汚いコインランドリーに、小綺麗な小料理屋。
キラキラ輝く想い出は、綺麗なままで、良いんだよ。
お兄さんも いい加減、良きパートナーに巡り逢えた事だろう。
想い出だけを胸に仕舞い、お兄さん の 幸せだけを願う。
お兄さん、どうか、お幸せにね✨
あとね、くれぐれも呑み過ぎには注意で。
線維筋痛症と私⑨
別の話をしようと思っていたが、少し こっちに触れたので。
引越しにおける、転院の話。
都会から しばらく遠かったけど、国立病院に通っていた。
新居からは約2時間。
ちょっと…いや、かなり遠い。
近くに通える専門医の在籍する病院、ないかな。
主治医の先生に聞いてみた。
「そっち方面なら、知り合いに専門の良い医者がいる。○○なんだけど、行ける?」
流石、先生様!
ネット検索では分からない先生同士の繋がりが!
だけど、○○?○○って…どこだ??
地名は知っていたけれど、場所はピンと来ない。
「○○駅の、上の方なんだけど」
あー…
「ちょっと遠いです」
薄らぼんやりとした線路マップでは、勤め先より数駅先。
軽く一時間は掛かる。
くうぅ…
お医者の先生が推める お医者だなんて、絶対 良い医者に決まってる。
なんだけど、体調的に通える範囲では無い。
仕方ないので、先生が検索してくれた。
「○○の病院に専門医が居るって。そこはどう?」
あ、○○は聞いた時 有るな。
近かった気がする。
引越したばかりで、地理に明るくない。
一応、最寄り駅を聞けば、新居と同じ駅。
おお✨
「そこで お願いします!」
私、この先生が地味に好きだったけど、まあ背に腹はかえられん。
先生は目の前で紹介状を作成してくれた。
モニターに映し出される文章。
両手の人さし指でポチポチ…誤変換、修正、誤入力…
ああ、もう入力代わって差し上げたい!
て、いつも思ってた。
電子カルテに移行して日が浅いのか、おじいちゃん先生は いつも慣れないパソコン入力を頑張っていらした。
作成された紹介状は、ガッツリ文章だった。
すげぇ!
こんな しっかり枠 全部埋めるほどの紹介状、見た時 無い!
そう。この先生も、良いお医者だったのだ。
「お世話になりました!」
後ろ髪 引かれながらも、転院。
次の休みで、新しい病院に行ってみる。
バスに揺られて大学病院へ。
紹介状の宛名には、病院名と“ご担当医様”の記載のみ。
総合窓口で尋ねると、神経内科に案内された。
館内マップ片手にポテポテ歩き、床の矢印 追って診察室前へ。
問診票を記入し、呼び出しを待つ。
「専門医、居たんだけど、先月 異動しちゃったんだよね」
何だってー!!?
しょっぱな担当医に告げられ、途方に暮れた。
なんでこう私って間が悪いかな。
「○○に専門外来があるんだけど、そこは行けるかな?」
○○…あー…地下鉄かな??
多分、そう遠くはない。
そこで話を進めてもらう事にした。
「ただ ここね、病院からは予約が取れないから、自分でやってもらうしか無いんだけど…」
えー…面倒臭い。
思ったけど、こればっかりは仕方ない。
専門外来が有ると言う、病院。
サイトURLの記載された地図と、申込書を印刷してくれた。
「多分 予約取れるまで結構掛かるから、その間は ウチで 薬は処方するから。足りなくなったら、おいで」
ありがたい。
薬切れるのが一番怖い。
再び紹介状と、今までの処方と全く同じ処方箋を作成してくれた。
帰宅して早速、専門外来の病院に電話してみた。
新規予約が取れるまで、二ヵ月程かかると言う。
oh…
もう、他にアテも無い。
仕方なくキャンセル待ち含めて、新規予約の申し込みをする事にした。
ああ…大学病院の先生、お薬 出してくれるって言って下すって、本当に助かった…
必要書類をまとめ仕事の休憩中に、ポストに投函。
──パンッ!パンッ!
真っ赤な御神体に二拍手一礼。
祈る思いだったんだ、マジで。
それからは勤めつつ リアルつつ、病院から電話が来るのを、ひたすら待った。
ひと月位経過したかな。
キタキタキター!!!
病院から着信と伝言が残っていたので、掛け直した。
空きが出来たので、この日はどうか?という、電話だった。
半月ほど猶予が有る。
ちょうど月替わりだから、希望休も出せるナイスタイミング。
「その日で!お願いします!」
安堵したのは間違いない。
予約日、初めて訪れる専門外来は、個人病院位な大きさ。
地下鉄の階段上るの結構、大変だな…
来院するだけで疲れ果ててしまうが、駅近なのは ありがたい。
問診票を書いて、膠原病科へ。
初診の お医者様は院長先生なのかな?パソコン入力アシスタントが付いていた。
すげぇな。
初めての事だったので、驚いた。
あの、おじいちゃん先生にも誰か付けてあげて欲しい…
なんて、思ったものだ。
問診と触診。圧痛点も増えていた。
筋力測定にX線、血液検査etc…
検査だけで、疲れちゃう。
飲んでいた薬が見直され、リリカとサインバルタを中心に、効果低いとされるものから 別の痛み止めが処方された。
処方箋の有効期間、一週間有れば良いのに…
常々 思っているが、決まりだから仕方がない。
4日以内ってね、結構タイトに感じてしまう。
なんとかならんかなあ…
病院行き終わったらね、さっさと帰ってゴロンしたいんだ。
その日は流石に翌日の仕事明けに回したかな。
月に一回、何回か目で担当主治医の神経内科に移った。
ほんとね、何科なんだろね、この病気。
流石に決まったのかな?
神経内科に何度か通ううち、リアルがアレで精神的にキツくなってしまった。
元々 抱えていた不眠も酷くなっていく。
主治医の先生に相談したら、精神科に紹介状を書いてくれた。
…なんだけど私、本当にグダグダと“精神科”に行ったら終わりな気がして、なかなか行けず ひと月近く経過してしまった。
流石に行っとかんと次の予約日が迫る。
紹介状をわざわざ忙しい中書いて下すったのに、主治医の先生に面目立たない。
ようやく 私は重い腰を上げ、精神科の門を叩いた。
「…それで?今更来たの?」
紹介状を開く精神科医に言われた。
思わずボロリッと涙が零れて、問診中、私は ずっと泣いてた。
ああ この話、今日はしたくないな…
だけど…吐く。
※この先 重たいので ご注意※
私、死にたかったんだ。
死ぬことばかり連日連夜、考え続けていた。
どうやって“死ぬ”か、ひたすら考えた。
バスルームで手首を切る?部屋戸で首をくくる?
──いや、賃貸物件が事故物件になってしまい、迷惑だ。
どこか屋上から飛び降りる?
──いや、風評被害で建物自体の価値が下がって、迷惑だ。
電車に飛び込むなんて、何万という人に迷惑をかける。
人知れず川に飛び込んでも、水死体を発見した人に心的外傷を残してしまう。
とにかく 誰にも迷惑を掛けずに死ねる方法はないかと、日がな一日考えていた。
悪い考えが浮かぶ度、私のなけなしの良心の呵責に、ギリギリ生かされていた。
そんな日々だったんだ。
眠りたくても眠れない。
眠いのに眠れない。
辛いしシンドいし本当 もう生きるのが嫌だった。
結局、その精神科には一回行ったきり、再び主治医に事の顛末を相談した。
「予約先になるけど…」
専門外来の中で、今度は精神科に移動した。
向精神薬と眠くなる薬を処方され改善されて行った。
ただ、今だに睡眠薬が無いと眠れない。
眠いまま何日でも起きている。
眠くない時に飲んでも効かんので、眠くなった瞬間に飲む。
以外では効かない。
これは、流石に精神科行こうかな。
⑩に続く──
ホラーハウス①
これは『母親は、アレ』的な話でもあるんだが、ほぼほぼ私 単身の思いであるので、別枠で。
現役時代中期、背中に痛みが出始めていた頃の事。
母親から「久々に おばあちゃんの お墓参りに行こう」と、お誘いがあった。
“おばあちゃん”と言っても、その頃 母親の母親は存命である。
そう。母親が誘ってきたのは、私が ものごころ付く前に亡くなった、父方の祖母の お墓参り。
既に再婚して新婚生活を謳歌している筈の母親。
正直、「何で???」と、思った。
「生前、良くしてもらったから」て 母親は言うけれど、私には理解が追い付かなかった。
離婚した父方祖母の墓参りなどどんなに お世話になったからって、行きたいと思うかな…
私だったら絶対、行きたいとは思わない。
ぶっちゃけ、気が知れなかった。
なんだけど、珍しく姉二人も揃って参加する久方ぶりの家族旅行でもあったので、そういう意味合いでは「参加したい」と思い、私はシフトに日程合わせ 連休を作った。
もちろんメインは“お墓参り”ではあるんだが、折角の遠出だ。
「あっこ行きたい、こっこも行きたい」となるのが、母姉の心情で。
一泊二日の初日、富士山そびえるアミューズメントパークへ行くことになった。
富○急ハイランド、である。
困る。
家族で遊園地なんて楽しそう、だなんて到底思えない。
だって あそこ、絶叫マシーンばっかりじゃない!
無理。
楽しむなんて、無理。
落下系ジェットコースターが大の苦手である、私。
ジェットコースター大好きな、母姉。
久方ぶりの家族旅行、多数決では私単体の希望は通らない。
一応、私「ジェットコースター乗れない」とは、言ってありましたよ。
現地に着けば、絶叫木霊するジェットコースターが にょきにょき。
無ー理ー(泣)!!!
園内は落ち物ばかりだ。
見上げれば 目も眩む富士山象る白いレーン。
これが初心者向けだと!?有り得ない。
私でも乗れるような落ちないジェットコースターは、園内に存在しなかった。
いや 困った、困った。
胃の浮く感覚に、身の毛が よだつ。
見るのも嫌だ。
本当は「下で見てるね」て言う予定だったんだが、無理過ぎた。
「ちょっと散歩してくる」
私は独り家族から離れ、私でも乗れる何かがないか探しに行く事にした。
遊園地なんだ、絶叫マシーンばかりではあるまい。
ぶらりぶらりと、園内を歩む。
おおお、有るじゃない✨
見つけたのは、子供用スポットの小さなジェットコースター。
これなら、乗れるかも…
若干の落下は有るものの、二階位の高さ、脚立範囲なら平気な筈だ。
思ったけど、結構メインな大人向けスポットから歩いて来てしまったので、楽しむ母姉を呼びつけるのも、なんだかなあ。
てな訳で、大人独りで子供用ジェットコースターに乗ってみた。
いや 思いの外、恐い!恐い!
子供用だなんて、嘘だ(号泣)!
と 思ってたのは、内緒だ。
ヨロヨロと走り終えたコースターから降りれば、いつかの父親の姿が頭を過ぎる。
父ちゃん、こんな気分だったのか…
今更ながら お察しします。
まだまだジェットコースターを巡回して、二週目に入った母姉らとは別行動のまま。
子供用ランドを ぐるっと見回る自転車漕ぐ二人掛けの乗り物に 独り乗ったり、
独りプリクラ撮ってみたり、
富士宮やきそば食べてみたり。
結構、独りを満喫した。
レストランブースから見えるのは、スケートリンク。
運痴な私であるが 実はスノボ・スケート、ウィンタースポーツは出来るんだ。えっへん。
スケートな、久々滑りたいな♪
リンクには転んだ彼女を引き起こそうとしている彼氏だとか、きゃっきゃと転げる子供達…
独りでは流石の私も入って行く勇気無い空間。
滑りたかったけど…やめとこ(ガックシ)
散歩を続けていると、園内最深部の突き当たりまで来てしまった。
目前には長蛇の列に、おどろおどろしい建物…
うおッ!これが、噂の…
本当に在った病院を改築して出来たと言う、大型お化け屋敷。
『戦○迷宮』である。
──どうしよ…
職場で入った時の有るスタッフらから話は聞いていた。
怖いけど…
怖いもの見たさ、である。
だって気になるじゃん!
見てみたいじゃん!
母姉を呼ぼうかな。
一緒に入ってもらおうと、携帯開けば母親からのメールが一件。
『姉ちゃん達、三回 乗りに行ったよ。母ちゃんは、ギブ。休憩中』
えー…
母親は、空いている。
母親は、空いているんだけど…
母親と二人して「きゃー♡やだー♡怖ーい♡」な お化け屋敷、やりたくねぇ。
正直に、そう思った。
引き返そうかな…
なんて、歩み始めた 私。
何故か、直進していた。
まるで、取り憑かれてでもあるように フラフラと、火に寄せられる羽虫の ごとく…
ハッと気付けば、列の最後尾に着いていた。
いやいや、独りは無理!
思ったけど、流石ジェットコースターと肩並ぶ花形スポット。
どんどんと背後に人が並んでしまう。
うわ、どうしよ…
待ち時間は30分位かな。このまま並んで、姉らが空くのを待ってみるか。
私は独り、ゆっくりと進む長蛇の列に続いてみた。
見渡せば、カップルばっかし。
イチャイチャ イチャイチャしやがって、コンチキショウ…
出来れば家族ではなく、パートナーとデートで来たい場所である。
大人なんだし。
並んでいる間にも、天井モニター画面には 気分盛り上げる、お化け屋敷になってしまった経緯映像。
朽ちた施設の外観。
うーわー…
私の気分は盛り下がり。
確か、途中棄権 出来る出口が何個か有るって聞いたな…
姉達も お化けは得意で無いし…
結局、母姉らを呼ぶまでもなく、少し覗いて一つ目の出口で出よう。そう考えた。
館内スタートの間。
「お連れの方は、ご一緒に」
ガイドの お姉さんに、後ろのカップルと同じグループと勘違いされてしまった。
「あ。一人、なんです」
お姉さんに もの凄い驚いた顔された。
余程、独り挑戦する人間が少ないんだろう。
分かる、分かるよ。独りで来といて なんだけど。
最初に締め切った小部屋に通され 椅子に腰掛け、館内注意事項なんかを聞く。
私は独りであるのに、ガイドさんは手を抜かないんだから凄い。
ガイドさんが居なくなり、順番待ちで 小部屋に独り閉じ込められ、ぼんやり扉が開くのを待ってた。
──ガタンッ!パシャッ!
「うわッ!!?」
突然 落ちた椅子の座面。
照らすストロボにシャッター音。
──やられたー!!!
古典的な仕掛けに まんまとしてやられ、もの凄く間抜けな驚き顔を記念撮影。
そうなんだ。現行は知らんが、当時は古典的な“ザ・お化け屋敷”な仕掛けが、とにかく多かった。
真っ暗な廊下を順路を通りに進み、吹き出したドライアイスにビビらされたり。
なんか、悔しい…
そう、やられっぱなし で私の負けん気に火が点いた。意味分からんだろ。
サクサク進んで最初の小部屋。
「えー♡やだー♡こわーい♡」
人の話し声がする…イチャこいてる感じの。
独りだもんで、一つ一つの仕掛けに長時間足止めされる事も無く、先行のカップルに追い付いてしまった。
うーん…追い越し禁止だったよな…
正直、さっさと歩みたい所ではあるが。
私は入口から手近な展示物に近付いた。
「うおッ!!?」
何事!?
男性の悲鳴に顔を上げれば、先行のカップルが戦慄して立ち すくんでいる。
並んで指さし向いているのは展示物ではなく、私の方。
──あ!
騒ぎもせず、静か~にス~ッと突然 人が入ってきたんだ。
お化け屋敷でなくとも驚くというもの。
なんか、悪いことしちゃった(汗)
ペコり一礼すれば、カップルさん方もペコッと礼して、慌てて先に進んで行った。
うーん、もう少し ゆっくり歩かんとな…
歩みを遅めたつもりだけど、度々カップルさん方に追いついては驚かせ、私の 悪ガキ スイッチがONに。
面白え!
と 思い笑い こらえてたのは、内緒だ。
でもまあ、赤の他人を驚かせ続けるのも、人が悪い。
階段のエントランスで出くわし、どうぞどうぞ とジェスチャーして、礼するカップルさん方を見送ったのを期に、私は しばらく立ち止まる事にした。
…ここ、本物の病院だったんだよな…
真っ暗な階段エントランス。
特に仕掛けも無い、ただの暗い空間に独りぼっち。
急に孤独である事が怖くなってきた。
病院って事は、亡くなった方や霊安室なんかが在ったって事で…
本物 視ちゃったら、どうしよう!!
突然のプチパニックである。
気付いちゃったら じっとなんかしてられず、抜き足差し足 歩み出した。
直ぐに一つ目の脱出口 表示を発見、扉の前で立ち止まった。
どうする!? 出るか!? ギブか!?
自問自答するも「出る、ギブ」の一択。
んんんー…ここまで来といて…
まだ体感的には道程の四分の一程。
この先、どんな仕掛けが在るかしれないのに 見ないだなんて、そんな勿体無いことして良いのか??
持ち前の“勿体無い精神”が立ち上がった。意味分からんだろ。
もう少し、進んでみよ…
ぶっちゃけ、今一番 怖いのは私の妄想力だ。
それさえ 払拭 出来れば、怖くは無い…はず。
「♪おばけなんて、な~いさ~」
大声で歌いたい。
「ほ○こわ!ごじぎり!」
大声で唱えたい。
気持ちをグッと飲み込み、ひたすら続く暗い、ただ真っ暗なだけの病棟を進んだ。
それにしても…
先程までとは打って代わり、仕掛けも何も何にも無い。
ただただ、暗いだけの廊下が続く。
えー…
やっぱり独りは寂しい。
なんて、孤独に潰され泣きそうだった。
正直、お化け よりも“独り”である事の方が、余程怖い…
なんて、悟りを開きそうな程、暗いだけの廊下を進んだ。
再び、階段に差し掛かり、エントランスに出た時だった。
「ゔお゙お゙ぉ゙ッ!」
突然、角の暗がりから飛び出してきたのは、ゾンビ姿の お化け係。
瞬間、私は
人が居た!
と思い 恐怖ではなく、誰か人が居た事に感激してしまった。
つい、ゾンビに向かって に~っこり と笑んでしまったんだ。
凍りつき 静止したのは、ゾンビ係。
──あ、ヤバ!
折角、驚かそうとして出てきたのに、悪いことしちゃった(汗)!
私がペコり会釈すれば、ゾンビ係もペコり会釈して ススッと、暗がりに引っ込んで行った。
いや 怖かったろうな、ゾンビ係の方。
思い返し自分の姿を振り返れば、怖いだろ。笑みは。
てくてく歩き、3つか4つ目の脱出口に辿り着いた。
階段上下し、恐らく現在地は地上階。
そういえば、ラスト50m位 全力ダッシュゾーンが在るって、聞いたな…
数人のゾンビが追いかけてくるらしい、しんがり の 絶叫空間。
ダッシュかあ…
走れるか?
…無理だな。
歩き回って背中の痛みも強い。
体感経過的には最後の脱出口。
これを逃したら、恐らく次は全力ダッシュ。
ううん…
私は、脱出口の扉を少し開けてみた。
見えるのは 大地に続く、太陽眩しい地上の景色…
そのまま、ひょいっと外に出た。
私は ラスト目前でリタイヤの道を選んだ。
建物の裏手から ぐるりと回れば、距離的に50m。
危なかった~…
ホッと胸を撫で下ろすも、若干の勿体無さは感じる。
──追いかけて来るゾンビ達を尻目に、ゆっくり歩いて逃げたら、どんな状況になるんだろう…
ちょっと やってみたかった興味は拭い去れない。
ゴール地点の建物には 完走者とは別の経路になっていて、物販コーナーが設けてある。
最初に間抜け面を記念撮影された、自分の単独写真がモニターに映し出されている。
──要るか?コレ。
あまりに酷い写真だし、お値段も そこそこ なのでスルーしてしまったんだが。
よくよく思い返せば、現役時代の自分の写真は殆ど残っておらず、話のネタに「買っておいても良かったな~」と思う。
レストランで まったり休憩している母親と合流した。
「アンタ、どこ行ってたの?」
「戦○迷宮、行ってきた」
目を瞬かせた母親の言葉。
「独りで入ったの!!? 気が知れない!!」
私も、そう思う。
自分でも、何で入っちゃったんだが よく分かんないんだ。
場の空気感か、はたまた本当に何かに取り憑かれでもしていたか…
考えると ちょっと怖いんで、止めとこ。
こうして 独り お化け屋敷を堪能した訳なんだが、この時点では、ホラーが得意になった訳では無い。
私、お化けは作り物なら、平気らしい。
本物が、多分ダメなんだ。
二度と独りで挑戦しようとは思いませんがね。
②に続く──
母親は、アレ⑨
時系列は前後するが、流れ的に『父方祖母の お墓参り的 家族旅行』を しばし。
富○急ハイランドで 独り散歩を終え、母親と合流する直前。
母親の待つレストランに向かう途中、特設ブースを見かけた。
ちょうど同時期行われていたのが『エ○ァンゲリオン』の期間限定イベント展示。
見・た・い・~…
生粋のオタクっ子である、私。
世代でもあり、もれなく『エ○ァンゲリオン』にも、どハマりした。
テレビ版・続劇場版・漫画に新劇場版…メインどころは網羅している。
独りで楽しめるかなあ…
語りたいじゃん。
誰かと語り合いたいじゃん。
てのが有り、後ろ髪引かれた訳だ。
「さっき『エ○ァンゲリオン』の特設イベントを見かけたんだけど…」
有名作品であるし、新劇場版もテレビ放送 結構してるし、映画好きな母親なら観ているかもしれない。
それとなく、話題に出してみた。
「『エ○ァンゲリオン』は見た事 無い」
おっとお。
これは母親誘って見れないパターンか?
「観てみたいとは思ってたんだよね。どんな話?」
あれ?
意外や意外、母親がエ○ァに興味を示した。
姉らも まだまだ、合流する気配は無い。
「行ってみる?」
「行く」
と いう訳で、母親と二人してレストランを後にした。
道すがら、あらすじを話したかったが、正直 私も理解しきれていない。
「テレビ版も漫画も劇場版も描き方は違うんだけど、とりあえず新劇場版を観れば大筋分かるから」
あらすじ放棄。
特設ブースの入口は、大型パネル装飾され、期待値に胸踊る。
大きな初号機の頭、見上げれば窓から父ゲ○ドウの姿。
センサーに反応して響く 効果音にボイス。
「乗らないなら、帰れ」
ひゃああああぁ(歓喜)
感動を打ち破るのは、母親の仕事。
「これは何?ロボットなの?」
「あ、あー…人造人間でね、これは兜なんだけど…ロボットみたいなもんです」
設定放棄。
壁のパネルを読みつつ、順路を進む。母親も立ち止まっては読んでいた。
興味は、あるんだろうなあ…?分からん。
第一話の第○新東○市の空間。
暴走する、あのシーンの再現だ。
人の背丈の初号機模型の前には、アクリル版にA○フィールドが描かれ正に今、破らんとしている。
人が立ち入り、記念撮影が出来るように造ってある。
うぅ、写真撮りたい…
思ったが、母親に遮られた。
「この透明なのは、何なの?」
「ええと…A○フィールドと言ってね、心の壁なんだけど…バリヤーです」
解説放棄。
こんな具合でテンション上がりかけては、突き落とされ。
お化け屋敷 独りチャレンジなんかしてないで、こっち独りで回れば良かった…
こういう展示は、少なくとも一度でも観た人と来るもんだな。
学びましたよ。
翌日は、メインの お墓参り。
母姉とタクシーに揺られ 山道を進む間中、私の心は浮かなかった。
私は父方祖母を覚えていない。
知っているのはセピア色した写真だけ。
私の名前には祖母の一字が入っているらしいが、名前すら知らないんだ。
その上、離婚した母親が先導するという、不可解な状態。
理解に苦しむ上、よく分かんない宗教ルール。
頭も気持ちも追いつかない。
「タバコ吸ってくる」
私は独り受付建物から出て、丘の芝生の灰皿に向かった。
「○○、行くよ」
呼ばれたけれど、私は動かなかった。
「行かない」
理由分からず母親に問い詰められるが「行かない」の一点張りをした。
行きたくない理由も言葉に出来ない悶々とした気持ちで、自分でも表現出来ない。
数分意地を張り「先に行ってて」と伝えて、お墓の順路に進む母姉を見送った。
気持ちの整理をしてから、追いかけよう。
そう考えていた。
ぼんやりと灰皿横のベンチに座り、景色を眺めた。
眼下には、川流れる草原。
川べりで楽しそうに遊ぶ、男の子達の姿。
背中、痛いなあ…
先日の歩き詰めが たたったか、五寸釘 打たれる。
振り返れば、墓地に続く道は上り坂。
上りたくないなあ…
天気良く、雪帽子被る そびえる霊峰。
空気、美味しいなあ…
私、何やってんだろ。
突然、ボロり涙が零れた。
止まらない。
拭う左腕に すがり 嗚咽も噛み殺せず、私は声を上げて泣いた。
何で泣けたかなんて、自分でも分からない。
落ち着くまで、随分と泣いた。
──はぁ。
乱れた呼吸を整え、綺麗な空気を吸い吐いた。
…タクシー降りたとこにバス停が在ったな。
私は パカッと携帯を開き、バスの時刻表を検索する。
1~2時間に一本のバス。
ちょうど数分後の到着時間。
『先、帰る』
一言だけメールを打ち、私はベンチから立ち上がった。
もう、この場にも母姉とも、一緒に居たくない。居られない。
理由なんか分からないけど、私は祖母のお墓参りはせずに、独り帰宅を選んだ。
車体の短いバスに乗り、駅へ。
間でバンバン母姉からメールやら着信やらあったけど、全部スルーした。
知らない電車の駅のホーム。
隅の灰皿でタバコ吹かして、列車の停車範囲に移動した時だった。
階段と階段の間に位置したエレベーター、容姿がバラバラの三人連れが降下したのが遠目に見えた。
──うわッ!
私の母姉である。
恐らくだが、私が「帰る」と言ったから、彼女達も直ぐに帰宅を選んだのだろう。
私は咄嗟に階段に身を隠し、様子を伺った。
母姉はエレベーターから出ると、私の位置から反対方向に並んで歩いていった。
背中が見えなくなるまで やり過ごす。
──危ねー(汗)
冷や汗かいた。
いや、何で身内相手に、ここまでコソコソせねばならんのだ。とは思いましたよ。
到着した電車のドアが開き、母姉が乗り込んだのを確認。
──同じ電車に乗っちゃったら、出くわす確率上がるよな。
背中痛いし さっさと帰りたかったが、私は その電車には乗らなかった。
ぼけ~っとベンチに座り、更に2~3本やり過ごした。
新幹線の券売機で、座席指定。
おお、喫煙車両が在る✨
当時は まだ残っていた喫煙車両。長い車両ウロウロしないで済むなんて、素敵過ぎる。
母姉は嫌煙家なので、一度も乗った時は無い。
ワクワクしながら乗り込んだ。
oh…
凄かった。
むせ返る銘柄混じったタバコ臭。
下手な喫煙所よりキツい。
日も沈み、小さな窓から見える山景は真っ暗闇。
窓ガラスに自分がうつっちゃって、何も見えない。
売り子さんからビールと新幹線のアイスを買った。
新幹線のアイス、好きなんだよ。
紺色の紙カップに金色の蓋、ス○ャータのバニラ味。
えへへ(喜)
座席でタバコ吹かしてビールちびちび、解凍待ち。
乗り換え駅に着く頃には、車両中 白煙 立ち込め、煙い煙い。
あれはねえ…無くなったのは残念だけど、私的には二度と乗らない。と思いましたよ。
こんな感じで ひとり旅を満喫した、私。
帰宅した頃には、すっかり気分も直っていた。
それにしても…私の人生って、逃げてばかりだな。
⑩に続く──
蟲の縁②
気分盛り下がったときには、虫。
完全に私の為だけに在る私欲コーナー、虫。
上げてくぞー⤴⤴ フルスロットル! ザ・蟲!
だってさぁ~あ、エロと虫の話はテンション上がるじゃない?
エロ or 虫!
エロは こないだ話しちゃったから、今回は虫!
エロい話も虫の話も尽きんな。にひひ♪
─キャベツ─
確か、キャベツだったと思う。
レタスかな?まあ、どっちか。
幼少期の事。
姉2号が学校の菜園で栽培したキャベツを持ち帰ってきた。
野菜の作り方とか知らない、私。
興味津々、冷蔵庫の野菜室を覗き込んでいた。
みずみずしい葉っぱが丸く幾重にも重なり、見れば見る程 不思議だ。
この葉っぱって、根元どうなってるんだろう?
一枚一枚 めくって、芯に繋がる太い葉脈を観察した。
──ん?
数枚めくった時だった。
根元に黒い隆起が溜まっていた。
土の色と違う、濃い灰色。
…ぎゃああッ!!?
ぬらり伸びる二本の角。
ナメクジである。
それも一匹では無い。
無数のナメクジ。
「母ちゃん!何かついてる!」
半べそで母親に訴えた。
「一々ギャーギャー騒がない!こんなの洗えば落ちるんだから!」
仕事机から立ち上がった母親は、野菜室からキャベツを取り出し、シンクの洗い桶に突っ込んでドバッと流水を流した。
うわぁ…(引)
しばらく家で野菜が食べれなくなりました。
─ナス─
台所で野菜の下ごしらえ。
本日のメインは、ナス。
焼きナス・揚げ浸し・麻婆ナス、ナス料理は何でも好き。
確か あの時は「ナスとピーマンの味噌炒め」にしようと思ってた。
ご飯が何杯でも進んじゃう 甘辛味噌の、アレだ。
ピーマンは半割にして種を取り 千切り。
変色するナスは後。
シンクに置いた小さなゴミ袋に向け、ナスの腹を持ち構える。
私は いつも、ナスのヘタはガクを削ぎ落としてから、キワキワで切る。
ほんの1cm足らずだけれど「勿体無い」と、思っちゃうからだ。
包丁の刃をガクと実の間に入れ、回しながら一枚一枚スッスとガクを削いでいた。
ピタリ包丁が止まる。
──ううん…?
ガクの下から現れたのは、直径 数mmの丸い穴。
まるで、竹割り箸でも刺したかのような、小さな穴。
ええー…このナス、虫食いかなぁ(汗)?
自然のものだ。虫がつくのも致し方ない。
だが、手に持つ実はツヤツヤと みずみずしい。
しなびてすら無かった。
──勿体無ぇな。
虫が食っていない部分は食えるだろ。
そう思い、手に持つナスの腹を少し下げた。
シンク上の空間で 包丁振り上げ、ナスの ちょうど 真ん中を狙い、振り下ろす。
…ゴトンッ!
切り落とされた、ナスの上部。
コロコロと横に転がり、止まったナスの、黄白く丸い断面が見える。
──あれ???
予想では、ナスを輪切りにした様な平坦な断面だったんだ。
が、見える断面には、中央に竹割り箸を刺した穴…
そうっ、と 手に持つナスの腹に頭を向けた。
「コンニチワ」
ぎゃあああああッ!!?
ど真ん中に空いた穴から顔を出したのは、穴と同じ太さをした、立派な青虫様。
ブンッ!ボタンッ!
シンクに投げ捨て、後ずさり。
はぁ…はぁ…
心拍高ぶり呼吸も乱れる。
心臓掴んで、しばらく動けなかった。
ええん、もう嫌だよお(号泣)!
ナスの上部・下部、ビニール袋に入れ口を縛り密封。
流石にね、捨てましたよ。丸々。
以来、ナスはガク下 入念に観察かつ、半割にする習慣が出来ました。
─枝豆─
パートナーが良く枝豆食ってた。
冷凍の、流水解凍するだけで食えちゃう、お手軽なやつ。
ひと袋 全解凍しては、ビール缶片手に一回で食っちまう。
あの日は ちょいと お高めの だだちゃ豆だったかな。
私も横から手を出して、ひょいぱく ひょいぱく、摘み食い。
一豆一豆 繰り出すなんて面倒な事はしない。
サヤごと口に入れて、歯で豆を扱き出すのが、ズボラな私流。
美味し~い♪
枝豆よりも風味強い だだちゃ豆に ご満悦。
…うん?
空になり山なるサヤ。
口から出したサヤで山を小高くする途中、手が止まった。
サヤに数mmの、爪楊枝で刺したかの様な穴が空いてる…
ぱちくり。
目を瞬かせ、サヤを観察しつつ、頬張る豆を噛み締めた。
ん、んんん!!?
舌に当たる豆はツルっとしていない。
異質な食感に慌てて、ペッと 手に出した。
──ぎゃあああああッ!!!
少し潰れた豆には、白い隆起した塊…
ボーダーラインの、あの姿…
例えるなら、小さくしたカブトムシの幼虫。
「食べちゃった!食べちゃったぁあ(号泣)!!!」
いやもう、大パニック。
「へええ、こんな事も有るんだね」
バシバシ私に叩かれながら、うだった幼虫を珍しそうに観察するパートナー。
他人事だと思いやがって、この野郎…
枝豆は皿に一粒一粒繰り出しては、ちまちま箸で食う習慣が出来ました。
─レタス─
親友らと居酒屋に集合。
ビールジョッキ片手にカンパ~イ♪
「何頼む?」
「適当に来たやつ摘む」
基本的に 言葉は悪いが 残飯処理班な、私。
いつも通り、あまり酒が得意でない親友らに料理注文は任せ、ビールに生グレ いつものルーティンを回していた。
「あ、こんなの有るんだ」
親友らが見つけたのは、だし巻き玉子で納豆をくるんだ、納豆巻き。
他にも なんやかんや注文して、テーブルに料理が並んで行く。
数杯 呑んで、ほろ酔い に心地好く、頭が ふわんふわん し始めた頃。
──あ、お喋りに夢中で全然食ってなかった。
目前の小皿に配膳された、サラダに目を落とす。
箸で ヒョイッと、大きめカットのレタスを摘んだ。
一口じゃあ無理だな。
レタスを半分かじり、箸を口から遠ざけた瞬間。
ぴーっと、糸が伸びた。
ああ、納豆の糸か…
卓上の数切れ残る 納豆巻きの皿を見た。
──待てよ。
私、まだ納豆巻き食ってない。
──え…じゃあ、この糸は、何の糸…?
箸で摘んだままの、糸が伸びる かじったレタスを見た。
「コンニチワ」
凍り付いた。
レタスの上で 鎌首もたげたのは、青虫様。
立派な立派な、多分モンシロチョウの幼虫。
ひいいいいぃッ!!?
悲鳴すら上げられない。
箸ごとレタスを小皿に置き、親友らに助けを求めた。
「────ッ!!!」
言葉にならなかった。
涙ぐんで口を押さえ、懸命に小皿のレタスを指さした。
「…え、どうしたの?…うわあ(引)」
私の異変に 親友らが気付いた。
小皿の上で、元気に うごめく 青虫様。
急ぎ店員の呼び出しベルを押してくれた。
「ご注文ですか?」
端末開く店員さんに向かい、小皿を指さした。
「うわッ…直ぐに新しいものお造りしますね!」
んーん、要らない。
私は無言で青虫様の這う小皿を店員さんに差し出し、頭をゆっくりと左右に振った。
青虫様は小皿に乗ったまま、バックヤードへと消えていく。
「…ほら見て!ここの野菜、有機栽培なんだって!
良い野菜だって証拠だよ(汗)!」
メニュー表のサラダページを開き、親友らが とりなしてくれる。
うん、そうだね。
虫が居るって事は、無農薬の証である。
だが、茫然自失な私は声が出せなかった。
「すみません、今日 店長休みで…」
駆けて来た店員さんのネームバッチには、副店長の記載。
あ、つい ネーム見ちゃうのは職業病。
店長の名刺をもらい返金対応してくれるとの事。
「ウチの野菜、有機栽培のものを使ってまして…」
うん、さっき聞いた。
もうね、無言で にっこり微笑むしか無かった。
その後どんくらい呑んだかな…
消毒と思って結構呑んだ。
まあ、青虫様本体を かじらなくて良かったですよ。
③に続く──
ホラーハウス②
これは“ハウス”の話では無いんだが“ホラー”な話繋がりで。
私自身の心霊(?)実体験は、何度か金縛りに遭ったくらいで、何で こんなにも怖がりなのかは分からない。
小さい頃は、学校の怪談的な映画が毎年放映されたり、テレビでも心霊的な話が放送されてたり、怖い話が多かった。
トイレも お風呂も 一人で入るの超怖くって、家の中で廊下ダッシュしたり 背後を振り返れなかったり。
思春期の頃、親友の一人とレンタルビデオ屋に行っては、阿呆な作品と怖い作品、二本借りては鑑賞したりしてた。
コンビニで本当にあった怖い話の本を買い回し読み。
稲○淳二を ひたすら観たり。
電気も消して眠れん怖がりなのに、何で そんな阿呆な事してたのか分からん。
…いや、分からんくはないか。
“怖いもの見たさ”である。
だって気になるじゃん。
怖いけど 知りたいじゃん。
そんなこんなで大人になるにつれ、やっぱ怖いって気付き、率先して怖い話を摂り入れはしなくなったんだが。
ある時、親友らに映画に誘われた。
ちょっぴり お得に映画が見れちゃう、レイトショーだ。
仕事上がりに映画館で待ち合わせ。
映画好きな、私。
親友らと雁首揃えるのも久々で、かなり楽しみだ。
「何観るの?」
「『呪○』」
oh…
ホラー、嫌だな。
思ったけど、時間的にも他作品に観たいの無く
親友らも私がホラーここまで苦手と知らないだろうし、水は差さずにチケットを買った。
──いや、怖い怖い(泣)!
鑑賞中、ずっと半泣きであった。
ジャパニーズホラー、怖すぎる…
上映終わり、肝を冷やして映画館を出れば、深夜の街並み。
「じゃ、またね」
翌日 皆仕事であるから、早々に解散。
原付またぐ親友を見送り、電車で帰宅。
他の面子とも別れ、最寄り駅の僅かな繁華街を抜ければ、辺りは真っ暗闇&墓地…
いやもう、背後に何か居そうで怖い怖い(震)
足早に帰宅しな、ガバッと玄関開け鍵を閉め、家中の電気を全部点け、着替えも そこそこ布団に潜り込んだ。
勝手に怖い思いに震えた。
ホラーはレイトショーで観るもんじゃない(泣)
まあ、そんな思いも日々の喧騒に薄れていくのも 大人であると、あっという間で。
すっかり忘れた引越し後の事。
自宅に親友らを招くのが、出不精な私の一番多い遊び方。
セルフサービスだから、皆 自由。
モ○ハンやったり、テーブルゲームやったり。
台所なんかも適当に使ってもらって、飲み物や軽食も自由に出してくれるから、楽ちんぷい。
憩いのひとときを満喫して、電車で帰る面子とは別に、遠方から出てくる一人を車で移送。
車運転するのは好きだから、これも親友らと集まる時の楽しみであった。
田んぼ林道、田舎道を夜のプチドライブ。
ガイド無くとも道は覚えている。
ルンルンで走らせ、親友を家で降ろし、帰路に着く。
『また、遊ぼうね♪』
なんてメール打ち、携帯をダッシュボードの小物置きに置いた。
田舎であるから、街灯はほぼ無く照らす明かりは車のヘッドライトのみ。
ピロリン♪
お、返信が来たな。
程よく信号待ち。
ダッシュボードに腕を伸ばし携帯掴み、パカッと開いた。
途端──
「あ、あ、あ、あ、…」
ぎゃあああああッ!!?
携帯から鳴り響いたのは、『呪○』伽○子の声だった。
「あ、あ、あ、あ、…」
何コレ何コレ!!! 止まないんだけど(号泣)!!?
いやもう、独り大パニック。
携帯閉じても止まらんし、信号 青になっちゃうし。
携帯操作も出来ないまま、車走らせ、伽○子の声に戦慄してた。
うええん!コレ何の呪い!?
もうね、呪い殺されて終わるんだと思いましたよ。
あんまり続くもんだから、暗い林道で停車するのも怖かったけど、路肩に車を寄せ、鳴り止まない携帯を 恐る恐る手に取った。
ルームライトを点けパカッと開けば、親友からメールが一通。
超長い、サウンドファイル。
親友が真似し録った、伽○子の声。
コノヤロウ…
ただの添付ファイル自動再生だ。
真っ暗な田舎道。バックミラーに映る無人の座席に誰か視えそうで、ルームライト点灯したまま帰りましたよ。
③に続く──
父親も、アレ③
色々すっ飛ばして、父親との最期の想い出を語ろうと思う。
元々、どうでもいい話を始めた当初から、父親の話をしたかったのは念頭に有った訳で。
この流れを逃したら、来年の夏まで語るタイミングが無さそうなので、しばし お付き合い願いたい。
現在、書斎として使ってる部屋。
半分 物置化している この部屋に、父親を引き取るつもりで越して来た。
父親も物持ち良いから、入り切らねばコンテナ倉庫 借りれば良いし、手狭であるなら広い方の部屋を あげても良い。
田舎であるけどバス停近いし、近隣には商業施設もあるし、生活する分には不便は無い。
まあ、父親も別の家に引越したばかりらしいし 急な話ではなく、ゆくゆく そう出来たらいいな、くらいの想いであった。
田舎に引っ込んだばかりの、数年前の春。
父親から電話が掛かってきた。
その更に数年前に ちょいと大喧嘩をしてしまい、久~しぶりの連絡であった。
父と喧嘩は初めての事で、仲直り出来てなかった。
「あー♪父ーちゃん!久しぶり♪」
なじられたら どう謝ろうかな、なんて考えつつ、私は極めて明るく 何事も無かったかの様に平静に、電話に出た。
『おー、○○!元気か~?』
父の声音も毎度の如く、明るい いつも通りの父親だった。
父も多分 私と同じで、喧嘩した後は、何事も無かった体で
しれっと仲直りする人間なんだろうな。
妙な ところが 似ちゃってる。
なんて思いながら、始まる雑談。
『シロがさ、夢に出て来たんだよ。あの、懐っこい子。シロに何か有ったのか?』
「え?別に何にも無いけど。元気だよ」
腕枕で いびきをかくシロは、いたって通常。
病気も怪我もしていない。
お前、何 父親の夢枕に立ってんだよ。
遠方も遠方。
わざわざ父親の夢に出るほど、お腹を空かせているのかい?
なんて、若干呆れた。
近況報告は映画の話。
これ、こないだ初めて知ったけど、姉は父と映画の話なんかした時無いらしい。
父ちゃん映画好きなのに、何で その話にならなかったんだろう?
『シニア割でさ、映画が千円で観れちゃうんだよ!もう、楽しくて楽しくて!』
「え~、良いなぁ、それ」
しばらく映画館には行っていない。
最後に観たのはス○ー・ウォーズだったかな?
この家からだと、映画館は どう行ったかな…
なんて、父親を引き取った後、映画館に行けるかどうかを考えた。
『今度さ、夏かな?ジ○ラシックワールドの続編やるんだ♪
ブルーってラプトル居ただろ。アレを助けに行くんだよ!
もう、楽しみで、楽しみで♪』
そういう話なんだ。私も観たいな。
久々、映画館まで観に行って、また父親と映画の話で盛り上がろう。
なんて、未来に父親と連絡取る口実を立てた訳だ。
「そういえば、テレビのリモコンずっと持ってんだけど、必要だよね。送ろうか?」
父親が以前 誤って送って来たテレビのリモコン、数年経過してしまったけど、まだ保管している。
『んー…ま、特に不便無いから、今度そっちに遊びに行った時にでも返してもらうよ』
あ、父ちゃん こっち来るんだ。
父に逢うのも久々で、出逢いしなハグする光景が目に浮かび、幸せな気分だった。
『今、そっち行く お金貯めてんだ』
色々と有ってから、父のお財布事情は芳しくなかった。
会社は まだ継続しているっぽかったけど、年金生活。
『インスタントラーメン有るだろ?5食入ってるやつ。アレで一食30円!』
いや、父ちゃん糖尿持ってるじゃない。そんな食生活しちゃダメ。
映画館を減らしなさい。
思ったけど、私も父親の旅費をカンパ出来る財力でもなくて、口煩い事は言えず長電話は終了した。
今度、父ちゃんと逢った時にでも「一緒に暮らそう」て、言お。
これが、父親との最期の会話。
④に続く──
ホラーハウス③
“人の死臭”て、ご存知か?
夏場の放置した生ゴミとも違う、人肉の腐った臭いと言うのは特有で、一度 嗅げば脳裏に焼き付き、忘れたと思っていても 再び嗅げば分かるものだ。
私は不確かなものも含め、過去 四度、死臭を嗅いだ。
そのうち三度は、私の父親だ。
三日に渡り、嗅いだ。
決して気持ちの良い話では無いので、苦手な方は読まないで頂きたい。
数日 掛かるだろう。
来週には、別の話をしてると思うから。
これは『父親も、アレ』及び『蟲の縁』の話でもあるんだが、タイトル的には『ホラーハウス』が一番 適宜であると思う。
数年前、春終わり梅雨入り前の、初夏のある日。
朝早くから充電中のスマホが鳴動した。
点灯すれば、母親からの着信。
こんな朝っぱらから何用だ。
いつもなら絶対 出ない。
だが、なんとなく時間帯的に不穏な気配を感じ、呼び出し音 長く止まぬ電話に出た。
「大変!父ちゃん亡くなったって!」
え──
一瞬では理解出来ず、返す言葉が出ない。
母親の話では、遠方に住む私の父親のアパートの一室で、身元不明の遺体が発見されたと言う。
確認の為、姉一号が先に向かった。
目視での本人確認が出来ない程、劣化が激しい遺体の身元特定にはDNA鑑定するらしい。
父親の家で発見された、身元不明の遺体。
状況だけ視れば 十中八九、父親である。
だが、万が一の可能性も拭いされない。
仮に父親では無かったとして、一体 誰の遺体なんだ?
私の父親は、どこに失せた?
『アンタ、行く?』
「あー…どうかな、無理と思う」
自分の体調的に、列島半縦断する長旅など出来はしない。
父親で無いなら 行かずども良いのでは。
思い、通話を切った。
呆然と、父親の所在を考えた。
私の父親は、一体どこに失せたんだ?
考えれば考える程、どちらの方向でも 最悪の未来しか浮かばない。
父ちゃんが死んだ──
ボロりと、涙が溢れ零れた。
勝手に上がる大声を、枕に顔を押し付け殺し泣いた。
涙止まらぬまま スマホを点け、母親の連絡先を開いた。
犯罪に巻き込まれていないか 犯してないか、確認せねばならない。
父親の生死を。父親の無事を。
「父ちゃんの所に行きたい」
現実問題として 移動・滞在、恥ずかしい話 私には旅費を用意出来なかった。
だから、母親に相談した。
この辺りは『母親は、アレ⑤』で語った経緯と被るので、割愛する。
以前、姉と「もう父ちゃんとこ行けないね、遠すぎる」「骨は拾ってあげたいね」なんて会話をした。
冗談のつもりだった。
まさか、本当の事に成るとは思いもしない。
私的には、あまりにも早過ぎる別れ。
訃報を受けた翌日、愛猫3匹の世話は当時まだギリギリ居たパートナーに任せ、母親と合流した。
─1度目─
父親の居住地ほど近く、姉と滞在ホテルを同じくするべく、駅を出た。
駅前にまで迎えに出て来てくれた姉。
ママチャリに跨っていた。
──何で?
ラフなワンピースにチャリ、あまりにも 地もピー感 溢れる出で立ち。
思わず、母親と指さして大爆笑しちゃったよね。
お陰で気は紛れた。
姉が言うには警察署やら火葬場やら、何度も往復するのに公共交通機関では時間が掛かる。
ホテルで自転車を貸してもらったらしい。
合理的っちゃあ合理的なんだが…姉も なかなかに アレである。
劣化激しく腐敗した遺体は死後一ヶ月程 経過しており、DNA採取に皮膚は無理、時間を要する爪で との事。
到着した時点では、鑑定結果は出ていなかった。
翌日の昼になるとの事。
早く着きすぎてしまったかな。
なんて思ったけど、独りで居ると よからぬ事ばかり考えて、不安に潰されてしまうだろうから、これで良かった。
その日は遠路の疲れを休め、晩飯に三人でラーメンを食べに行った。美味しかった。
そもそも、何で遺体が発見されたか と言えば、姉一号の通報による。
たまたま習慣では無い父の日ギフトを送ったら“受取人不在”で返ってきたらしい。
「おかしいな」と思い警察に通報したらしい。
虫の知らせか、ほんの気まぐれの事だ。
それが無ければ、遺体発見は もっと先になったかも知れない。
遺体が 父であって欲しくない 思いより、父であって欲しい 思いが強かった。
翌日、鑑定結果を聴いた。
父親だった。
良かった──
思う間もなく、涙が溢れた。
泣けてはしまうけど泣いてるだけ。
泣いてる自分を客観視している自分もおり、妙に冷静だった。
私の男女二面性によるものなのかな。
「これ、持ってきた」
私は一枚の写真を差し出した。
散らかった仕事机に着いた父親が、椅子を回して振り向き微笑んだ姿。
かなり引きで画質も良くなく、撮影したのも私が十代の頃で相当古いが、一番 父親らしいスナップ。
「遺影に使おうと思って」
引き伸ばして合成・修正すれば使えるはずだ。
写真館を検索して 姉と二人で向かい、引き延ばせるか尋ねた。
「修正に一週間は掛かる」
ううん、そんなに滞在しないし、要るのは火葬の時だしな…
形だけでも、きちんと飾って見送ってやりたい。
「多分葬祭場でもやってくれるはず。急ぎなら そっちの方が早いかも」
あ、葬祭場でもやってんだ。
姉は自転車で警察署に話を聞きに行き、留守番の私はベッドに横になりスマホを いじり続けた。
ネット検索していたのは、法律関連。
生前、父親から「相続放棄しろ」と仰せつかっていた。
会社の経営具合も知らないし、負債も残っているのかも分からない。
ひょっとしたら冗談だったかもしれない。
だけど、唯一 父親から聴いた遺言である。
父の思いは無下にしない。叶えたい──
何かに取り憑かれてでもいるかのように、相続放棄の親等・手続き・必要書類なんかの情報を、ひたすら集めた。
負債が有る場合、一親等の子だけ放棄しても、二親等の兄弟に請求が行く。
叔母二人も手続きが必要だ。
相続放棄は必要書類と料金分の切手を、地方裁判所に郵送するだけで出来るらしい。
私独りでもやれそうだ。
姉らも賛同してくれた。
やはり同じ話を父から聞かされていたらしい。
駆けつけると言ってくれた叔母二人にも連絡した。
賛同してもらい、書類は顔を合わせた時に書いてもらう事にした。
警察署から戻って来た姉に、部屋に呼び出された。
遺留品を受け取ってきたという。
oh…
姉の部屋は なんとも…洗濯物が干され 小物類が各所に配置され、生活感溢れていた。
この人、この部屋に住んじゃってるな。
と 思ったのは、内緒だ。
「これ、どうしよう…」
困り顔の姉が差し出したのは、ジップ○ックに密封された、二つ折りの黒い財布。
…なんか、湿ってる(引)
父親の着衣のポッケにでも入ってたんだろう。
多分この汁気は、父親から出たドリップ的なもの…
絶対、封を開けたらヤバいやーつー。
だが、中に現金等も入っているだろう。
相続放棄する以上、中身を検めねばならない。
異臭が部屋に残っては嫌なので、水で流せる乾いたユニットバスに 姉が買ってきたファブリーズを握りしめ、二人で閉じこもった。
「…開けるよ」
「…うん」
ゴクリと生唾呑む。
プッと、ジップ○ックの密封を僅かに解いた。
──ヤベえ(汗)!!!
プーンと漏れる、死後一ヶ月の死臭。
ヤバいよ。
死臭にも効くのか分からんが、開いた隙間からフ○ブリーズのノズルを差し込み、めいっぱいフ○ブり口を折った。
空間もフ○ブった。
「──ヤバいね」
「ヤバいね…」
姉と二人 顔を合わせた。
もうね、ヤバいしか出てこん。
動悸が治まるのを待ち 再び生唾呑んで、ジップ○ックの封印を解いた。
財布を袋から出す。
ぬらっとしてる(泣)!!!
姉と「ひいぃ」「ひえぇ」言いながら、財布の中身を全部出した。
中には、現金・診察券・買い物レシートなんかが少し入っていた。
生活費を下ろしたばかりか、万券も数枚 入っていた。
短いレシートの日付を見る。
父ちゃん、この日まで生きてたんだ…
念の為、中身と財布はスマホで写真を撮り 再び納めて、ジップ○ックで封印した。
これが、死臭1回目の経緯。
紙袋に入った遺留品の中から、アパートの鍵は私が預かった。
─2回目─
これに関しては、母姉・親族一同・関係者各位に、申し訳ない事をしたと思っている。
本当に申し訳ございません(礼)
あらかじめ言っておくが、決して 怖いもの見たさ などの興味本位では無い事を、ご承知願いたい。
全ては“子としての責務”として、父親の最期を知っておきたかった。覚えておきたかった。
翌日、遺体の引き取りから 火葬までを一気に執り行う。
仕事で遅れた姉二号と合流し、親族の迎えは母親に任せ
きょうだい三人で警察署に向かった。
聴取室だろうか小部屋に通され、三人並んでパイプ椅子に座り、対面の刑事さんから顛末を聴いた。
発見された遺体は2DKの一室、ベッドの横に転落して横臥した状態だったと言う。
初めて見た本物の死亡検案書には「心不全」の記載。
つまり、死因は不明だった。
腐敗した遺体に外傷・傷病の形跡は無く、寄生したハエは世代が3巡目に入ったところ、死後約一ヶ月。
死亡推定日時も あやふやで、月末10日間に渡る記載。
昨日 確認したレシートの日付は、期間の前半だった。
つまり、私の父親に命日は無い。
刑事さんは始終お優しく、泣き続ける私を慮ってくれた。
心張りつめ泣いているように見えただろうが、泣けるだけだ。
意識は刑事さんの話を 一言一句 逃さず聴かんとして、ハッキリしていた。
最後に質問が有るか聴かれた。
「父親を見せて下さい」
姉にも刑事さんにも止められた。
「姉らはいい、私だけで構いません。
泣くだろうけど気は狂れません」
私の意思の固さに直ぐ姉らも黙り、刑事さんも 相当悩んでいらした。
「もう、知ってる父親の姿では無いよ」
「分かっています。どうか…」
しばらく要望を貫き、刑事さんが折れて遺体安置所に電話してくれた。
「──え!?もうパッキングしちゃった!?見たいんだけど解けない?
…車乗せるところ!?」
あぁー…
刑事さんの電話の応対で全てを把握した。
もう一度 説明してくれて、火葬の時間も迫っており、父親の遺体を見るのは諦めざるを得なかった。
火葬場でタクシーを降りた時、丁度 父親の簡素な棺が降ろされるのと被った。
だが、流石に誰が通るか分からない屋外で、傍迷惑な行為は憚られる。
特殊な代車に移され火葬場に運び込まれる父親の棺を、指をくわえて見物した訳だ。
母親が急遽 出発前に用立ててくれた礼服に着替えた。
「アンタのサイズ無くてデパート探し回って一着だけあったやつ、5万円もしたよ!」
高ッ!?
そんな事なら、近所のスーツ屋で安いの探したのに…
なんかデカいし。
世話になってるから言えずにいるかと思いきや、どっこい きちんと言った。
だって勿体無いじゃない。
私が買ってきたペラやっすい靴と ちぐはぐだし…
まあ、仕方ない。
父方親族と顔を合わせるのは かなり久々の事で、最後に会ったのは従姉妹の結婚式だったかな…十年以上 連絡を取っていなかった。
ええ、皆 私の変貌ぶりに度肝を抜かれておりましたよ(遠い目)
火葬場の一室には、葬祭屋に依頼した父親の遺影が飾られていた。
スーツと背景を合成された、ややピンボケした顔写真だったが、父親らしいと好評だった。
持って来て良かった。
宗派も分からんので、お経も上がらず黙祷のみだったかな。
「最後に、何か有りますか?本当に、最後ですよ」
あ…
父親が、燃えてしまう…
「○○!」
どしんっと、私の両肩に大きな手が置かれた。
親族一同の目の前で、迷う私の名を呼んだのは、叔父だった。
「言いたいことが有るなら、今だぞ!」
私が離れてる間にでも姉から聞いたのか定かではないが、
叔父が私の背を押してくれた。
力強く暖かな大きな叔父の手に、私は申し出た。
「──父親に、さよなら を言わせてください。
他の方達には見えないように、私だけ、お別れをさせて下さい!」
ガバッと、母親に腕を掴まれた。
「止めなさい!父ちゃんだって、変わり果てた姿 見られたくないよ!」
そんなの、今更 本人に確認しようが無いじゃないか。
親も子も、大切な人を亡くした時の無い貴女には 分からない。
「──分かってる。私が見たいんだ。母ちゃんは黙ってて」
口煩く咎める母親に、始終ボロ泣きしてた私の言葉は全く説得力 無かったと思うが、なんとか黙ってもらい、一歩進み出た。
警察署で話は聴いた。
父親の姿は想像がついている。
火葬場の方は一瞬 言葉を失ったが、幾重にも巻かれた棺のテープを剥がし、親族方面に蓋を立てかけ支えてくれた。
ぷーん と、立ち込める死臭。
──あ、ヤバ。
臭いまでは予想していなかった。
私の我儘で、親族一同にも嗅がせてしまったんだ。
脳裏に焼き付く、人の死臭を。
加えて人の体積から放たれる死臭と言うのは膨大で、一瞬にして火葬場の一室に臭いが充満してしまった。
本当に、申し訳ない。
あまり時間は掛けられない。
思いながら杖を着き、壁側側から父親の棺を覗き込んだ。
「──父ちゃん、こんなに小さくなっちまって…」
薄紙に巻かれ、棺の中でも横臥した状態の父親。
ふくよかだった肉は痩け、頭髪と着衣は無く、皮膚は茶色く変色しミイラ化していた。
火葬場の方がめくってくれてはいたが、薄紙が まだ若干 顔を隠していたので、少し持ち上げた。
ぬらっとしてた。
薄紙にも、父親の体にも、父親を養分に育った
まるまる肥えた蛆くん達が元気に這っていた。
君ら、燃やされてしまうんだね。
なんて考えながら、父親の最期を目に焼き付けた。
──なんか、鮭とば みたい。
と 思っていたのは、内緒だ。
生産者さんに申し訳ない例えだが、以外に思い付かない。
人はね、死ぬと 鮭とば になってしまうんだよ。
溢れ続ける涙で視界が歪む。
「…ありがとうございました」
蓋を支えて下すってた火葬場の方に礼を言い、父親との短い最期の面会は終わった。
棺の蓋の顔窓にもテープが貼られていて、警察署の方が大変 臭いに対策をなさっていたと察する。
蓋がされたところで、残り香は しつこく充満したまま。
この場を借りて、火葬場・葬祭場の方々・親族一同に、改めて御礼申し上げる。
ありがとうございました(礼)
臭いは本当に申し訳なかったけれど、私は父親の姿を見られて満足です。
後悔など微塵も無い。
これが、死臭2度目の経緯 及び 冒頭で姉が呟いた「おとんのトラウマ」の正体。
私は自ら進んで父親の最期をトラウマにした。本望だ。
心に深く刻まれた傷と共に、私は父親と生きていく。
決して、忘れはしない。
死臭残る火葬場の一室で、父親の棺は かまどに納まり重厚な扉が閉まった。
「着火ボタンを代表の方に押して頂きます」
あ、押したい。
思ったけど、私は末っ子だし喪主の役目だ。
邪魔にならないよう後ろの方に控えていて 名乗り出なかったんだが、姉一号のトラウマになるくらいなら、私が押せば良かったな。
火葬場の方は時たま手を気にしていらした。
分かる、分かるよ。その気持ち…
私も めっちゃ 手、洗いたいもん!
特に貴方、ぬらんだ薄紙ガッツリ素手で掴んでたもんね!
焼き待ちで速攻、だれでもトイレで手を石けん付けてバシャバシャ洗ったけれど、なんか残ってる気がして堪らん。
灰皿で叔母と顔を合わせたので、礼と謝罪をした。
「良い兄貴だった」
と、語ってくれた。
待合にテーブルを囲んだ親族一同。
叔母の手から 祖父母の墓は、私が引き継ぐと申し出た。
いつか墓参り出来なかった、あの墓だ。
「どういう状態か分からないんだけど」
叔母が差し出したのは、父親が加入していた生命保険の通知ハガキ。
受取人は姉二号。
しばらく見つめたが、考えたところで らちがあかん。
私はスマホでハガキに記載された電話番号にコールした。
聞いた方が早い。
姉の誕生日で照会してもらった。
生活逼迫していた父。
生命保険のサービスの一つ、契約者貸付金でも使っていたんだろう。
幾ばくも保険料は残っていなかったが、僅かにでも足しになりホッとした。
父親の骨は、私が預かる事を皆に了承頂いた。
そんな間に、姉一号が ちょいちょい離席していた。
スマホを耳に 何やら揉めてる感じで、姉が折れそうになっていた。
電話が切れた合間に話を聞けば、姉の義父が「父親の骨は長子が預かるもの」と言い出して聞かないらしい。
前時代的だな。
更に末っ子が預かると伝えたら「そんな事なら家で預かる」と言い出したらしい。
いや もう、意味分からん。
「次 私に代わって。『最後の親孝行させてくれ』て お願いする」
次の電話は無かった。
どうも義兄が父親に喝を入れて場を収めてくれた模様。
義兄さん、本当に ありがとう(礼)
後に母親が「何で意味分かんない事言うかね」と漏らした。
貴女も似たような事、言ってましたからね!お互い様ですよ!
父の骨を順に拾い、残った骨を拾い集める役目を担った。
涙に震える手元。
「もう無理…」
暖かく背を支える叔父に訴え、収骨は終了した。
─3度目─
片付けねばならない現実問題が、山ほど残っていた。
遠距離を往復するのは骨が折れる。
滞在期間を伸ばし、現地でやる事は全て解決するにした。
延泊するのに、姉が同じホテルを手配してくれていた親族のチェックインを待った。
屋外灰皿の横にシルバーカーを据え、白い布で包み結ばれた父親の骨壷を膝に乗せ、ぎゅうっと抱きしめた。
父ちゃん、ハグだよ。えへへ♪
父親の小柄だけれどムチムチ真ん丸なビール腹の感触を思い出し、幸せだった。
私の部屋に姉二人と集合、家族会議。
何故か母親も同席していたけど、気になんかしない。
金銭面では私は協力出来ない。
今回、姉一号は警察署や火葬の手配など緊急性の高い問題を担い支払ってくれた。
姉二号は今後の片付け費用を全面的に出す、と言ってくれた。
現状 私に出来る事は、ただ一つ。
自分の体を遣う事。
すなわち“動く”事、のみ。
こうやって、きょうだい で役割分担が綺麗に別れた。
三人きょうだい だったからこそ、全てを やり切れたと言っても過言では無い。
独りでは、決して片付けきれなかった。
法律には疎い者たち。
相続放棄と住居の清掃など、分からない事が多過ぎる。
私は地元の法テラスを検索し、電話を掛けた。
込み合った事情に親身に相談に乗ってもらったが、電話だけでは分からない部分も多かった。
あわよくば無料相談 出来ればと思ったけれど、滞在も そう長くはないし 土日も噛んでいるし、有料の近場の弁護士さんを紹介してもらった。
背に腹はかえられん。
言い出しっぺだし、流石に弁護士費用は私が持とう。
翌日、仕事の兼ね合いで一泊しか出来ない姉二号と、きょうだい揃って弁護士事務所を訪れた。
費用面は私の手から離れ姉二号に渡ったので、この辺り間違った覚えをしていたら申し訳ない。
相続放棄と父親住居の原状回復。
私が検索した限りでは、放棄する者の住居から、何一つ持ち出しては いけない。
的な感じだった。
持ち出した時点で、相続放棄が出来なくなる可能性。
だが、異臭立ち込める住居を放っておく訳にもいかん。
近隣住民 及び 管理会社・大家さんに多大な迷惑になってしまう。
早々に特殊清掃を入れる必要が有る。
如何様に。
「放棄する以前に清掃してしまうと問題有るが、放棄が済んでから清掃するには問題無い」
あ、そうなんだ。
初めての事に、難しく考え過ぎていたようだ。
ついでに警察署から返却された父親の遺品、特に現金の入った財布について尋ねた。
「警察署員が持ち出した証拠品なので、持っていて大丈夫」
幾ばくでも足しになれば、と財布は姉二号に託す事にした。
その他諸々、相談に乗ってもらい、最後に「もし弁護士に依頼する事が有れば、住んでいる近隣の弁護士より、地元の弁護士に依頼した方が良い」と ご助言頂いた。
遠距離往復の交通費が別途、請求されるからだ。
地元で話を聞いて良かった。
弁護士事務所を後にした その足で、父親住居の管理会社を訪れた。
どの道、特殊清掃の前には数日 消臭期間が有る。その間に、相続放棄を済ませる。
清掃のタイミングやら延滞している家賃、これから掛かる家賃等 姉二号が主立って話をした。
管理会社では、ガスや電気の契約状況は管理していない。
こればかりは、父親住居に立ち入り、確認しなければならない。
言い出しにくそうな管理会社の方々に、私はサッと挙手した。
「はい、私 やりまーす」
やや軽い感じで言ってみた。
父親の最期の姿を見ているのは、私だけだ。
とうの昔に、覚悟は決まっている。
これは、私にしか出来ない仕事だ。
月曜に姉一号が役所関係を片付けている間に、私は単身 父親住居に行く事にする。
姉二号を見送り、何故か残った母親と三人で空いた日曜は観光に当てた。
正直ゴロゴロしていたかったんだが、近場の大きな神社を巡った。
枕元の父親の骨壷には、毎晩 晩酌ビールをコップに半分お供え、手を合わせる。
「父ちゃん、お酒呑めてなかったろうから。今だけだけどね」
なんて、言いながら。
どの日だったか忘れてしまったんだが、朝 コップのビールを頂戴して、飲みかけのネジ蓋の缶コーヒーを口に含んだ時。
──んん!!?
口の中に広がる強烈な苦味、連日飲んでる自販機のコーヒーの味では無かった。
何コレ!?腐ってる!?
ジャリつく不快な粒粒が舌に触る。
慌て流しで吐き出し、中を覗けば、浮かんでいるのはタバコの吸殻…
そう。私 灰皿代わりに使ってた水入り空き缶を、ウッカリ飲んじまったんだよね(遠い目)
めっちゃ口ゆすいで大騒ぎ。
タバコはね、吸うもんであって、飲むもんじゃないよ。
最終日。
荷物をまとめ、大家さんに挨拶するという姉らとタクシーを共にした。
荷物と言っても着替えなんかパンツと靴しか持っとらんかったから、ナップザックと小さい紙袋だけなんだがね。
独り残って、父親住居への階段を登る。
2階の角部屋、ドアの前に焚かれた線香と一輪の花が供えられていた。
どなたか分かりませぬが、ありがとうございます✨
私も1本拝借して、ライターで火を点け手を合わせた。
さて、と。
窓や扉の新聞受けには目張りされていたけど、若干外まで漂ってくる死臭。
──これ、近所の人 嫌だろうなぁ…
思いながら預かっていた鍵で、住居のドアを少し開いて、すぐ閉じた。
──ヤベえッ(泣)!!!
初夏の むっとした閉め切った屋内。
ひと月以上 放置された死臭は、想像を遥かに超えた濃ゆさだった。
加えて、床に点在した黒い粒粒…
や…ヤツらが~(泣)
私は荷物の中から、火葬時に履いていたペラやっすい黒靴に履き替えた。
お気に入りだったんだよ、履いてたやつ。
ペラやっすい靴は、靴底も薄くって、小石の感触すら抜ける。
あまりドアを開けておくのはよろしくない。
私は、ちょろっと開いた隙間からサッと入り、速攻 閉めた。
警察署で聞いた話と父親に付いていた蛆くんから、少しは想像していたけれど…
床を埋める おびただしい黒い粒。死滅した蝿の亡骸。
避けて歩く、だなんて事が出来ない程。
私は、固唾を呑んで土足のまま一歩 踏み出した。
パキパキパキパキッ
──ひいぃえええぇ(号泣)!!!
瞬間的に、古い映画のワンシーンが思い起こされた。
『イ○ディ・ジョーンズ』で、洞窟に探索に入ったインディに、助手の中華少年が言ったセリフ。
「おみくじクッキー踏んでるみたい…」
あれね、正確な例えだよ。
本当、おみくじクッキー踏んでるとしか思えなかった。
──いかんいかん、私は姉の手足なんだ!
こんな事で怯んでいては前に進めん!
自分を奮い立たせ、生活感溢れる散らかった、死臭立ち込める屋内へと進む。
父親は潔癖だけれど、何でもテーブルの上に置いたままにする癖が有る。
案の定 掃除前か、居間のテーブルの上は調味料や雑貨で山が出来ていた。
私と同じだな…妙なところが似てるんだから。
私の経験上、郵便物は このテーブルの上だ。
助かることに大蝿は ほぼ死滅して、わんわん しつこく飛んでいるのは小バエのみ。
ガス・水道・電気の伝票は 上の物を少し寄せただけで簡単に見つかった。
契約会社・お客様番号が分かれば、方方 電話しないで済む。
弁護士さんに「資産価値の無いゴミは持ち出したり処分しても大丈夫」と、伺った気がするが…
この家から何か持ち出す勇気、無い。
スマホで写真を撮るだけにする。
ポタッ
机上に並べた伝票に、汗の雫が染みを作った。
──暑い。
初夏の締め切った天気の良い日中の屋内は、蒸し風呂状態。
チラッと天井間際を見上げた。
エアコン、点けたい…
いや、ダメだろ。
折角 封印されている死臭が、表に解き放たれてしまう。
そう思い心頭滅却するも、ダラダラ流れる汗を、半袖で拭い拭い捜索作業を進める。
後 必要なのは、凍結しなければならない口座、カード類の支払い状況、携帯の契約元etc…
結構ね、生活で密な契約系って 多岐にわたるんだよ。
こういう少し大事系の通知や封書は 私の経験上、仕事机の上だ。
父親の仕事机も、食卓と同じく騒然としている。
立派なモニターのパソコンは、スクリーンセイバーのまま点灯していて、手前にはタブレット式のノートパソコン。
これ、欲しい。
流石 父ちゃん、良いヤツ使ってる。
なんて思ったけど、死臭と蝿の死骸に まみれていて、処分してもらうのが適切かな。
仕事机で雑多に重なる紙類を 一枚一枚チェック。
出てきたのは請求書と領収書と通帳、父の友人からのハガキくらいだったかな。
ううん、アテが外れたな。
父親のことだから、大事な契約関係は どこかに整理されている可能性も…
と、顔を上げた瞬間に見つけた。
仕事机の隣の細い本棚には、ラベリングされたファイルの列が数段。
あ、ここだ。
タイトル分け されていて、凄く探し易かった。
会社の形態なんかは「代表が死亡した場合、数年後に消滅する」て聞いてたから必要無かったけど、一応 写真に収めた。
電動自転車、とタイトルされたファイルが一冊。
あー…父ちゃん、自転車買ったばっかだって言ってたな…
鍵束にも自転車キー。
確か、階段下に一台ポツンと置かれた真新しい電動自転車が在った。
ううん、住居から離れていて 清掃員の方に、この家の物と思って貰えるだろうか…
若干 不安を覚えたので、一度表に出た。
自転車のキーを差してみれば、ロックが外れる。
やっぱり…
このままにしておくのは、どうなんだろう?
忘れられても困るし、家に入れておくに越したことはない。
そう思い、自転車を押してアパートの鉄の階段に向けた。
──重ッッ!!
電動自転車の重みは、想像以上だった。
筋力が極限まで落ちた私の力では、階段一段すら上げられない。
階段側から引っ張り登ってみようと、アプローチに四苦八苦。
結構ね、ドスン!バタン!ガシャン!独り大騒ぎしちゃってたのよね(遠い目)
「どうしたんですか?」
階下に住む ご婦人だろうか、声を掛けてくれた。
「あ!うるさくしちゃって、ごめんなさい(汗)!」
父の詫びを入れ、事情を説明した。
「置いといて大丈夫ですよ、持ってく人とか居ませんから」
「あはは…じゃあ、お言葉に甘えて…」
私ずっと階段に腰掛けた状態で振り向いたまま ご婦人と話す、なんて不躾だったんだけど…
あの時、階段と自転車に挟まれて身動き取れない有様だったんです。本当にごめんなさい(礼)
最終チェックに再び父親住居に戻る。
見落とし無いか、屋内全体を撮影する。
不慮の死を遂げた魂は地縛霊になる、みたいなのってホラーの鉄板じゃない。
ひょっとして、父ちゃん写りこんだりしないかな。
なんて思ってシャッターを切ったんだけど。
霊障的なモノは写らなかった、と思う。
遺体発見現場である寝室には、大きなテレビとス○パー映画チャンネルを録画したDVD郡。
ダブルサイズのベッドの横で、私は立ち止まった。
何か、落ちてる──
それは まるで、雨に濡れたカツラ。
父ちゃん、つるっパゲになってたのって、検死解剖の時に剃られたんだと思ってたんだけど…
これ明らか、頭皮ごとズルンと剥がれ落ちた髪の毛、だよなぁ。
私はしゃがみ しばらく葛藤した。
時間経過で自然に落ちたものか、はたまた遺体を運び出す時に落ちたものか、定かでないが。
父親の遺髪である。
──これ、持って帰った方が良いのかなぁ…
悩んで悩んで、清掃で片付けて貰うことにしましたよ。
明らか資産価値なんか無い生ゴミだけど、ちょっとね、アレは触る勇気出ない(遠い目)
あらかた写真に収め、姉から預かっていた 正直 処分に困る 父親が着ていた衣類の紙袋と、自転車の鍵を分かるように玄関先に並べた。
共用廊下で靴を替え、ペラやっすい靴は玄関に入れ置いた。
だって、めっちゃ虫 踏んでんだもん!持ち帰りたくないよ(泣)!
これが、死臭3度目ホラーハウスの経緯。
これね、要る情報か分からんけどスマホ以外に「有ったら良かったな」て思った物品を記しておく。
・ビニール袋2枚、輪ゴム2本(靴に掛ける様)
・汗ふきタオル、汗ふきシート、ウェットティッシュ類
・保冷剤(自分冷却用)
・効果有るか分からんが、フ○ブリーズ
・着替え
この辺は、欲しかったな。
遠方に一人親が居る方で、少しでも不安要素が有り お財布に余裕が有るのなら、民間警備会社等の見回りサービスを使って欲しい。
転ばぬ先の杖、大事ですよ。
人生、何が起きるか分からない。本当ね。
脱線しまくって一週間では語れなかったか~…
分けるのもどうかだよな…
も少し続きます(ペコリ)
─帰路─
父親住居に2時間程こもっていたかな。
姉は まだ役所に居ると言う。
タクシー呼んで、合流しなきゃ。
アパート前の空き地にシルバーカーを据え、腰を着けた。
スマホで検索したのはタクシー会社。
土地勘など全く無い。
2~3社 電話してみたが、送迎範囲外だから、と断られてしまった。
う~ん、困ったな…
来る時乗ってたタクシーの名刺を貰っておけば良かった。
ポチポチ絞込み検索を掛けている時のこと。
アパート前に1台の白い車が停まった。
小箱を抱えて降りて来たのは、先日 話をした、アパートの管理会社の方。
「あ、終わったんですか?」
気さくな感じに声をくれた。
「終わりました。どうしたんですか?」
話を聞けば、異臭対策に消臭・除菌が期待出来るオゾン発生装置が、倉庫から届いたので設置しに来たのだと言う。
「良かったら、役所まで送りましょうか」
めっちゃ助かる(喜)✨
捨てる神あれば拾う神あり。
✨
まさにそれ。
オゾン装置も本当見れてラッキー。
「大型台風近づいてるから」と 玄関扉前の線香セットと花は撤去されてしまったけれど、また供え直してくれると言う。
色々と作業が終わるのを待ち、車に乗り込んだ。
もうね、ぐったぐたのボロ雑木。
汗も汁だくで車のシートに深く座るのは気が引けたけど、気遣いなんて出来ん。
そして…何か臭い。
いやまあ、アレだけ密室にこもってたんじゃあ、鼻に残ってても仕方ないな。
なんて思い、つつ世間話。
「ありがとうございました!」
役所で母姉と合流した。
まだ住民票やら謄本やら、相続放棄に必要な書類を出してもらってるところだった。
早速、屋外灰皿で一服。
ぼんやりと、風に漂う死臭…
──あれ??
この臭い、ひょっとして自分からしてる!!?
腕やらTシャツやら嗅いでみたが、もうね、自分じゃあ判断出来ん。
呼びに来た姉に聞いてみた。
「私、臭いかな」
「うん、臭い」
ですよね。
慌てて残ってたフ○ブリーズを荷物から出してもらい、役所の一角でギャーギャー騒ぐ三人。
頭のてっぺんから これでもかと直掛けしてもらった。
んだが。
ううん、全然臭いよ(泣)
自分が巨大な異臭元。
電車を乗り継ぎ新幹線へ。
三人がけの一番通路側を陣取り、テーブル開いて駅弁を食べる間も気が気でない。
今度は、新幹線という密室…
ここに臭いまま5時間以上だと!? 勘弁してくれ(泣)
もうね、座席でぐったり座ってるなんて出来んかった。
私はテーブルにスマホとメモ用紙を出してボールペンを構えた。
始めたのは、撮影してきた伝票・帳票類の書き写し。
即連絡せねばならない場所の、簡易一覧表を作成した。
「ちょっと電話してくる」
杖を片手にデッキに移動。
方方へ電話開始。
父親住居から私の家への郵便物転送届け・生活用口座と会社口座の凍結依頼・水道ガスの退会etc…
途中喫煙ブースで休憩しつつ、出来うる限りの連絡は全て新幹線中で行った。
だって ほら、デッキなら風が通るから座席に居るよりマシかなって思って…
携帯の解約は来店が必要との事で、後日行く事に。
電気だけは清掃でも使うし、何より大きな冷蔵庫にギッチリ作り置きのタッパーが詰まっていたから、契約者死亡の連絡をして契約を姉二号に変更。
残金は姉二号に依頼するため整理してメール作成。
そういえば…テーブルの上に数切れ食べた食パン袋が在ったな…
冷蔵庫にぶっ込んでしまえば良かった。
まあ、カビたところで遺髪よりはマシか。
特殊清掃の方々、本当にスンマセン(礼)
ネットやカード類の支払いが生じる場所へは、契約者死亡と相続放棄をする旨を連絡した。
なんやかんや結構、番号検索したり回されたり、時間が掛かって気づけば残り1時間程。
このくらいなら、騒ぎにならないかなぁ…
今度はね、自分が一人で帰る為の体力を回復させねばならん。
座席に戻って新幹線アイスを食べた。
美味かった。
母姉と分かれ、骨壷と礼装をシルバーカーに乗せ、ビール買って呑みつつ 最寄り駅まで。
タクシー使いなさい、て言われてたけど珍しく家までのバスが入って来たとこで飛び乗ったっけな。
バリアフリーでない旧型バスで多少もたついたが、意外と大荷物でも乗れるもんだな、なんて発見だった。
帰宅して早速、さっさとゴロンしたいし 猫達と戯れたいけど、シャワーを浴びた。
ようやく、スッキリサッパリ✨
──した~♪と思われるでしょ!?
どっこい!!
なのよ!
ところが どっこい!!!
人から放たれた死臭ってのは、成分的に人と同じなんだろうか…
細胞レベルで皮膚に浸透した死臭は、お風呂入っても入っても「なんか、残ってる…」
一週間 落ちませんでしたよ。マジで(遠い目)
全部やりきるには1ヵ月程要し、走破した馬車馬は寝込ませて貰った。
暇な時で良かったよ。
④に続く──
おまけ─4度目─
あれは本当に最近、それこそ去年くらいだったかな。
午前中の病院予約まで時間があって家からだとバス一本なんだが、何とな~く秋晴れに天気も快く、大回りして電車を使うことにした。
散歩しよ♪
最寄り駅までのバスも途中下車。
シルバーカー押し、ぽてぽて歩くは懐かしい道。
ああ そう、この駐車場 借りてたっけ。
この公園、いつもゲートボールが熱いよな。
おお、なんか外壁がオシャンティな色に変貌してる!
歩いていたのは二十年程昔、生活していた“汚部屋先輩宅”付近。
この辺はあまり変わらんなあ。
なんて懐かしく思いながら散歩を楽しんでいた。
メインの道路へと出る一方通行の枝道。
よく使っていた角の○ーソンは、コインランドリーに建て直っていた。
当時、これが在ったら めっちゃ使ったろうな…
なんて、思った時だった。
──ぷうん
あれ?何か、覚えの有る臭いが…
風に漂ってきた臭い。
思わず、立ち止まった。
──間違いない!人の死臭だ!
数年 嗅いでなんか無かったけど、昨日嗅いだかのように鮮烈に、脳が“死臭”と判断した。
どこだ!?
それこそ、ひと月放置された父親住居の外に漂っていた臭いよりも強い。
辺りを見回すも 風に流れる異臭元を、特定するには至らない。
とあるアパートの二階が、何だか気になって見上げた、私。
一室の窓から覗く人影と目が合った気がした。
──怖ッ!!!
持ち前の妄想力がフル作用して、白昼夢を視た。多分ね。
──これだけ濃ゆく異臭が漂ってたら、とっくに通報されてるよな。
ゾッとしちまったもんだから、私は特に通報もせず、ただの通行人に成り下がった訳だ。
あれね…スンマセン(礼)
線維筋痛症と私⑩
─魔女の一撃☆一打目─
恐らく私が寝ずっぱりになった最たる要因である。
そう、“ぎっくり腰”だ。
西洋では“魔女の一撃”って言うんだって。お洒落じゃね?
なんやかんや すっ飛ばして、派遣SEを退職した後、すぐには働かず、しばらく休暇をとり、心身を回復するつもりであった。
確かに毎日5畳半でゴロゴロとしていて、大して動いてなかったんだから代わり映えはしないんだけど。
それでもね、冷蔵庫無いから毎日スーパーまで歩いたり、時たま遊びに出たりなんかは出来てたんよ。
そんな自堕落な生活が続く、ある日の朝…
起きた時間だから、夕方かな。
とりあえず動き出そうと
ベッドから降りて薬を飲もうとした、私。
ドターンッ!ピキ☆
──ッ!!?
ベッドから落ちた。
えぐい落ち方をした。
普通ベッドから落ちたって、水平に転がり落ちた様な横臥した状態を思い浮かべるでしょ?
違うのよ。
ベッドと垂直に伏せで落ちたのよ。
足の甲がベッドの上に引っかかってて。
床に強打したは、反射的に出た両膝両掌。
お分かり頂けるかしら、四つ這い状態だった訳ですよ。
そんな状態で勢いよく転落したもんだから、腰椎にかかった衝撃はハンパなく。
──ッッッ!!!
もうね、痛いとか言葉にならない。
溢れる脂汗。
足の甲を どうベッドから降ろせば良いかも分からん。
「ハッハッ…」
乱れる呼吸。
どうにか床に横向きに寝っ転がって、腕足 丸めたは良いけれど、身動き取れない。
──これ、ヤバくない?
ヤバい、しか出てこん。
だってさ、起き上がるどころか 体勢も変えられないんだよ。
日暮れ春先に冷え込む、5畳半。
「にゃーにゃー」と、餌をねだる愛猫達…
何時間、床に寝っ転がっていたかな(遠い目)
起き上がるにも腰椎がポコッと抜けそうで四苦八苦しながら、どうにか部屋扉のドアノブに腕を伸ばし掴んで立ち上がった。
ふええん、痛いよぉ(泣)!
腰に掛かる自重が疝痛に変わる。
一歩踏み出すのすら一歩にならん。幅の極狭な“すり足”しか出来んくて。
猫に…猫にエサをやらねば…
猫のエサはイタズラされないよう、台所の吊り戸棚の中。
どうにか出したはいいものの、それぞれ器に出すなんて出来んくて、短い廊下にバラバラ~ッと撒いたっけな(遠い目)
物凄い時間を掛けてベッドまで戻って、横になれば再び動けない。
うえぇ…どうしよ…
枕元のスマホを点けたまま、しばらく悩んだ。
そう、119するかどうか。
でもなあ、僅かではあるが自力で動けちゃったんだよなあ…
なんて考えちゃってさ。
今なら大人しく救急に連絡すれば良かったと、至極思う(遠い目)
悩んで悩んで、救急は呼ばなかった。
そのまま病院検索して、探したのは整形外科。
割とね、近場に在っちゃったのよ、便利な所に住んでたから。
マップ的には徒歩10分程だったかな。
明日、行こう…
薬も飲めないし、動けないし、とにかく夜が明けるまで じいっとしてた。
翌朝──
足が上がらないから着替えなんか出来ん。
風呂も数日入ってないけど、もう それどころじゃない。
パジャマ代わりのスウェットのまま、財布とスマホ握って家を出た。
ひいいぃッ!!!
すり足のまま、牛歩以下。
アレ、アレが欲しかったよ、富士山 登る時の白木の棒。
当然、10分でなんか辿り着かん。
小一時間、かかったな。
や、やっと着いたぁ(号泣)!
受付で事情を説明して、問診票を記入。
ああ、そうだ。お薬手帳も持って行ってたっけ。
ほら、新規の病院は病気の説明が面倒臭いから。
待合で座っているだけなのに、脂汗が止まらない。
くうぅ~…
もうね、泣きたいよ。泣かなかったけど。
問診にX線。
腰椎4枚くらい撮ったかな?
ちべたい撮影板の上で体勢変えるのも自分で出来ん。
ひいいぃ…(泣)
レントゲン技師さんが体勢 直すの手伝ってくれる訳なんだけど、言われた通りの体勢なんか出来ん。
待合室でぐったり座るも“く”の字になれんから、シンどい シンどい。
「急性腰痛症ですね。ぎっくり腰です」
あ、はい。何となく、分かってました。
テープ式のコルセットを調整して腰にガッチリ巻けば、あら不思議。
あ、ちょっと平気かも✨
痛いは痛いけど、腰椎にかかる疝痛は和らいだ。
凄いよ、アレ。腰痛持ってる方、使った方が良いよ!楽になるから!
そして…後の先生の言葉に、言葉を失った。
「沢山 痛み止め飲んでるから、痛み止めは出しませんね」
──何ですと!!?
説明 面倒いからって渡した お薬手帳が仇に…
痛み止め無いとか、無理。
コルセットだけじゃ、無理。
「何とか何か出ませんか?」
「ううん…ま、これだけ飲んでれば大丈夫でしょう。様子見ましょ」
それだけじゃあ足りんから、わざわざ痛い思いして歩って来た訳なんですが!
て、言いたかった。
くうぅ、このまま引き下がって いつ治まるかも知れない追加の痛みと戦わねばならんのか!?
そんなの、無理!
「──あの、湿布みたいの。貼るやつ、欲しいです」
「ああ、それなら」
やったー♪!
という感じで、ロキソニンハップを院内調剤で出してくれた。
マジで助かった。
早速、コルセットの下に一枚 貼って貰って、窓口で残りの分と一週間分 受け取って、病院を後にした。
来る時とは打って代わり、ちゃんとじゃないけど、歩けていた。
牛歩では、あるんだけど。
とにかく 腰を曲げ過ぎないように生活するのってなかなか難しくて、かと言って直立するのも無理。
マジでね、杖欲しかった。
薬を飲むのに上向けないから、コップの水を すすり飲んだりね。
後は猫にエサやって、Amaz○nさんで買ったレトルトカレーとパック米、オンリーの生活。
はあ、起き上がれない…
寝転んでいる間も、コルセット着けたまんまだった。
あ~…暇。
そういえば、漫画読む時にしか使ってないけど、F○re
私、プ○イム会員だから映画とか観れるんだよなぁ…
で、観始めたのが『ポ○モン』TV版 無印。
映画違うじゃん。
思われるでしょ?
違うのよ。本当は劇場版が観たかったのよ。ただ、劇場版は配信されて無かっただけなのよ…
劇場版のね、オープニングのポ○モンバトル、あれボロ泣きすんのよ毎回。
なんでか知らんけど。
○ケット団は昔から好きだしね。
首○様のシナリオの小気味よい韻にハマり、岩○様の躍動感に惚れ、結局、全シリーズ観ちゃった訳だ。
一番ライバルとして成り立ってると思うDPのシンジ君…
名作はやっぱXYだな~、是非観て!
あ、語り出すと止まらなくなりそう(汗)止めとこ。
3○Sは横向き寝で遊べるから重宝した。
引っ越す前に買ったまんま、やれてなかった『モ○ハン4G』セットで出てた本体…何だっけアレ、銀色のやつ。
本当はね、赤いのが欲しかったんだけど、売り切れててね(遠い目)
X出てたけど、4GゼロからオールソロプレイでG級制覇したりね。
乱入狩りしたりね。
ポ○モン図鑑も第6世代 揃えちゃってね。
色違い狩りしたりね。
今 思えば暇人の極みだけど、楽しかった。
寝ずっぱりだとて、頭は常にフル回転しているから、何もやらない時は ひたすら妄想。
その時 生まれたのが『ナイトメア3rd(仮)』のエピソード。
起き上がって鉛筆書く、とかは出来んくて、覚えてられんだろ、てサブタイだけスマホにメモしてあったんだけど…
今見ても思い出せないエピソードがあって、勿体無い。
これは、歳かな。たははw
随分と脱線してしまったけど、こうして半寝たきりの生活してたもんだから、足が相当弱ってしまって、このザマですよ。
運動、大事。
⑪に続く──
おまけ─独りレスキュー─
先日ニャンコマに描いた、玄関で転倒した時の話。
アレ、絵には書ききれんかったんだけど、実は玄関先に広げっぱだったシルバーカーのブレーキワイヤーに、左足の小指が引っかかって前のめりに転倒した訳なんよ。
シロがもう可愛くて可愛くてね…
違う、その話の後の事。
ヤバ、腰が…
地味に起き上がれなくて、しばらく伏せたまんま悶絶してたんだけど、出掛ける時間迫ってて、じっとしてる訳にも いかん。
ぐうぅ…二度あることは三度あったんだから、もう要らないよ!
半ばヤケ気味に呼び掛ける。
「腰ー!大丈夫かー!? 私の腰ー!!」
「あ、はーい。大丈夫でーす」
呼び掛けに応じたのは腰…
な、訳無かろう。
自分である。
「小指ー!折れてないか!? 外れてないか!? 足の小指ー!!」
「あ、はーい。無事でーす」
──むくり(起き上がった音)
安否確認に大騒ぎ。
我ながら阿呆な会話しちゃったよ、独り玄関先で。
これがホントの“自問自答”。
なんつって(笑)
あー、ヤバヤバ(汗)
予定ある時に限ってギックリするから、変な汗かいたし。
腰は若干 変だけど動けてるし、捻挫もしてない。
軽い打撲 打撲。
うん。地味に丈夫なことが、私の取り柄。
とりあえず 予定通り出かけるにして、母親により何処に隠されたか分からん服を探し、居間と書斎を往復してた。
ガスッ!
「──痛ってぇ!!?」
今度はね、廊下に放置してた扉の開いたままの、ネコキャリーに、左足の中指を引っ掛けた。
流石に、しゃがんで左足に手を当てて じーん、と してたよ。
な、なんでこうも、なんかこうも…
ホント、左足運の無い日だった訳だ。
いや、私が運痴な所為だろうな(遠い目)
そして、その日の一大イベント…
コロナワクチン接種である。
お分かりかしら、右腕は絵を描くのに使うから、左腕を出した訳ですよ。
そして、ハンパ無い左腕の痛みに襲われて…
左側だけ天中殺。
マジで思った。
あの日、ホント左側だけが。
毎度ながら熱は出なかったのが、救いだけどもね。