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「ラストベルトには失業者しかいない」はウソ

 「ラストベルト」は、「さびついた工業地帯」という意味。
    「アメリカの昔の工業地帯だったが、いまや荒れ果てて、失業者しかいないどうしようもない地帯になっている。日本では、このように報道されている。

 本当だろうか?
 ウソである。

 これは、グーグルストリートビューでバーチャルツアーをしてみれば、すぐにわかる。

 まずピッツバーグを見よう。。
 1875年、アンドリュー・カーネギーが近郊に鉄工所を創設し、鋼の生産が始まった。この鉄工所は、後にカーネギー・スチール・カンパニーとなった。

 1901年には、他の鉄鋼2社と統合され、アメリカ最大の鉄鋼会社USスチールが設立され、同市に本社が置かれた。10年代には、全米で生産される鉄鋼の3分の1から2分の1がピッツバーグで生産された。

 しかし、70年代から80年代に、鉄鋼業は衰退した。工場は相次いで閉鎖に追い込まれ、町には大量の失業者が溢れた。製鉄工場の廃墟と公害が残り、アメリカで最も住みにくい都市の一つに転落した。この都市は確かにさびたのだ

 では、ピッツバークの現在の姿はどうか?
 これは、ダウンタウンのスティールプラザの近くをグーグルマップで見たものだ。

 これを見ると、ピッツバークが蘇ったことがはっきり分かる。
 「さびついた」という言葉からはまったくかけ離れた風景だ 
 人口が同程度の日本の地方都市(高松、岐阜など)より洗練されている。日本の駅前商店街や中心街の寂れようと比べると、ずっと生き生きしている。

 ピッツバークは、ハイテク産業をはじめ、保健、教育、金融を中心とした産業構造に転換したのだ。
 とりわけ、健康医療産業の成長が著しい。
 同市は、全米2位の医療研究都市となった。世界中から企業や民間研究機関がピッツバーグに集まり、巨大な医療産業集積が形成された。医療産業を核に地域再生繁栄の成功例として注目されている。
 鉄鋼工場の廃墟が医療施設群にとって代わったことから、ピッツバーグはいまでは全米で最も住みやすい都市になった。

 ここで重要な点が2つある。
 第1は、「アメリカは、ダメになってしまったわけではない」ということだ。
「アメリカはうまくいっていない」「グローバル化によって痛めつけられた白人層がトランプを支持した」と言われる。

 そうした人たちがいることは、事実だ。しかし、それがアメリカの平均かと言えば、決してそうではないのだ。ラストベルトですら、全体としては目覚ましく復活している。

「アメリカはダメになった。だから、日本は、いまのままでよい」という考えが広まったら、きわめて危険だ。

 第2は、アメリカの復活は、製造業の復活によってもたらされたものではないことだ。新しい産業が生まれることで実現した。ピッツバークの場合には、上で述べたように、医療産業が中心である。
 デトロイトは、いまだに自動車産業だけに執着している。それが、デトロイトとピッツバークの違いだ。

 トランプ大統領はそれを理解せず、1980年代までの主要産業であった製造業を復活させようとした。
 その半面で、オバマケア(国民皆保険制度)を見直す。これは医療産業にとっては打撃だから、アメリカの経済を弱くするだろう。
 しかし、日本はそれを笑うことができない。日本では、製造業の復活が必要だとする意見が依然として強いからだ。


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