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年金崩壊後を生き抜く「超」現役論  第2章の1

『年金崩壊後を生き抜く「超」現役論』(NHK出版新書)が12月10日に刊行されます。これは、その第2章の1の全文公開です。

第2章 年金70歳支給開始だと3000万円必要

 日本の人口構造の高齢化は今後も進行するので、社会保障制度の抜本的な見直しが必要とされるはずです。それにもかかわらず、そうした改革は実際には行なわれていません。
 公的年金の場合、年金支給開始年齢を65歳からさらに70歳まで引き上げることが必要となる可能性があります。そうなると、老後生活のために必要な資金は3000万円を超えるでしょう。


1 人口高齢化で負担は増えるはず

負担を1.33倍に、あるいは給付を0.75倍に圧縮する必要がある
 社会保障問題を考える際の基礎は、人口構造の変化です。
 今後の日本において、人口構造の大きな変化が予想されます。
 図表2-1は、国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来人口推計です(2017年推計)。

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 2020年から2040年までの20年間において、15~64歳人口は、7406万人から5978万人へと、0.807倍になります。これは、年率でいえば、1.065%の減少率になります。
 他方で、65歳以上人口は、3619万人から3921万人へと、1.083倍になります。これは年率でいえば、0.401%の増加率になります。
 人口の高齢化は、社会保障制度の維持を困難にするはずです。費用を負担する若年者の人口が減少し、他方で、受益者である高齢者の人口が増加するからです。
 したがって、ゼロ成長経済を想定し、かつ受給者1人当たりの受給額が現在と変わらないとすれば、負担を増やさない限り、制度を維持できないはずです。負担を増やさなければ、給付を減らす必要があります。
 では、どの程度の負担増、あるいは給付削減が必要になるのでしょうか?
 本来、この問題は、社会保障の制度ごとに、加入者(費用負担者)と給付者(受益者)の詳しい将来推計を行ない、それに基づいて検討する必要があります。しかし、これについては、必要データが入手できないなど、後述するいくつかの技術的困難があります。そこで、ここでは、前記の人口推計を用いて、社会保障全体についてのおおまかな見通しをつけることにしましょう。
 15~64歳人口が費用負担者、65歳以上人口が受益者であると仮定しましょう。図表2-1に示した人口推計の数字を用いると、つぎの結論が得られます(第2章「補論1」参照)。
(1)受給者1人当たりの受給額が現在と変わらないとすれば、負担を1.33倍に増やす必要がある。
(2)負担を増やさなければ、給付を現在の75%に圧縮する必要がある。

「大幅な負担増は必要ない」という不思議な結論
 ところが、政府によるさまざまな見通しにおいては、「大幅な負担増なしに社会保障制度を維持できる」という結果になっています。
 まず消費税。年金においても医療保険においても公費負担があり、その主要な財源は消費税です。右に述べたことから言えば、その税率を10%からさらに引き上げて、14%程度にする必要があるはずです。しかし、そうした議論はまったく行なわれていません。
「中長期の経済財政に関する試算」においても、公的年金の財政検証においても、消費税率の10%を超える引き上げは想定されていません。
 社会保障に関するいくつかの長期見通しでも、「あまり大きな負担増なく、現在の制度を維持できる」とされています。
 本章の2以下で説明するように、公的年金の財政検証は、厚生年金の保険料率を2017年における水準(18.300%)に固定したままで、年金制度を維持できるとしています。

(注)医療保険については、「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」(2018年厚生労働省)において、公費と保険料の対GDP比が、2018年から2040年の間につぎのようになるとされています。
 公費:8.3%から10.1~10.2%、保険料:12.4%から13.4~13.6%
公費については、「消費税の税率を8%から10%に引き上げることで賄える」と読めます。保険料については、対GDP比が上昇しますが、現在からの上昇率は1割未満です。本文で述べた「33%増が必要」というのとは大分隔たりがあります。

なぜ「負担の大幅な引き上げは必要なし」との結論になるのか?
 人口構造の点から深刻な事態が到来すると予想されるのに、なぜ「社会保障財政は負担の大幅な引き上げなしに維持できる」とされるのでしょうか?
 その理由は、年金財政について、以下で詳しく検討します。結論をあらかじめ述べると、つぎのとおりです。

(1)財政検証においては高い物価上昇率が仮定されているので、マクロ経済スライドが実行される。このため、年金の所得代替率が低下する。
(2)高い実質賃金上昇率が仮定されているので、保険料の伸びが新規裁定年金の伸びより高くなる。他方、実質賃金が上昇しても既裁定年金の名目値は増加しないので、既裁定年金の実質価値が下がる。

 しかし、実際には、前提で想定されているような高い物価上昇率と実質賃金上昇率を実現できないため、年金財政の収支は悪化する可能性が強いのです。
 これに限らず、さまざまな将来推計において、経済成長率、物価上昇率、賃金上昇率について現実離れした甘い見通しが設定されているため、人口構造上の深刻な問題が覆い隠されてしまっているのです。
 甘い見通しを排して、厳しい状況を直視する必要があります。


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