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ホレイショウよ

 シェイクスピア、『ハムレット』の有名な言葉を、「超」AI整理法』(2019年6月29日刊行)では、文法的には不正確ながら、大いに拡張して使いました。

 まず、本書のエピグラフで引用しました。

There are more things in heaven and earth, Horatio,
Than are dreamt of in your philosophy.

 第一幕、第五場  「防壁の上、別の場所」
父親の亡霊が現れる場面です。

そのまま訳せば、
「ホレイショウよ。天と地には君の哲学で夢想されるよりはるかに多くのものがある」
ということになるでしょう。
 ところが、ハムレットの解説書を読むと、"your philosophy"を「君の哲学」と訳すのは間違いで、「例の哲学」、「いわゆる哲学」などと訳すべきだというのです。
 実際、これまでの邦訳でも、つぎのようになっています。

・福田恒在訳(新潮文庫) 「ホレイショー、この天地のあいだには、人智の思いも及ばぬことが幾らもあるのだ」
・小田島雄志訳 (白水Uブックス)「この天と地のあいだにはな、ホレーシオ、哲学などの思いもよらぬことがあるのだ」
・坪内逍遙訳 「この天と地の間にはな、所謂(いわゆる)哲学の思いも及ばぬ大事があるわい」

 英語では、youを「あなた」という意味でなく、一般的な主語として使う場合がしばしばあります。例えば、
  You never know what will happen in your future.
という場合のyouがそれです。
 したがって、この意見に同意する場合には、 No, I don’t.というのではなく、 No, you don’t.と言います。
 英語では、文法上はつねに主語を言う必要があるのですが、概念的には主語がはっきりしない場合があります。こうしたときに、口語では、youを使えばよいので便利です。

 ドイツ語では、manが、「不定の人」を現す言葉になっています。先ほどの英語は、つぎのようになるでしょう。
  Man weiß nichts von seiner eigenen Zukunft.

 英語でも、文語ではyouと言えないの、oneが不定代名詞として使われる場合があります。

 ただ、私は、ハムレットのこの言葉について「例の」とか「いわゆる」とわざわざ言うのは妙な気がするので、本書のエピグラフでは、「哲学」というだけにしました。
 もっとも、本文では、原文を大いに拡大解釈して使っています。







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