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ソフトバンクグループの法人税がゼロだったことについて(その2)


◇形式的に合法であったとしても問題が残る
 ソフトバンクの法人税について述べた。
https://note.mu/yukionoguchi/n/nf1fff7216296

 「こうしたことができないように、税法を改正する」との報道がなされた。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO51195880Z11C19A0MM8000/

 改正がなされるのは良いことだ。
 しかし、「改正がなされなければ、こうした問題をチェックできないのか?」という、疑問が残る。

 なぜなら、今回の件は、あまりに常識をはずれるものだからだ。
 損失額は1.4兆円に上る。これは、2018年度における法人税収総額12.3兆円の1割近くになる。
 しかも、このような取引は、巨大な投資会社でなければできないことだ。

◇税法における「実質主義」ないしは「実質課税の原則」
 ソフトバンクの件は、税制の複雑な仕組みを利用した抜け穴だという。しかし、税の執行は、本来は健全な常識にしたがったものであるべきだ。
 精巧な仕掛けをしても、不適切な節税は許さないというのが基本的な考えになっているはずだ。

 今回の問題も、グループ全体として常識的な意味での損失は発生していないのだから、それを基本にして判断がなされるべきではなかったのだろうか ?

 税法には、「実質主義」ないしは「実質課税の原則」という考えがある。
 これは、実定法に明確な規定がある訳ではないが(注)、立法面においても、行政面においても重要な原則と考えられている。https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/06/49/ronsou.pdf

 税制では、公平の原則が大きな意味を持っている。
 現実社会において公平の原則を保つために必然的に要請されるのが、実質主義なのである。
 
 この原則に反する税制は、納税者の信頼を矢なう
 実質的担税力の把握が真の負担公平を実現するのだから、形式と実質が不一致の場合には、徹底的に実質を追究する必要がある。

(注)ただし、実質所得者課税の原則については、所得税法および法人税法に規定がおかれている。

◇ 安定性との調和
 もちろん、税務当局が個別案件ごとに恣意的に判断するのでは、正常な税務行政の運営は危うくなる。
 納税者側からすれば、課税要件等の画一的明確化が便宜で望ましい。
 納税者側からすれば、課税要件等が画一的に明確化されていることが望まれる。そして、 出来る限り多くの情報が納税者に提供され、ゆき届いた事前指導がなされることが必要である。

 実質主義によって公平の理念の要請を満しっつ、かつ法的安定性を害することがない状況を作り出すという、調和が必要だ。
 実質主義が適用される可否については、最終的には司法の判断に委ねられる。そして、判決の積重ねによって、法的安定性と具体的妥当性の調和点が徐々に確立されていく。

◇ この他にも問題はある
 このほかにも法人税等には、特別な措置を利用した様々な節税策がある。こうしたものに対して常識的な観点からの検討が必要だ。 さらに、最近では、つぎのような複雑な問題も生じている。
 ・コーポレート・インバージョンによる競争力強化
 ・全世界所得課税+源泉地課税による国際的二重課税の排除

 これらに適切に対処するのは、決して容易なことではない。





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