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年金崩壊後を生き抜く「超」現役論  第2章の2

『年金崩壊後を生き抜く「超」現役論』(NHK出版新書)が12月10日に刊行されます。これは、その第2章の2の全文公開です。

2 財政検証は何を検証しているのか?

2019年の財政検証は遅れて公表された
 2019年は、5年に一度公表される「公的年金の財政検証」の改訂年でした。
 6月には、金融庁のレポートをきっかけに「老後資金2000万円問題」が論議され、退職後生活についての関心が高まりました。
 それにもかかわらず、財政検証の公表は遅れました。「参議院選があるので、政府は、年金問題が政治問題化しないよう配慮したのではないか」との指摘もありました。野党は、参議院選前の公表を求めましたが、選挙前には公表されませんでした。
 このことを逆に見れば、年金の財政見通しが、現在の日本においてきわめて重要であり、政治的にセンシティブな問題であることを意味するといえるでしょう。
 その財政検証が、8月27日に発表されました。
 ここで描かれている公的年金の将来像は、すべての日本人の将来に大きな影響を与える重要なものです。

財政検証は何を検証しているのか? その1:所得代替率
 財政検証のどこが問題となり得るでしょうか?
 第一は、「年金は老後生活資金のうち、どの程度をカバーすべきか?」という問題です。
 これは、所得代替率という指標で議論されます(所得代替率の定義は第1章の1を参照)。これまでの財政検証では、所得代替率が50%を下回らないことが目標とされました。この目標は、2019年の財政検証でも、基本的には変わりませんでした。
 第二に、支給開始年齢の問題があります。厚生年金の支給開始年齢は、2025年に65歳となりますが、それ以降もさらに引き上げて、70歳にするかどうかが、本当は問題です。
 これは政治的に大問題なので、2019年の財政検証には盛り込まれませんでした。しかし、実際には、これから述べるように、将来は大きな問題として検討せざるをえなくなります。

財政検証は何を検証しているのか? その2:財政の長期的健全性
 しばしば言われる「100年安心年金」とは、「年金制度を100年間維持できる」ということです。
 年金をめぐる客観的な状況は、本章の1で述べたように、厳しいものです。人口構造の変化(高齢者の増加と若年者の減少)が、社会保障制度の維持を困難にするはずだからです。
 それにもかかわらず、財政検証は、「現在の保険料率(18.3%)のままで、おおむね年金制度を100年間維持できる」としているのです。現在の制度で、所得代替率50%が維持可能という結論になっています。
 なぜこうした魔法のようなことが可能になるのでしょうか? その理由を解明することが、財政検証の検討で最も重要な課題です。
 これについて、以下で検討します。

(注)2019年の財政検証は、ケースⅠからⅥまで6通りのケースを示しています。経済成長と労働参加が進むケース(ケースⅠからⅢまで)では、マクロ経済スライド調整後も所得代替率50%を確保できるとしています。
2014年の財政検証は、ケースAからHまで8通りのケースを示していました。ケースA、B、C、D、Eでは、マクロ経済スライドで所得代替率を6割から5割に引き下げ、保険料率を当時の17%から18.3%に引き上げることによって、制度を維持できるとしていました。ケースF、G、Hでは、保険料率は18.3%ですが、所得代替率が5割を切ります。また、ケースG、Hでは、積立金が枯渇します。

年金財政は100年間維持できるか?
 公的年金の財政検証で、多くの人の関心は、所得代替率の推移に向けられています。「この値が現在より下がるのが問題だ」という意見もあります。
 確かに、「老後の生活資金を賄うために、所得代替率50%で十分なのか?」は、大問題です(第1章で見たように、これが、2019年6月に、「老後2000万円不足」問題として話題になった金融庁報告書をきっかけに野党が主張した点です)。
 ただし、所得代替率50%を目標にするのは、2004年の公的年金制度改革の際に決められたことです。もちろん、この問題を再び取り上げ、目標をさらに引き上げるべきだという議論はあり得ます。
 ただし、そう主張するなら、新しい財源措置とセットで提案しなければなりません。
 以下では、「所得代替率50%という目標は所与とし、これを維持することが可能か?」という問題を検討します。
 すでに述べたように、2019年の財政検証では、「年金財政はおおむね維持できる」と結論しています。
 ただし、実際にこのとおりになるか否かは、経済前提に依存する面が大きいのです。以下では、このことの定量的な評価を行ないます。


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