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貧乏サラリーマンが見た世界374

夜、会食がない日は何曜日であろうと夕方愛犬の散歩から帰るとバスタブにお湯を張り、ゆっくり風呂に浸かる。翌日朝の通勤を気にする必要もない年金生活者の楽しみである。ただ庶民の浴室からは夜景は見えないし、ジャグジーもミストサウナといった設備もない。せいぜいバスタブ内、足を伸ばせるくらいでテレビ画面の設置もない。風呂から上がると狭い寝室で電気代を気にせずエアコンと除湿機をフル稼働させ涼む時間が貧乏人のささやかな贅沢になっている。涼みながらシャンパーニュを嗜むと行きたいところだが、自分にはカヴァ(Cava)がお似合いである。まあ、こんなんでも特に不満もないので、自分は不幸ではないと思っているが、実際の世の中は超格差社会であり、貧乏人には無数の体験出来ない且つ知り得ない世界がある。サラリーマンとしては出世せず現在ただの年金生活者であるが、仕事の中身にはまあまあ恵まれ、長年世界各地で仕事をしたので、65歳で退職後、外資でコンサルタントの仕事を得ることが出来、今はこずかい稼ぎをやっている。仕事を通じて垣間見た世界の金持ち達には圧倒されるばかりだったが、その彼らでも世界のトップの超富裕層から見れば貧乏人に過ぎないだろう。ロンドン駐在時代はシティオブロンドン内の由緒ある建物内で仕事をしていたが、会社の看板もあり、St Swithin's Laneの陰謀論に度々登場するロスチャイルド家の銀行にも行った。名前からしてユダヤ人と思われるスタッフが多いが、内部は上品で格式ある造りのプライベートバンクであった。勿論、ロスチャイルドのボルドー五大シャトーワイン・ラフィットやムートンもあちらこちらに置かれていた。ペル・メル(Pall Mall)のトラベラーズクラブにも公私ともに通った。常にネクタイに上着着用が義務付けられているが、ダイニングで食事をした後、書斎で午後の一時をゆっくり楽しむコーヒーの時間を無上の喜びとしてロンドンでの無為の時間を満喫していた。今はもうただの年金生活者であり、立ち入ることの出来ない世界となった。海外プロジェクトにおいて日本企業が出資者として参加する場合にはプロジェクトを遂行する外資から管理・運営費用が出資比率に応じて請求されるのだが、その中にはプロジェクト委員会メンバーとして参加していた自分からすればただの遊興費だろうというものも含まれていたが、大体は業界慣行として費用処理されていた。現役時代、数々の国内外のプロジェクト委員会のメンバーにもなったが、そのお陰で世界各地で週末観光や一流レストランでの会食など外資のメンバーと親しくなるという目的で会社の許可を得て楽しむことが出来た。サラリーマン時代の数少ない役得である。業界団体の会議なども同じようなものでわざわざ海外で会議を開催し、会議後の土曜日は観光というのがお決まりのコースだった。海外の会議場所の選定には日本からファーストクラス設定の航空路線がある場所が奥様を帯同する役員のために選定され、会議期間中は奥様方のための観光が用意される。自分のような下々は旅行会社の添乗員のようなもので空港お出迎えからお見送りまでと人から羨ましがられるようなものではなく単なる仕事であったが、世界各地の名勝地に滞在し、豪華ホテルに一流レストランを実体験とともに知り得たことは、サラリーマンとしては存外の出来事だった。今年で66歳になるが、人間モノやお金より経験だということは何となくわかるので今は負け惜しみながら貧乏老人でも案外不満がないのである。

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