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貧乏サラリーマンが見た世界362

兄は今年で古希を迎える。食品卸の家業を継いだ彼は長い時間をかけて農業生産者との関係を構築して来た。ある村の収穫のほとんどは彼が引き取り、販売している。一部は商店を構え、小売りも行っている。赤字ではないが大手スーパーマーケットチェーンとの競争には勝てず、収支はトントンで地下倉庫の上にマンションを建てその賃貸料で生活が成り立っているといった具合である。これから彼の農家との関係が大きな価値となり、収益を生むと自分は見ており、兄を会長に祭り上げ、現場は自分が引き受けるかとも考えている。良い品を安く近所の住民に小売り販売するとか学校給食や老人ホームに卸すのではなく高値で富裕層に売っても良いし、海外に輸出しても良い。ただ兄にはそんな考えはなく良い品を安く世の為に提供することが自分の責務だと考えており、昨日も大喧嘩をした。跡継ぎがいないとはいえ、高値で生産物を捌く商流を作り上げれば、より大きな商売をしている跡継ぎもいる従兄弟も喜んで商売を引き受けるだろうし、兄が引退したら終わりだなどと考える必要はない。より価値を高めて高値で従兄弟に商権として譲渡すれば良いし、その売却手続きや交渉は無償で自分が引き受けると言っているのに金はいらない、そんな必要はないの一点張りである。今年70歳になるのに現場で汗水たらして仕事をしている姿を見るにつけ、もう休んで好きな車でも買ってメカに強いのだから車いじりでもしたらどうだと思うし、姉を連れて旅行三昧でも良いと思うのだが、二言目には世の為、人の為ということを言う。だったら政治家になれば良いと言ってやっても、もう老人であり、そんなことを考えていないという。あの調子では病気にでもならない限り、農家と兄が一緒になって良い農産物を作ることだけを考えて仕事を続けるのだろう。社会全体というマクロの視点で考えれば、彼の行いは良いことだが、家族というミクロで見ると休みもなく長年一緒に働いている姉は不憫であるし、自分の代で終わりだとして新たな従業員も雇用せず、昨年最後の社員が定年で引退し、今は高齢夫婦二人で切り盛りをしているなんていう自己犠牲の精神はいい加減にしろと思うのである。市場は兄夫婦に感謝なんかしないし、彼らの善意を評価もしないのだ。事実スーパーとの競争に負け、苦しんでいるのだ。米国はその市場志向の政策を日本に押し付け、何でも市場価格で取引させることを目論んでいる。いずれ食料、生活インフラ、医療への国の補助を財政赤字を理由にすべてを市場価格とするように仕向けるのではないかと思う。そうなれば消費者物価は急騰するだろう。そこにお金ではなく兄の食を持つ力が発揮されると自分は考えている。兄の仏心を阻止しなければならない。地下倉庫の食料は売り惜しみすればするほど価格が高騰するだろう。その結果、日本国民の大半が貧困化する。小泉・竹中両氏が推進した改革とは日本の産業競争力を破壊することが目的だったことが明らかになっている。日本はドルを寄せ付けない経済圏を作りべきだったし、BRICS側にいるべきなのだが、完全に日本政府は米国経済圏に組み込まれているのである。それを前提に考えると食のサプライーチェーンを確保し続けることが、一族、郎党の生き残りの処方箋になるだろう。


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