危機を乗り越える - 『中年からのアイデンティティ心理学』書評
「あれ?私って何のために働いているんだっけ?」
「このまま定年まで、今の仕事を続けていけるのだろうか...」
もしあなたが40代、50代で、このような疑問に囚われているなら、岡本祐子先生の『中年からのアイデンティティ心理学』は、まさに今読むべき一冊かもしれません。
中年期の「アイデンティティ危機」は、実は成長のチャンス
従来、アイデンティティ(自己同一性)は「青年期に確立されて、あとはそれが徐々に熟成されていくもの」と考えられてきました。しかし、岡本先生は1994年に「アイデンティティのラセン式発達モデル」を提唱し、この常識を覆します。
特に現代社会では、人生100年時代を迎え、働く期間も長期化。終身雇用が揺らぎ、テクノロジーの進化で求められるスキルも激変する中、中年期に「自分は何者なのか?」という根源的な問いに直面することは、むしろ自然です。
40代、50代に襲いかかる「変化の波」
中年期には、まるで嵐のように様々な変化が押し寄せます:
身体的な衰えを実感し始める一方で、職場では部下の指導や後進の育成を任されます。家庭では子育てと親の介護が重なることも。「できること」と「求められること」のギャップに苦しむ日々。
でも、この本が教えてくれるのは、そんな「危機」こそが、実は新たな成長のきっかけになるということ。環境への単なる適応ではなく、自分らしい生き方を見つめ直すチャンスです。
40代の「リセット」を経て
私自身、この本を読みながら自分の40代を振り返ってみました。20代30代は、海外駐在、結婚、子育てと、比較的恵まれた道を歩んできました。しかし40代で経験した大きな変化は、まさに「しんどかったなぁ〜」の一言。それまでの20年間、事業部で積み上げてきた実績と人とのつながりをゼロリセットして、まったく新たに人事・人材育成の世界に踏み出しました。
ただ、そのキャリアのリセットがあったからこそ、今現在、明るい将来を見通せる仕事の居場所を見つけることができました。
未来を見据えて:
本書から学べる重要なメッセージは、「危機」を恐れずに未来を見据えることの大切さ。中年期のアイデンティティの揺らぎは、決してネガティブなものではありません。ここでいう「危機」とは、むしろ分岐点であり、向き合い方によっては、その後の発達につながることもあれば、場合によっては対抗へと向かいます。
むしろ、「危機」は自分を見つめ直し、新たな可能性を開く扉となる。
岡本先生の研究は、中年期の危機に悩む多くの人々に、希望の光を投げかけてくれる貴重な道標です。