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教科書の紹介――司法試験・予備試験短答式問題の参照について

この記事は、興津征雄『行政法 I 行政法総論』新世社(2023年)の情報記事です。

本書では、司法試験(平成18年~平成26年)および予備試験(平成23年~令和4年)の短答式試験問題(行政法)について、本文中に参照符号を付し、索引で肢ごとに該当ページを引けるようにしています。
たとえば、以下は、第8章「行政手続」→8.9「行政手続と憲法」→8.9.3「判例」からの抜粋です。

8.9.3 判例

判例は、適正手続の類型に応じて異なる根拠を援用している。

告知・聴聞  処分の事前手続としての告知・聴聞(判例の言い回しでは「告知、弁解、防御の機会」など)については、判例は一貫して憲法31条のみに援用可能性を認める。もっとも、憲法31条は、本来、刑事手続における適正手続を保障した規定であり、行政手続に射程が及ぶかどうかには議論があった。

しかし、成田新法事件最高裁大法廷判決(最大判平4.7.1〔成田新法〕[判Ⅰ4][百Ⅰ113])は、成田新法[←5.2.2(●頁)]3条1項による工作物使用禁止命令を発するにあたり、名宛人に告知・弁解・防御の機会が与えられないことが憲法31条に反するとの主張に対し、「憲法31条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」と判示し、一般論として憲法31条の射程が行政手続に及ぶ可能性を認めた。

ただし、それに続けて、「同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である」と判示した(予備R4-14-イ)。そして、工作物使用禁止命令については、権利制限の態様が限定的であるの比して、空港の設置・管理の安全確保という高度の公益性や緊急性が認められるため、告知・弁解・防御の機会を与える旨の規定がなくても憲法31条の法意に反しないとした。

判例は、これ以降も、憲法31条の援用可能性を一般論として認めてはいるものの、実際に憲法31条違反を認めたケースはない(最判平15.11.27〔象のオリ〕、最決平26.8.19〔逃亡犯罪人引渡命令〕など)。また、処分の第三者との関係でも、原子炉設置許可処分に際し周辺住民に手続参加や告知・聴聞の機会を与えなかったからといって憲法31条の法意に反するものではないとした判例もある(最判平4.10.29〔伊方原発〕[判Ⅰ139][百Ⅰ74])(司法H22-23-ウ、予備R4-14-ウ)。

基準の設定  処分をする際の具体的基準の設定については、行政手続法制定前であり、個別法に基準の設定を義務づける規定がなかったにもかかわらず、個人タクシー事件最高裁判決(最判昭46.10.28〔個人タクシー〕[判Ⅰ96][百Ⅰ114])は、解釈により基準の設定義務を導き出した(ただし公表までは求めていない)(予備R4-14-ア)。この判決は、個人タクシーの営業免許申請の審査に際して聴聞をするにあたり(申請に対する処分だが、当時の道路運送法は聴聞を義務づけていた)、法定の免許要件を具体化した審査基準を内部的にせよ設定し、申請者にそれに基づく主張と証拠の提出の機会を与えなければならないとした。その理由として、免許の許否が個人の職業選択の自由にかかわりを有するものであることを指摘している。

この判決は、憲法から一般論として行政庁に具体的基準の設定義務を課したものではなく、あくまでも道路運送法の聴聞規定の解釈により、聴聞を公正に行うための方法として、審査基準の事前設定を求めたものと思われる。職業選択の自由への言及は、免許制によって制約されている権利利益の重大性を示すための補強的な論拠であり、そこから直接に適正手続の保障を導き出しているわけではない。第1審判決(東京地判昭38.9.18)が憲法13条・31条等に公正な手続の要請を根拠づけていたのとは異なる。

理由提示  個別法に理由提示規定がなかった白色申告更正処分[→17.6.3(4)(●頁)]について、理由付記を要しないと判示した判決があり(最判昭42.9.12、最判昭43.9.17)、判例は憲法から直接に理由提示義務が生じるという見解をとっていない。

ただし、個別法に理由付記規定が置かれている処分については、その処分によって制約されるのが憲法22条2項で保障された外国旅行の自由であることを指摘して、具体的な理由付記の内容・程度を解釈した判例がある(最判昭60.1.22〔旅券発給拒否処分〕[判Ⅰ110][百Ⅰ118])。もっとも、制約されるのが憲法上の権利・自由ではなく、法律上の特典(最判昭49.4.25〔青色申告承認取消処分〕)、条例上の権利(最判平4.12.10[判Ⅰ111])、一般的な権利や自由(最判平23.6.7〔一級建築士〕[判Ⅰ112][百Ⅰ117])であっても、判例はほぼ同じ結論をとっているので、憲法の具体的な規定が理由付記の内容・程度に大きな意味をもっているとまではいえない。

太字で示した「司法」「予備」は実際には枠囲み。
また、ページ数は現時点で未確定のため●印としている。
判例は、本文中には年月日を示し、事件番号と判例集の出典を巻末の判例索引に示した。

司法試験・予備試験の短答式問題について、直接解説をしているわけではありませんが、それに関連する記述に年度・問題番号・肢記号を記しているので、その前後の記述を読んでいただければ、問題を解く手がかりになります。年度・問題番号・肢記号の参照部分は、索引から引けるようになっています。
上の引用部分で参照されている令和4年予備試験の第14問は、次のような問題です。

〔第14問〕(配点:2)
行政手続法施行前の行政手続についての最高裁判所の判例に関する次のアからウまでの各記述について、正しいものに○、誤っているものに×を付した場合の組合せを、後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は、[№26])

ア.いわゆる個人タクシー事件に係る最高裁判所昭和46年10月28日第一小法廷判決(民集25巻7号1037頁)は、多数の者のうちから少数特定の者を、具体的個別的事実関係に基づき選択して個人タクシー事業の免許の許否を決しようとする行政庁に対し、道路運送法の定める免許基準の趣旨を具体化した審査基準を設定することを要求したが、当該審査基準を公にしておくことまでは要求していない。

イ.いわゆる成田新法事件に係る最高裁判所平成4年7月1日大法廷判決民集46巻5号437頁)は、行政庁が不利益処分をする場合に、その名宛人に対し当該不利益処分の理由を示さなければならない旨を定める法令が存しなくても、当該不利益処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、当該不利益処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量した結果に基づき、当該不利益処分の理由の提示が憲法上要請される場合があると判示している。

ウ.いわゆる伊方原発訴訟に係る最高裁判所平成4年10月29日第一小法廷判決(民集46巻7号1174頁)は、原子炉設置許可の申請に対して行政庁が処分をする際、憲法第31条に基づき、原子炉設置予定地の周辺住民を原子炉設置許可手続に参加させることを要求している。

(1~8の選択肢は略)

アはわりと有名な判示ですが、個人タクシー判決は審査基準の設定のみを求め、公表までは求めていないというのは、見落としがちかもしれません(現在の行政手続法5条は審査基準の設定のみならず公表も求めています)。
イは引っかけ問題ですが、成田新法大法廷判決は告知聴聞についてのみ判示しており、理由提示については判示していません。上記教科書の引用部分の冒頭に、「判例は、適正手続の類型に応じて異なる根拠を援用している」と記したとおりです。
ウは伊方原発判決の中では見落とされがちな判示ですが、上告理由でそのような主張がなされ、最高裁はそれを退けています。

この問題のようにどの判例に関する問題か特定されている場合には、判例集を見たほうが手っ取り早いかもしれませんが、そうでない問題もあるので、その場合には本書をご活用いただければ幸いです。

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