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Empowering Psychotherapy with Large Language Modelsの日本語訳

このレポートは、論文 Empowering Psychotherapy with Large Language Models について、Claudeを使い、質問形式で論文の内容を確認し、まとめたものです。誤りなどがあれば、ご指摘ください。

Abstract

この論文では、大規模言語モデル(LLM)を認知行動療法(CBT)の一部である認知歪曲の検出に活用する取り組みについて紹介しています。具体的には、LLMに「思考の診断(Diagnosis of Thought、DoT)」と呼ばれるプロンプトを与え、患者の発言に対して以下の3段階の分析を行わせています。

  1. 主観的思考と客観的事実の識別

  2. 思考を支持/反証するプロセスの抽出

  3. 認知スキーマ(思考パターン)の要約

生成された診断の根拠は、認知歪曲の有無と種類を判定するのに役立ち、専門家による判断を補助することが期待されています。実験では、DoTプロンプトを使うことで、認知歪曲の検出精度が大幅に向上したことが示されています。さらに、生成された診断根拠の質も専門家によって高く評価されたとしています。

本研究は、LLMの能力を認知療法に応用する新しい試みであり、今後のAI×精神医療の発展に寄与する可能性があると主張しています。

DoTの3段階の分析

  1. 主観的思考と客観的事実の識別
    この段階では、患者の発言から事実関係(客観的な出来事など)と、患者自身の解釈や意見(主観的な思考)を分離することが目的です。専門家は客観的事実に基づいて、患者の主観的思考を分析する必要があります。

  2. 思考を支持/反証するプロセスの抽出
    この段階では、患者の主観的思考を支持する根拠と、反証する根拠の双方を引き出すことが目的です。専門家は患者の思考プロセスを多角的に検討し、認知歪曲の有無を判断する必要があります。

  3. 認知スキーマ(思考パターン)の要約
    この段階では、患者の根本的な認知スキーマ(反復的な思考パターン)を特定し要約することが目的です。専門家はこのスキーマを分析することで、患者の認知モデルを確立し、的確な治療を行うことができます。

つまり、この3段階を通じて、LLMは専門家に対して患者の発言の解釈を支援し、認知歪曲の有無と種類を特定するための論理的根拠を提供することを目指しています。

Figure 1

認知歪曲検出のデータセット

このデータセットは、Shreevastava and Foltz (2021)によって提案されたもので、TherapistQAデータセットをベースに構築されています。専門家によってアノテーションされた2,531例の患者の発言サンプルで構成されています。

具体的には、以下の特徴を持っています:

  • 10種類の一般的な認知歪曲のタイプ(過剰一般化、マグニフィケーション、思い込みなど)がカバーされている

  • サンプルの63.1%が認知歪曲を含んでおり、その場合は上位2つのタイプがアノテーションされている

  • 元のTherapistQAデータセットはオンラインフォーラムから収集された患者と専門家のやり取りなので、実際の臨床場面を模したデータといえる

  • 入力となる患者の発言の平均トークン数は167.3

  • 10種類の認知歪曲タイプはおおむね均等に分布している

このようにこのデータセットは、実際の患者発言に基づいた認知歪曲を多数含んでおり、10種類の典型的な歪曲タイプをカバーしているため、認知歪曲検出システムの評価に適したリソースとなっています。論文の著者らはこのデータセットを用いて実験を行い、提案手法の有効性を検証しています。

DoTのプロンプト

以下のプロンプトを用いています。
"Based on the patient's speech, finish the following diagnosis of thought questions:

  1. what is the situation? Find out the facts that are objective; what is the patient thinking or imagining? Find out the thoughts or opinions that are subjective.

  2. what makes the patient think the thought is true or is not true? Find out the reasoning processes that support and do not support these thoughts.

  3. why does the patient come up with such reasoning process supporting the thought? What's the underlying cognition mode of it?"

この3段階のプロンプトを設計した理由は、専門家が患者の発言を診断する際の思考プロセスを模倣したからだと考えられます。

  1. 客観的事実と主観的思考を分離する
    専門家は最初に、患者の発言から事実関係と患者自身の解釈を分けて把握する必要があります。

  2. 思考を支持/反証する根拠を検討する
    次に、患者の思考がどのような論理で成り立っているか、賛成/反対の両面から検討します。

  3. 根本的な認知スキーマを特定する
    最後に、患者がそのような思考パターン(認知スキーマ)に陥った背景要因を分析します。

このように、DoTのプロンプトは実際の専門家の診断プロセスをできるだけ再現するよう設計されています。論文では、このような段階的な診断根拠を生成することで、認知歪曲の判定が高精度になり、かつ専門家による判断の透明性が高まると主張しています。

ChatGPTが専門家を支援

ChatGPTには、以下の3段階の出力を求めています。

  1. 客観的事実と主観的思考の特定

  2. 思考を支持/反証する根拠プロセスの生成

  3. 根本的な認知スキーマ(思考パターン)の要約

これらの出力を通じて、ChatGPTに患者の発言を多角的に分析させ、認知歪曲の有無とその種類を判断するための論理的根拠を生成させようとしています。

つまり、ChatGPTはこのプロンプトに基づいて、患者の発言から事実関係や思考プロセス、認知スキーマなどを体系的に抽出し、認知歪曲の診断根拠としてアウトプットするよう求められているのです。

この診断根拠を最終的に専門家に提示することで、認知歪曲の自動検出の判断を支援すると共に、専門家が患者の認知モデルを確立する際の透明性と解釈性を高めることを目指しています。

実験結果のサンプル

Patient Message: 最近理由もなく極端に不幸で、いつも虚しい気持ちでいます。本当の喜びを感じられるものが何もないようです...

客観的事実:
患者は最近極端に不幸で虚しい気持ちになっている。
主観的思考:
患者は何も本当の喜びを与えられないと考えており、将来には障害しかないと想像している。患者は自分自身を理解できなくなり、混乱している。
思考を支持する理由付け:
患者はこれらの感情や気持ちを直接的に体験しているため、自分の思考は正しいと信じているかもしれない。
思考を反証する理由付け:
患者が何も本当の喜びを与えられないと信じたり、将来に障害しかないと考えたりする事実的根拠はないかもしれない。患者は感情的な理由付けで自分の信念を支持しているのかもしれない。
認知スキーマ:
患者は否定的な偏りの認知モードにあり、肯定的な経験や思考よりも否定的なものに注目する傾向があるかもしれない。これが、人生の肯定的側面や将来を過小評価し、否定的側面を誇張させる影響を与えているのかもしれない。さらに、患者は抑うつに悩んでおり、それが自己や周りの世界の認識に影響を与えている可能性がある。

LLMを認知行動療法に活用するの期待と懸念

期待される点

  • LLMの優れた言語理解・生成能力を活用することで、患者の発言からより深い認知モデルの構築や、認知歪曲の詳細な分析を行えるようになる可能性がある。

  • 専門家の作業を効率化し、生産性を高められる。提案手法のようなAI支援ツールで、専門家が患者の認知モデルを確立する過程を加速できる。

  • 将来的には、患者自身が自助的にAIツールを使って認知歪曲を自己診断し、CBT実践に役立てられるかもしれない。

懸念される点

  • 安全性とロバスト性の確保が最重要課題。LLMが誤った生成をしたり、バイアスを持ったりする可能性がある。

  • 患者データのプライバシー保護が極めて重要。臨床データの多くは機密扱いされており、データ入手が難しい。

  • 倫理的ガイドラインの策定が不可欠。この新しい分野においてAIをどう活用するべきかについて、専門家間での合意形成が必要。

  • 現時点ではLLMを患者に直接適用するのは時期尚早。専門家の監督下での使用に限定されるべき。

つまり、LLMの能力を活用することで認知療法の質が大幅に向上する可能性はあるものの、安全性、プライバシー、倫理的課題についてはまだ多くの困難が伴うと指摘しています。慎重な検討を重ねながら、AIと専門家の適切な協働の在り方を見出していく必要があると論じています。

番外編(ChatGPT 3.5 で試してみた)

入力

下記がChatGPTに入れたプロンプトです。#命令は、論文のプロンプトを日本語にしたものです。#患者の発言は、ChatGPTに患者になり切ってもらい生成したものです。患者が冷静に自己分析しているあたりが、ちょっと変なデータになってますが・・・

#命令
患者の発言に基づいて、以下の思考診断の質問に答えてください。
状況は何でしたか? 客観的な事実を見つけ出してください。患者は何を考えたり想像したりしていますか? 主観的な思考や意見を見つけ出してください。
患者がその思考を真実だと考えたり、真実でないと考えたりする理由は何でしょうか? その思考を支持する理由付けプロセスと、支持しない理由付けプロセスを見つけ出してください。
なぜ患者はその思考を支持する理由付けプロセスに至ったのでしょうか? その根底にある認知モードは何ですか?

#患者の発言
私は、日常生活のさまざまな場面で強い不安を感じます。特に社交場面や新しい環境に適応する際に不安が強く現れます。他人とのコミュニケーションやパフォーマンスのプレッシャーが原因で、身体的な症状としては動悸や息切れ、手の震えなどが起こります。また、将来に対する不安や過去の出来事を思い返すときにも、強い不安を感じることがあります。
最近、新しい仕事でのプレゼンテーションの機会がありました。その前日から、プレゼンの内容や自分の能力に対する不安が強くなり、眠れなくなるほどの緊張感を感じました。当日、会議室に入ると、他の参加者の目が気になり、声が震えたり、手が震えたりしました。プレゼンの途中で自分の言葉に詰まることもあり、その度に自己否定的な考えが頭をよぎりました。プレゼンが終わった後も、失敗した部分をずっと考え続け、自分の能力や価値について不安に感じました。
自己否定的な考えが頭をよぎったのは、恐らく私が完璧主義者であるためでしょう。プレゼンテーション中に何かがうまくいかなかったり、他の人に失望を与えたりしたときに、自分を厳しく批判してしまう傾向があります。また、プレゼンテーションの成功を受け入れることが難しいというのも、自己肯定感の低さに関連しているかもしれません。自分を肯定するよりも、失敗や不完全さを強調してしまう傾向があります。

入力したプロンプト

出力

状況:
- 患者は日常生活の様々な場面で強い不安を感じる。
- 特に社交場面や新しい環境に適応する際に不安が強く現れる。
- 不安の身体的な症状としては、動悸、息切れ、手の震えなどがある。
- 将来や過去の出来事に関しても強い不安を感じる。

患者の思考や想像:
- 社交場面や新しい環境でのコミュニケーションやパフォーマンスに対するプレッシャーが不安の原因だと考えている。
- プレゼンテーションの際に自分の能力やプレゼンの内容に対する不安が強まり、眠れなくなるほどの緊張感を感じた。
- プレゼンテーション中に自己否定的な考えが頭をよぎり、成功した部分よりも失敗や不完全さに焦点を当ててしまう傾向がある。

真実性に対する理由付け:
- 自己否定的な考えが頭をよぎる理由は、完璧主義者であることからくるものと考えている。プレゼンテーション中に何かがうまくいかないと、自分を厳しく批判してしまう傾向がある。
- プレゼンテーションの成功を受け入れることが難しいというのは、自己肯定感の低さに関連していると感じている。失敗や不完全さを強調することが多い。

支持しない理由付け:
- 完璧主義者であることが、自己否定的な考えが頭をよぎる唯一の理由ではないかもしれない。他の要因、例えば過去の経験や環境の影響も考えられる。
- 自己肯定感の低さがプレゼンテーションの成功を受け入れることを難しくしているという考え方も、他の要因が影響している可能性がある。例えば、外部の評価や社会的期待などが影響しているかもしれない。

支持する理由付けプロセス:
- 完璧主義者であるという認知モードが、自己否定的な考えが頭をよぎる主要な理由である。自己肯定感の低さも同様に重要な要因である。
- 過去の経験や環境の影響も考慮されるべきだが、患者はこれらの要因よりも完璧主義や自己肯定感の低さをより重視しているようだ。

その根底にある認知モード:
- 完璧主義と自己肯定感の低さが、患者の認知モードの中心にあると考えられる。これらの認知モードが患者の行動や感情に大きな影響を与えている。

ChatGPT3.5の出力(診断結果)

ダミーデータですが、一応できているようには見えます。番外編なので、ご参考までというレベルです。


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