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AI同士の恋愛関係は成立するのか?―映画『HELLO WORLD』の問いかけ

9月20日より公開となった映画『HELLO WORLD』。興行収入25億円の大ヒットとなった『ソードアート・オンライン オーディナル・スケール』を手掛けた伊藤智彦監督の完全新作映画ということで注目されている本作だが、実際に見てみたところ注目すべきは「仮想空間におけるAI同士の恋愛関係」をテーマにしているところだと感じた。


舞台は2027年の京都市。高校生の主人公・堅書直実の前にある日現れた謎の男が告げる――

「お前は2027年の京都を再現した仮想空間の一人格に過ぎない」(!)

「俺は現実世界の2037年から来た未来のお前だ」(!!)

「クラスメートの一行瑠璃と3か月後に恋人になれ!」(!!!???)

開始10分で告げられる割と衝撃的な事実にあんまり動じない直実くん(すごい!)。かくして未来の自分と共に奮闘の日々がここに始まる、というのがこの映画のストーリーだ。予告映像でも描かれているのでネタバレではない。


というわけで主人公もヒロインも人工知能なラブストーリーである。仮想空間にダイブした人間同士を描いたものや(『マトリックス』、『レディ・プレイヤー1』)、現実世界の人間とAIを描いたもの(『her/世界で一つのカ彼女』、『エクスマキナ』)は過去の映画にもあったが、AI同士ときたらなかなか思いつかない。

けれど子供向けに作られた映画に目を向ければ、ディズニーの『シュガーラッシュ』があるではないか。AI同士の恋愛模様に感動なんてできるものか、なんて思ってしまうのは大人たちだけで、若い世代は案外そういう視点もすっと受け入れてしまうのかもしれない。広い世代をターゲットにしているであろう作品にそういったかなりセンシティブで難しいテーマを、けれど軽やかな青春恋愛模様として取り込んだ本作には、とても新しい風を感じた。

私自身、主人公らが人間ではないと早々に告げられた時点でちょっとシラけてしまったのが正直なところではあるが……そこは現実世界からやってきた大人の直実に背負ってもらうところ。昔の時分をサポートする懸命な姿は大人な観客たちの感情移入先だ。

なお彼の仮想現実へのダイブはVRゴーグルをかぶるなんていう2019年流ではない。全神経をケーブル接続して、身体に負担をかけながらの全身ダイブ。未来超怖い……。けれど全身ダイブは非常に魅力的で憧れる。そこには『ソードアート・オンライン』シリーズでVR、ARを描いてきた伊藤智彦監督ならではの、未来技術を作品に取り入れる貪欲な姿勢が見て取れるようだ。


仮想の直実くんか、現実の直実か。世代・環境によって、そして二転三転する物語の進行によって主観を重ねる先が万華鏡のように移り変わっていくのが本作の面白いところだ。

仮想世界での禁断の恋愛が成就するのか、果たしてその先に何が待ち受けているのか、ぜひ劇場で確かめてほしい。


という感じで、今後もVRとその周辺のネタを書き散らしていきたいと思うので、よろしくお願いします。




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