毒親からの解放ストーリー (19)

 まず母に報告しなければならないので、学校から母に電話をしてくれる様に頼んでみた。私は私の高校から、現役で国立の医学部に入学した初めての学生だったので、校長先生をはじめ、全学年の先生方も大層喜んでくれた。そして担任の先生は私のお願いを、少々いぶかりながらも快く引き受けてくれた。

「こんにちは、中井さんのお宅ですか。ユリさんのお母様でしょうか?私、学校長の林と申します。この度はユリさんが徳島大の医学部に合格致しました事を心よりお祝い申し上げます。本校で初めての国立医学部への現役生の合格なので、教員共々喜んでおります。誠におめでとうございました」
 校長先生が自ら母に連絡を入れてくださった。電話を切った後、母は暫くボーッとしていたみたいだったが、我に返ったように夕飯の支度を始めた。そして私に向かってこう言い放った。

「ユリ何で母さんに黙っていたの? 校長先生から電話があって驚いたわよ、何にも知らない母親だって思われてしまう所だったわ、あんたに恥をかかされる所だったわよ!」
 そう言って取り敢えずは私に文句をつけながらも、『本校初めての合格』の言葉と『校長先生じきじきの電話』に喜んでいた。
「ユリの勉強の出来が良いのは母さん似ね」
 珍しく機嫌の良い声だった。

 またいつもの様に私の手柄を横取りする母だ。黙って聞き流すが、本当にうんざりだ。『私が自分で頑張って勉強して合格をしたのであって、あんたが、私に何をしてくれたっていうのよ。受験勉強中だって毎日夕飯の支度をさせていたくせに!』と心の中で毒づく。

 その日の合格の知らせから大学の入学までの一か月にも満たない短い時間で住まい探しから引越しまでしなくてはならない。毎日慌ただしく日にちが過ぎて行く。当時はインターネットは普及してなかったので、ファックスのやり取りで、地元の不動産屋さんを介して部屋を決めた。そして直ぐに引越の日取を決めて、引っ越し屋さんを頼まなくてはならなかった。

 引越しの朝、取り敢えず当面の服と身の回りの品々だけを小さなスーツケースに入れての出発は、はたからみれば寂しそうに見えたかも知れない。でも私の心は、やっと母の専制的な支配から逃れることが出来たという気持ちで、希望に溢れていた。

ただ嬉しそうにしていると、必ず母から嫌なことを言われたり、邪魔されたりするので、私のいつもの癖で、つまらなそうな態度を取ったり、乗り気でない風をしてしまうのだ。

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