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⑥オンライン大学院生!ロンドンメトロポリタン大学会議通訳修士課程で学ぶ

前回の続きです。今回は、まだまだ試行錯誤中ですが、私が行っている同時通訳の練習方法について詳しく書いてみようと思います。

まずクラス全員が揃う一般授業で同時通訳の基礎知識を学んだ後、学生は各言語に分かれて、チューターの先生と毎週2コマ/4時間/16回の授業を受けていきます。その合間に、後期を通して3回の模擬会議があります。その回ごとに違うテーマでゲストスピーカーを迎え、学生も参加してQ&Aや意見交換を行います。そして通訳者に割り当てられた学生が、この会議を同時通訳していきます。あくまで「通訳演習」が目的の会議なので、学生はあらかじめ与えられたトピックやキーワードから準備をし、本番の会議通訳に臨みます。

3回の訳出と録音

言語別のチュートリアルでは、私の場合、日本語⇆英語の双方向に特化した同時通訳演習となります。毎回の授業で、あらかじめ共有されているトピックに沿った教材スピーチを同時通訳していきます。私は毎回、一つの教材につき、3回訳出練習し、毎回録音をする練習をベースにしています。1回ごとに自分の訳出を聞いて反省→改善点の把握→分析(なぜそれが問題か?)→改善したい課題を一つに絞って次に進む、を繰り返すというやり方です。もちろん、一つの教材を何度も何度も練習すれば、完璧な訳出に近くでしょう。しかし、今回のモジュールで私の達成事項は「同時通訳の基本をしっかり身につけること」です。そのために、一つの教材に時間をかけて完璧にすることは私の目標ではないと判断し、各教材にかける時間も録音回数も上限を決めて、ある程度量も重視することにしました。しかし同時に、教材ごとの反省と分析にも十分な時間を取ることをセットで一つの教材の学習サイクルとします。

1回目(初見)の録音: 必ずスクリプトを確認しながら、自分の初見通訳を聞く。もしスクリプトがなければ、もう一度音源スピーチを再生し、内容をノートティキングしてから聞く。大事なのは、スピーチの正確な内容を把握し、それと突きあわせながら自分の通訳を聞くこと。そこで、どこまで正確に訳せていたか、誤訳はなかったか?何を落としたか?を検証するためです。できなかったところは、なぜできなかったか?を分析する。そして、多く見つかる改善点の中で、次回「これだけは絶対に改善したい!」という目標を一つに絞って、2回目の録音に取り組みます。ここでのポイントは、「目標を一つに絞る」ということです。同時通訳という、ただでも脳の負荷の高い作業ですから、目標もシンプルに一つに絞ろうと思いました。逆にいうと、それ「だけ」を意識できればよしとします。そうすることで「注意散漫になって結局何も改善できない」「むしろ後退する」という現象を防ぐようにしようと思いました。というか、一回にたった一つでもきちんと改善できれば、かなりの大進歩です。絶対にやってはいけないことは、反省も改善点の意識もなく、ただダラダラ練習したり、録音を続けることだと感じます。

2回目の録音: 2回目になると、内容がわかっているため、脳に少し余裕ができます。あらかじめ地図と懐中電灯を渡されて、洞窟に入ることができる感じです。これは実際にやってみて気がついたことなのですが、余裕ができると、同時通訳しながら「自分の頭の中で起こっているプロセス」が確認できるようになります。もちろん、2回目だからと言って、劇的にパフォーマンスが改善することはありません。でも、前回と同じ箇所でつまづく、どこで遅れ始める、この言葉が出てこない、などに気がづくのです。そうすると、自分には何が負担になっているのかどこで集中力が途切れるのか、それはなぜか?をより明確に観察することができます。その段階で、さらに客観的に自分の弱点を分析できるようになる気がしました。そこでもう一度、改善目標を設定し、次の録音に進みます。

3回目の録音: ここまでくると、訳出はだいぶ楽になっています。録音3回目の目的は、スムーズに同時通訳することを「体感」することです。自分の脳と体に、その感覚を覚えさせるという感じです。3回目なので、用語もよりスムーズに出てきます。余裕があれば、2-3日間を置いてから4回目をやると、さらに記憶の定着に繋がります。私も以前は「本番は毎回1回きりなのに、内容を覚えて3回もやる意味はあるのか?」と思っていました。しかし「うまくいく感覚」を体感することにも、意味があると今は思っています。例えば、同じ教材で何度か練習すると、どのくらいデカラージュ(発話を聞いてから、実際に訳出するまでの長さ)を取れるのか、どのくらい待つと完全に遅れるのか (だから、どこで切って訳し始めるべきなのか)、そういうことが体感でつかめてくる感じがありました

テクニック面で、具体的な課題はまだまだたくさんあります。スタミナもまだ十分ではないですし、split attentionの持続、声に自信がなさそう、言い直しが多いこと、話すスピードを一定させること、滑舌、文法のミスなど山積みです。あえてここでは、一つ一つには触れることはしませんが、後半の授業で少しでも改善できるよう挑戦していくつもりです。

「うまくできたところ」に気がつくことの大切さ

そうそう。日本語チューターのグリーン裕美先生から、毎回必ず言われる大事なことがあります。それは、自分の録音を聞くとき、改善点だけでなく「うまくできたところ」も必ず挙げることです。自分では、欠点ばかりに気がつくので、よかった点なんてゼロ!というのが正直なところです。でも先生の「うまくいったところは、そのまま継続していくべきことだから、その点を意識することも大事」という言葉に深く納得させられました。なのでぜひ皆さんも、次回自分の録音を聞くときには「よかった探し」をしてみてくださいね!

背景知識と準備

毎回、授業ごとに課される宿題と、次回の予習をするだけで、やはり相当な量になります。限られた時間の中で、次回の通訳練習として与えられたテーマの準備することになります。タイムマネジメントと、自分の集中力を鍛える練習でもあります。実際の通訳案件の仕事でも、前日の夜に100ページ近いパワーポイントが送られてくる、などというのはよくあることです。短期間で、多くの全く異なったトピックに触れ、通訳できるよう準備することは、通訳者に欠かせない作業です。大学院や、グリンズ通訳講座での課題は、そのための時間配分や集中力のマネジメントを訓練しているのだと思っています。またどのくらいまで準備し、どのくらいの背景知識があれば、ある程度自分が精神的に余裕を持って訳出できるのか、そういうことが肌感でわかるようになることも、短期間で量をこなすことの意義だと感じています。


ついに対面授業へ?!

さて、ワクチン接種がだいぶ進んでいるイギリスでは、6月までの段階的なロックダウン解除の方針が示されています。それを受けて、ついにロンドンメットの授業も大学があるロンドンのキャンパスで対面の授業が開始される話が進んでいます。現段階では、4月から週1回は対面授業、その他はオンライン授業という形式になるようです。しかし、それも教室に一回に集まれる学生の人数に制限があったり、また今後のワクチン接種や感染状況、政府の方針次第で変更があるかもしれず、まだ不安な要素は多いのが現状です。でも、昨年10月に修士課程がスタートして以来、Zoomの画面上でしか見たことがないクラスメートに実際会うことができるのかと思うと、本当に楽しみです。今後は、後期課程の後半の様子とともに、ロンドン・キャンパスでの対面授業の様子についても、書けたらいいなと願っています。



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