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世界レベルのサッカーに必要な「認知力と処理能力」

(2018/5/8)

前回の記事 で「オフ・ザ・ボール」の動きにおける認知・情報処理をテーマに書かせていただきました。今回も引き続きこれに関するテーマで書きたいと思います。

その理由は、「オフ・ザ・ボール」について考察し、その重要性や価値に気付いて評価できる指導者や、(認知・情報処理の)質の高い「オフ・ザ・ボール」の動きをできる選手が、世界的にみても女子サッカー界にはあまり多くないと感じるからです。


ただ、インターナショナルレベルの選手(=世界の舞台で厳しい試合の経験を多く積んでいる選手)は、質の高い認知力、そして高い処理能力を備えているように感じます。


その理由を挙げると、インターナショナルレベルにおいて必要とされる、考える「次元」と「深み」、そしてその「」の領域が異なるからです。

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ノンバーバルのメッセージ

「処理能力」は、大きくふたつに分類できると思います。


ひとつは「情報処理能力」。これは「味方や相手、ボールの動きやスピードを認知して、計算する能力」と定義します。


もうひとつは「実行処理能力」。「頭で処理した情報を、身体的動作を使って体現する能力」と定義します。


情報処理から実行処理までの速度と質、そして精度を高い次元で備えた選手同士では、高次の連係プレーが可能になります。過去の経験から「情報量の基礎パターンの引き出し」が多くあるため、前もって予測して動くことができるからです。


基礎が多くあるということは、そこから展開される応用パターンの数も多くなります。そうした高度なプレーをできるのは、互いが次に考えていることを「ノンバーバルの部分」にメッセージとして込めているからです。


私はFWというポジション柄、味方の動き(体勢、位置など)から情報を読み取り、相手との位置関係における駆け引きで優位に立つ動きをしながら、味方からボールを引き出せるタイミングで瞬時に自分の動きを決定しています。


ただ、味方がファーストタッチでボールを置く際に次の展開を予測していなかったり、チームメートの動き出しを引き出せるようなドリブルをしていなかったりすると、何度も動き直しをして、どうにかして味方に「認知してもらう」必要性が生じることは多々あります。


最近は中盤の位置でプレーする機会が多くなり、「認知される側」から「認知する側」の役割が多くなってきているので、味方の質の高い動き出しを認知して、それにこちらが合わせる作業には、かなり高度な処理能力が必要だと実感しています。


心技体の基礎を極める


昨シーズンのNWSL(ナショナル・ウーマンズ・サッカー・リーグ=アメリカの女子サッカーリーグ)で得点王を取った サム・カー という、オーストラリア代表の素晴らしいストライカーとプレーする機会を今季得ています。

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サムはオフサイドラインのギリギリでDFと駆け引きをしながら、優位な状態でDFラインの背後にボールを引き出す動きの質が非常に高い。さらにその動き出しのスピードが非常に速いので、味方がパスを出すタイミングが一瞬でもズレるとオフサイドになってしまいます。


適切なタイミングと適切なボールスピードでサムにパスを供給するためには、サムの動き、相手の位置、空いているスペースを認知(外的認知)しながら、自分の身体を操作(内的認知)しなければなりません。



一緒にプレーする時間が増えるにつれ、私がボールを出す前に目線でサインを送ることが、彼女の動き出すスイッチになっていることもわかってきました。


これは、自分が動き出すときのスイッチと同じです。ボール保持者の目線は重要な情報のひとつで、これにより味方がパスを出せる状態にあるか否かを判断します。


質の高い動き出しを生かすには、処理能力の高い出し手の力が必要です。
また、その動き出しに対して連動できる味方がいると、さらに高次な連係が可能になります。これには「心技体の基礎を極める(高める)こと」が必要で、総じてそれが処理能力を高めることにつながると感じます。

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パターンの引き出しを多く作る


この「情報処理→実行処理」の速度が速くなると、動きがスムーズになり、展開の速度が変わります。スムーズになるということは、無駄やフリーズする瞬間が減り、個・組織の生産性が高まります。


サッカーで基本的な作業のひとつである「味方の動きに合わせて動く」ことは、処理能力がある程度高くないとできないと、最近になってわかってきました。

「ボールを持っている選手に対して合わせる動き」「ボールを受けようとしている選手に合わせる動き」、この双方のイメージとタイミングが重なった時が、まさにシンクロニシティが起こる瞬間です。


相手のレベルが高くなればなるほど、認知する情報量とそれを処理するスピード、正確性(実行の精度)を高めることが必要で、この領域でプレーできることが真の楽しさではないかと私は感じています。


「自分が動けば相手も動く」(自分が動くことで相手も動かざるを得ない動きを選択する)→「相手が動けばスペースができる」→「スペースができれば隙ができる」――。


自分が動くことで何が起きるのかを、まずは認知すること。そして、「なんのために」「どのタイミングで」「どれくらいのスピードでどこに動くのか」を、その認知から得た情報に過去の経験もふまえた上で、組み立てていきます。


ボールを保持しているときもそうでないときも本質は同じで、上記の作業を繰り返し行っていくと状況に応じた「パターン」が構築されていきます。


個人としてのパターンの引き出しを多く作り、処理能力を高めていけば、組織としてのパターンのバリエーションを増やすこともできます。各自がこういった引き出しを多く作る努力をすることは、組織力を高める上で、必要な仕事のひとつになると思います。


個人として無駄を減らして生産性を高める作業のひとつが、このパターン化です。そうして生産性を高めることで勝率を高め、質のよいサービスを提供することが、企業(チーム)としてやるべき最低限の仕事です。


ただ、なんとなく仲間とわいわいしながらサッカーをして、「楽しい」という概念が昇華されたとき、組織としてひとつレベルアップした領域でのプレーが可能になるーーー その領域に一歩足を踏み入れた時、質の高い楽しさを味わうことが可能になる。


そこで感じる楽しさこそ、本質的な「楽しさ」であると私は思います。

みんなが協力しあって生きていける社会へ。愛と共感力で、豊かな世界を創っていきたい。サッカーが私にもたらしてくれた恩恵を、今度は世界に還元していきたいです。