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冒険はいつだってノックをしない 第15話

第14話 / 第1話 

第15話 帰路は始まり

 土の惑星へ到着すると、大工の老人や、使用人、奥の扉からは王様が出迎えている。笑顔でこちらを見る彼ら。だがヤクモが抱える人の姿を見た時、彼らは悲しみの表情に変わった。
「イグニス……」
 目を赤くする王様。
 多くの人が泣いていた。グッと堪えるヤクモ、すると空気を読んでか読まないか、大工の老人が「ヤクモ、お前の旅の話を聞かせてくれんかのぉ……」と話しかけてきた。
「俺たちは生命の樹に行く」そう話すヤクモの左目は、うっすらと青くなっていた。
「……そうか。そういうことじゃったか。ほれ行きなされ、お主らにはまだやるべきことが残っておるのじゃ。残すは太陽の惑星のかけらじゃ。しかし、太陽の惑星は厄介じゃよ。お主らの船ではとうて行くことはできんのだ」
 イグニスを国王が抱えると、何も言わず城へと入っていく。
「じゃあどうすればいいんだ? どうやって太陽の惑星へと行けばいい?」
「ほっほっほ。そのうち迎えが来るはずじゃ」
「なんだ迎えって?」わけがわからなくぽかんとしているヤクモ。

「国王は全て分かっておる。大丈夫じゃ。わしらがなんとかするからのぉ……嬢ちゃんに助けてもらった恩もあるし、後のことは任せんしゃい」
 何も言わず頷くヤクモ。
 一行は城を出ようとしたとき「皆さん、あれを見てください。いや~何が起こるかわかりませんねぇ。ほんとうに。」イアンが空を指差しながら言う。彼が指差す先には、巨大な鳥が飛んでいた。黄金に輝く、まるで太陽のような鳥だ。
 イグニスの隣に降りてくると、我々に頭を下げてきた。
「これはもしかして……黄金の鳥、太陽まで運んで行ってくれる鳥ですよ」
 イアンが興奮気味に言う。
「でもなんで僕たちのところに」
 そりゃそうだ。黄金の鳥は人見知りで滅多に人間に寄ってくることはない。なぜだろうとハルが鳥に目をやると、見たことのある印が。鳥の頭に赤い毛が一本生えている。
「これって……ボンド! 赤い毛だよ!」
「まさか……お前キイちゃんなのか?」
 ボンドに擦り寄る巨大な鳥。この鳥は、ボンドが長い間生活を共にしたキイちゃんだったのだ。
 どうやらオンボロ船の一行を太陽に運んでくれるようだ。
「しばらくここに船を置いて、向かいましょう。太陽の惑星へ」イアンは眼鏡をクイッとあげてこういった。
「そうだな」
 大きくなった美しい巨大な鳥にまたがる一行。ヤクモとボンドに挟まれるハル。
「なんだ、怖いのかお前?」
「そ、そんなことないよ!ただ……」
「しっかり捕まっているんだな」
 そういうとヤクモはハルの腕を自分のお腹に回した。密着する身体。ハルが驚くと同時に、黄金の鳥が太陽に向かって飛び出していく。
「うわわわわわ」
 ハルはヤクモのお腹にぎゅっと手を回した。当然のことながらハルの後ろにはボンドがいるから後ろから抱きしめられている。
「太陽に行くのに、鳥に乗らないといけないなんて僕聞いていないぞ!」
「私も驚いていますよ。それにボンドが飼っていた鳥があの黄金の鳥だったなんて、まだ信じられません」
 ハルの後ろに座っているボンドとイアンが話していた。
「ねえヤクモ? 私イアンさんに借りた本で読んだんだけれど、太陽のカケラってないんじゃなかったの?」
「ああ、無いさ。だから俺たちは太陽の元にいかないといけない」
「言ってる意味がさっぱり分からない」
「ははっそうだろうな」
 太陽に近ずくにつれてジリジリと体が熱くなってくる。
「私たち焼けちゃわない?」
「大丈夫だ。この辺に入り口があるはずだ」
 人間の身体ではこれ以上耐えられなくなるようなジリジリとした暑さになってきた時、目の前に黄金の扉が現れた。
「あれが……」
「しっかり捕まっておけ」
 黄金の鳥がものすごい勢いで扉に向かって進み始めた。
「ぶつかっちゃうわ」
 あたり一面黄金の光に包まれる。
 
 目を開くと一行は、キラキラと輝く硝子でできた門の前に立っていた。門に出入りする人たちは、彼らの格好を不思議がって見ているのだが、門に出入りする人も不思議な格好をしていた。
「あの子達新入りじゃない?」
「しかし何のためにこの太陽まで来たのだろうね」と会話をしているが、全てオンボロ船の一行に聞こえていた。

「ねえヤクモ、私たち超目立ってない?」
「だろうな」それもそのはず、太陽の惑星に無理して近づいたため、服は焼け焦げ、毛先は縮れているのだから。彼らを心配そうに見つめる通行人も多かった。
「中にお入りなさい」とどこからともなく聞こえた声で、彼らは門をくぐった。
 天まで続く大きな階段がある。
「私たちは今からこの階段を登るのよね」ハルが言った。
「もう一度キイちゃんに運んでもらうっていう手はどう?」と、ボンドがいうと、ヤクモは階段を登り始めた。
「見ろ、キイちゃんは疲れて寝ているだろうが」
 ヤクモが階段を少し登ったところで、彼らに言った。
「のようですね」イアンが言う。
ハルは見つめる先は、巨大な石の階段が天へと続いている。黄金の鳥を見ると地面に羽を下ろして休んでいるようだった。
「そうね、ボンド頑張って登りましょう」
「分かったよ……」
「これから何が起きるんでしょうね。ワクワクします」
 ハルの隣にいたイアンがささやいた。
 ヤクモを追いかけるように、それに続いてハルやイアンも登り出した。下を見たらとんでもなく遠くに、登ったはずの階段がある。足がすくんでしまいそうになったハルは、大きな深呼吸をして再び階段を登る。

 石の階段を登り切った時、目の前に巨大な宮殿が現れた。
「きっと……この先にいるはずだ」
「いるって誰? また変な魔物じゃないよね?」
 ハルが心配そうに尋ねる。
「ははっ大丈夫だ。ここでは魔物は出てこない」
「そう、ならいいんだけど」
 石畳を真っ直ぐ進むと巨大な扉が見えてきた。両サイドには門番が立っている。白いワンピースのようなものを着て、腰には杖だろうか、キラキラ光っている石が埋め込まれた杖を身につけている。
「すごいな。あの二人。男か女かわからないや」
「ボンド、この惑星では性というものがないのですよ」イアンはまじまじとあたりを見回しながら話す。
「不思議なところだな」
「宇宙の中で唯一、無性(性別を持たなくていいこと)が認められているのです。私もこの惑星に生まれたかったと何度思ったことでしょう……」
 イアンがつぶやいた。
「こちらです」
 案内され大きな部屋に入った。天井には巨大なステンドグラスがキラキラと光っている。奥から人が出てきた。
「あれは……太陽の国の長……」
 ヤクモが呟く。

「おじいさんかおばあさんか分からないな」ヤクモの隣でボンドは呟いた。
「ボンド、あなたも膝をつきなさい」イアンはボンドに言った。ボンドが周りを見渡すと、ハルもヤクモも、イアンも皆膝をついて顔を伏せていた。
「長旅ご苦労であった」太陽の国の王が彼らの前やってきて、膝をつく彼らに言った。
「ほっほっほ、よくここまで来たな。顔をあげなさい」王様はそう言った。
 まじかで顔を見ると、王様はしわくちゃの顔をしていた。
「イアン、そなたが望むならこの惑星にいてくれてもいいのじゃぞ、そのほうがこの国の科学は発展する」王様はイアンに向かって話した。しかし、イアンの返答は王様が想像していたものと異なっていた。
「ありがたきお言葉。しかし私はまだやるべき事がございます。まだ止まることはできません」
「ほっほっほ、そうであったか」
「ボンド、お前は生命の樹を完成させた暁に何をするんだ?」
ボンドは王からの問いにポカンとしている。
「なぜそなたの名を私が知っているか、知りたいようじゃな
「僕は、動物ともっと会話がしたい。だからしばらく山に篭ることにするよ」
「ほほう。面白いことを言う子じゃ。「ハルよ。お前はどうするんじゃ、戻ることもできるぞ?」
「私はもっと誰かを自分の技術で助けたいと思います。医療が発達していない惑星もありますし」
「そうか……お前はいい仲間に出会ったな」
「はい!」
 ハルは自信満々に答えた。

「ほっほっほ。退屈な惑星から連れ出してもらえてよかったの……」
 「早く行くといい。時間がないぞ」
「どういうこと?」
 さっぱりわからないハルは石の階段を降りながらイアンから説明を受けていた。
「太陽のカケラは存在しないと読みましたよね? それは本当です。ただ、カケラが存在しないというだけ。正解には太陽はどこにでもあるんですよ。自分が存在を認識さえすればの話ですが」
「存在を認識した瞬間から太陽なんだ。お前のようにな」
 ハルの頭にポンと手を置くヤクモ。
「行くぞ、木の惑星へ」
 太陽の惑星、それは自分に向き合うための悟りの時間を与える、気づきの場所だったのかもしれない。
 一行は船に再び乗り、木の惑星へと向かった。船内には、大きな鳥も一緒に乗っている。木の惑星に向かう途中、コックピットに集まる一行。
「ねぇボンド、山ってどこの山にいくの?」太陽の惑星の国王との会話を思い出したハルは、ボンドに尋ねた。
「知らないのか? 宇宙には樹の惑星以上に、緑が沢山ある惑星があるんだぞ」
「初めて聞いたわ」
「木の惑星から定期便も通っているみたいですし、交通に不便はありません」
 イアンは、自身の眼鏡をクイッと上げながら言った。
「そっか。寂しくなるね」
「いつでも会えるぜ!!」
「そうだね」ちょっと悲しそうなハルの隣には静かにヤクモが立っていた。

「見てくださいみなさん。完成しました」
 イアンが奥の部屋からやってきた。彼の手にはキラキラ輝く石が四つ。
「イアンさん、これはなんですか?」
「今までに集めてきたカケラをちょっと削りまして、調合したんです。そうしたら不思議な石が出来上がりまして~さっもらってください。私からのプレゼントです」
「いいのかイアン?カケラを削ってしまって…」と、ボンドが心配そうに尋ねる。
「ええ、この本にも書いてありましたから」そう言って徐に宇宙の解き方と書いてある本を出してきた。
「確かに、書いてあったね」
 早速手に取る四人、皆それぞれが首や手につけた。
「今回の旅は絶対忘れない。仲間がお前らで本当によかった」ぶっきらぼうではあるが、ヤクモは彼らに感謝の言葉を述べた。
「船長泣かせるなよー」
 ボンドがわんわん泣きながら叫んだ。
「あはは。可愛いね」

 一行はそれぞれにかけらを身につけ歩いている。
「また来たわね、ここに」あの時よりも暗い宇宙の樹。ハルは二度目の宇宙の樹だ。ヤクモは宇宙の樹に触れ、樹の正気のなさに驚いていた。
「まさかこれほどまでエネルギーがなかったとは思わなかったぜ。よく耐えてくれたな」とういうと、ヤクモの掌でキラキラ光る三つの石は、導かれるように樹の中に入っていった。

「すごい、木の色が一気に鮮やかになっていくわ」
「俺もこの光景は初めて見る」樹に生い茂った緑。新緑を思わせる綺麗な色だ。

 ーーーーお前たちに感謝をする。ありがとう。
 宇宙の樹の深く、鋭い声が宇宙に響いた。
 術者の惑星の暗い時間は、明るい時間へと変わり、木の惑星の砂嵐は消え美しい砂漠の景色が広がった。
 砂の神殿から出る一行。
「オイラたちはここで別れるんだな」
 涙を浮かべるボンド。
「ボンド、ありがとうね」
「ハル~」ボンドとハルは抱き合っている。
 すると空から黄金の鳥がやってきた。
「ボンド、見てあれ」ハルが指差す先には、黄金の鳥が気持ちよさそうに飛んでいる。
「こっちに来るみたいですよ」
「イアンさんはどうするのですか?」
「私は。土の惑星の王様からやるべきことを頼まれましたから、それに着手することにします」
「そうですか、じゃあ……」と、言葉に詰まるハル。
「これが最後ではありませんよ」
 イアンは優しく微笑んだ。
「そうだぜ」と、ハルの隣にやってくるヤクモ。
「俺たちはいつでも会える」
「ヤクモはどこにいくんですか? 次の土の国、王様は城に戻るとは言わなさそうですしね」
「ヤクモは国王様か! いいな!」ボンドはヤクモの未来の姿を想像し、胸を躍らせている。
「俺はまだ旅を続けるつもりだ」
 彼の見上げた先は、遠い遥か彼方の宇宙だ。
「ハルちゃん、お前はどうするんだ? 宇宙病院に戻るのか?」ボンドがハルに尋ねた。

「いや、あそこにはもう戻らないわよ」イアンはヤクモを見た。
「そうね……これからどうしようかしら……」
「いいか、この世界は広い。だが宇宙はもっと広い。自分が知っている物だけを過信したらいけない。だから俺はまだまだみたいんだ」
「ねぇヤクモ、私も……ついていって良い?」
「もちろん」
 ニコッと笑い会う二人。

 己の望み、誰かの望み自分が大切にするもの、これが違うから人は戦うのだろうか。宇宙の人々の小さな想いが今日もぶつかり合う。いつか来る平穏という宇宙を願って。
 ハルが術者の惑星で拝借してきた本が唐突に開いた。目をやると、新たな言葉が刻まれる。

土は火を作り出す
火は水を温かさで溢れさせ
水は木を柔らかな力で満たす
木は、山は大きな宇宙そのもの
そして、宇宙の全てを包み込む太陽は、凍えた人の心を溶かすだろう。
本の歴史は再び進む。

「じゃあ、またね」
 そう言って彼らはそれぞれの道に進み出す。空にはキラキラ光る流れ星が見える。

「ーーーーこの世界で、何かを保つことは非常に難しい。育て続けること、戦い続けること、生き続けること。しかし、私は生き続ける努力をしてみようと思った。彼らに出会い、共に旅をする中で必要なのは自分自身が、「自分を必要だ」と思うことだ。太陽、水、土が宇宙の樹に必要だった。どれだけの存在がこの宇宙にいるのだろう。我々は果てしなく続く宇宙の謎に立ち向かわなければ、守っていかなければならない。」
 ツルツル頭の老人は安心したかのように眠りについた。
 
 そのそばで、土の王様は微笑んだ。
「この先の未来はあの子達に任せましょう。安心して眠ってください」

 遠くに光る惑星を眺めながら土の惑星の王様はつぶやいた。

エピローグ

「っしかし宇宙は平和なもんだよな」
 木の惑星に到着し、船から地上に降りるヤクモ。
「何を言ってんのよ、さっきま宇宙警察と戦っていたじゃない」
 彼の後を追いかけるように、ハルが船から降りてきた。
「宇宙警察に頼まれたんだから仕方ないだろ」
「あんたね、これ以上船を壊さないでって言ったでしょ!」
 宇宙一体にハルの怒号が響き渡った。

「相変わらずですね、ヤクモとハルさんは……」
 船の影からひょっこり顔を出すイアン。
「船長! 準備できたぞ!」
 そして、大量の爆薬を持ったボンドが現れた。
「今回は長旅になりそうですね」
「だから二人を呼んだんだ」
「久しぶりに全員揃ったわね!」
 広い木の惑星の砂漠を眺める四人の後ろ姿は、あの時集めたカケラのように輝いていた。

fin.


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