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田んぼの真ん中で「私は女性です」と自己紹介したあの日

わたしは女性である。
心も体も女性であり自分では
そう認識している。
だが、周りにそう認識されず

大きな声で

「わたしは女性です!」

と二度ほど人生で自己紹介したことがある。

はたして初対面の
今までも今もこれから先も
まったくの赤の他人である人間に
自分の性別を説明しなければならない羽目になる人は、いったい世の中に何人いるのか。

なぜ珍事の神様はわたしを
ほっといてくれないのだ。

まず一度めは電車で痴漢に
間違われたときのことである。

悪名高い、さる都心に向かう
アウシュビッツの護送車のような満員電車の中
いつもどおり駅員にラグビーのタックルのごとき体当たりで押し込まれたわたしはからだの自由がきかないままある女性のお尻のあたりに手があたってしまった状態で身動きがとれなかった。

なんだか、同性とはいえ多少の気まずさもあり
手を抜こうとするのがかえって誤解を招いたのか女性がキッと振り返るような仕草を見せたので思わず

「わ、私女性です。」

と自己紹介せざるを、えなかった。
周りのキョトンとしたあの空気。
四方から視線が刺さる刺さる。

そして二度めは仕事帰りの夜22時過ぎ。

駅から当時の自宅までの間に
なぜか田んぼ道があったのだが
わたしはとにかく夜道がこわい。

夜の公園、住宅街、たんぼなど
灯りと人気がないところが大嫌いな
こわがりさんなのだ。

駅から帰る道々、
10人はいた人たちが
その日に限って散り散りにきえていき
暗い田んぼの畦道には
むこーーーうのほうに歩く女性があれば一人と
私が一人だけになってしまった。

あの女性までがいなくなってしまったら
わたしはこんな真っ暗な
妖怪しかいなさそうな田んぼに
一人取り残されるのだ。 

こわい。
絶対にいやだ。

必死の思いで足早に歩き
女性に近づこうとするわたし。

だが、様子がおかしい。

わたしが急げば急ぐほど
女性も同じスピードをあげて
歩き去ろうとする。

その様子はさながら
磁石のN極とN極のようで
近づこうとするほど遠く離れていく。


え、あの女性は、蜃気楼なの?
もしくは追えば追うほど遠ざかる恋? 

ともあれ私にとっての希望の光は
もはや彼女ひとりであり
どんな事情があっても
私はその光を見逃すわけには行かないのだ。

お願い置いていかないでぇえぇ。

焦るわたし。
逃げる彼女。

何故なのだ何故なのだ。

そうこうしているうちに、ハタと、気づいた。

あれ。

わたし、もしかして痴漢に間違われてる?

我が身を振り返ってみてみれば
もともと170近い身長に
6センチほどのヒールを履いており
肩幅はガンダムサイズ、
骨盤も整体の先生に
安産だけは太鼓判を押された骨格。

シルエットだけみれば
男性に見えることも確かにありえる。

わたしが、わたしを女性と認識していたって
テレパシーでは伝わらないこの思い。
仕方ない。
背に腹は変えられない。
絶対にこんなところで一人には、
なりたくない。

必死の思いで
それはもう渾身の力をこめて
腹から出しきった大声で

「わたし、女性でーす!!」


とさけんだ。
 

かくてわたしが痴漢ではなく
女性だと分かるやいなや
女性はホッとし、
とたんに歩みをゆるめ、

るかと思いきや更なる速度で逃げ去った。

わたしはまったくもって夜の10時に田んぼの畦道で見知らぬ人間に
女性であると自己紹介する
奇行に及んだただの変人でしかなかった。

単純に、急いで帰ってるだけの
女性だったらしい。

そしてわたしは自分の恥ずかしさに
絶望しながら帰途についた。

だがまぁいい。

わたしはガラパゴスの娘である。
https://note.com/yukimonogatari/n/nb34fcf45e390
挫けてはいられない。
そんなことでは奇人の娘の風上にもきっとおけないのだから。






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