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よそみ

あなたに触れられながら私が別の面影を追っていることも、後ろ向きにした彼の遺影の前であなたにキスをされながら罪悪感とどうしようもなさに飲み込まれそうになってしまうことも、  私のよそみの気配が関係のない彼まで傷つけてしまっている。 私がどんなに泣き叫ぼうが渇望しようがあなたはもうさみしい夜にその腕で私を抱くことはできないし、私にキスを落とすことも、昔よくしてくれたように眠れない夜を隣で温めてくれることもできない。クリスマスの夜は空白になって私の暦からは消えてしまったし、それ

    • 無題

      わたしはなんでこんなこわいところにいきているんだろう。 目が覚めるといつもそう思う。 「入院してちょっと心を落ち着けましょうか」 「入院なんかしたところで,先生は,病院は、わたしの、なにを変えられるんでしょうか」 「家にいるよりは安全が守られるし,環境が整えば ちがう、ちがう、あなたたちが整えようとしてる場所は,私の体からすごくすごくとおいところにあるんだよ。 体とこころのもっともっと深い奥底にある黑くて硬くてはげしい石たち。 そこから体中に発せられる容赦のない

      • 死者不幸の夜

        自分の字を褒められるとうれしくなったのは 空白の時間の孤独な努力の結果だったから。 煩いよ、投稿の削除で跡形も無くなってしまうようなチープな愛情も、飛び交う欲と熱に発せられた会話も ただ煩い。 私とは違う時間軸でぐんぐん人生を進めていくみんなも ずっとあの地点を忘れないでいることで自分だけ薄情者から免れていると勘違いしている自分だって、抜け方がわからなくてすっかり大人になってしまった自分の輪郭も実感できないでいる。 がらんどうな私の頭から消えないこのやけに高コントラスト

        • いつぞやかの

          こんな時はあなたのやわらかい肌に包まれて安心して心をむき出しにして身体を預けてしまえたらどんなにいいだろうかと思う。 この世界にそういう居心地に良い場所はあるのだろうか。

          東側は入院

          机のうえのコップの絵柄の熊だけが私に笑いかける モノクロの天井,彩度を失った世界 肉片だけが転がっている 目玉をギョロギョロ動かしながら 何も映らない無機質な瞳 そのうえにかかっているフィルターは分厚くて 遠い。 世界が全部自分から離れてゆく。 音も声も優しいオレンジの光もあたたかいあの人も 全部はなれてとおい 自分だけつめたい床に 転がっている。 果てがない 果てがない、青。 果てがない空間。 歪んだ視界に あなたの押し殺すような笑顔がみえた

          東側は入院

          ひとり一つのお月様

          心の核には誰も近づけないみたい哀しい悲しくないあなたはどこのわたしがすきなの?あなたが知っているのは半径3メートルからのわたし。わたしは毎日背中に羽を背負って行方不明になるから,そのあいだはちゃんとお留守番しとくんだよ。抜け殻のわたしをみつけたらいけない。ノックをしてもだめよ。深い底で安寧の鼓動がしずかにうごいているんだから。誰にも邪魔されないこの時間。この時間だけ心臓はトックトックと人の目気にせず脈打つことができる。森のブランコで休憩しているあいだ,熊さんがアップルパイを持

          ひとり一つのお月様

          4.27

          しとしと降る雨が特にニガテ。 冷え切った湿った空気が体に染みこんで逃げ場がないの。 見覚えのある哀しみがすばやく静かに体に染みいるの。 部屋は青ざめて、口から出る息はか細くて 体の中が海になったみたい。 重くて.深くて,青くて,静かで,果てがない海。 そこにずっと沈み込んでるの。 大事な人とガラス玉みたいな透明な想い出が。 この世界で,ここだけにある永遠。

          8.17

          今日の世界は何色だった? ほんの数cmの距離にいて,同じ言語を使っても 見えている世界は完璧にまじりあうことはない。 青ざめた私の世界のフィルターを知らないままで, 青がよく似合うとあなたがやさしく笑うから, 夜空に馴染んで酸性の紫陽花に溶け込んで, こんな想いは瓶詰めにして 青く静かな海に投げ入れよう。 いつまでも深海でたゆたう魂のりんかくを 秋になったら月明かりで照らしてほしい。 あの星があなたなら。

          静謐なみずうみの底

          過剰服薬で沈み込んだ湖の底は,透き通った藍色をして 静かで穏やかにゆれている。 さんかく座りをした私を包みこむやわらかな水圧に安堵して この静謐な世界がいつまでも続けばいいと願う。 体からとめどなくあふれる血は,果てのない水で薄められる。 無秩序に投げ入れられる刃も,水の表面で押し返されては静かに水面に横たわるだけ 安寧のみずうみ。静かな世界。 死からも生からも遠い場所。 欲しくなかった痛み,すべて抱きしめながら 優しい水圧に守られて丸くなる束の間。

          静謐なみずうみの底

          紫陽花と金木犀

          金木犀と紫陽花はルーレットの反対側。 夏至に時空は最も歪み、 梅雨は自分の濃度が一番淡い。 滴る雨水の中をふわふわと揺蕩うように歩く。 濡れたアスファルトの重々しい匂いと同化してしまいそうになって、 あわてて傘を開く。薄いヴェールで包まれれば どんな哀しい音色だって 柔らかくほぐされて傘のふちを伝って地面にぽつりと落ちる。 金切り声も、絶望の音楽も、瞳孔の開いた瞳も すべて溶け出して地面に滑り落ちるおかげで 今晩の空気は澄んでいて 息がしやすい。

          紫陽花と金木犀

          複雑性のP

          おもたいからだ 信号のこわれた脳みそ へんとうたいが支配した生活 単回と複雑の、このふくざつさ 人になりたい。 うそだ,イルカになりたい 今日は絶望の雨が降ります。 それから月光が照らします。 さびれた体をピカピカと ちっとも洗い流れないこの体温に あなたは空虚という名をつけて 煙が通過する空っぽの体を眺めた。 今日は脳内にバクテリアがあふれていただけなの。 普段はふつうに元気なの。

          複雑性のP

          夜空を閉じ込めたワンルーム

          完璧ばかり求めてしまうけれど この世は灰色なものばかり。 永遠しか信じられないのに 目に映るものすべて ころころ移ろいゆく儚いものだと知ってしまっている だから,もう消えてしまった星の光だけを抱きしめて 月の端っこで呼吸をしよう。 消えてしまってもなお,いたいくらい心に刻まれていた光だけ まっすぐに愛せてしまう。 だからいつも,消えた幻影ばかりを追って 傷跡の輪郭をなぞってから,ねむりにつくの 取り残された夜空のワンルームで鍵をかけたまま,ひとりぼっち。

          夜空を閉じ込めたワンルーム

          波々

          空想の世界の住人になって 安全になる。 立体的な世界は 私には鮮烈すぎたので イソギンチャクに隠れてエラ呼吸に戻ろう 今は何もかも忘れて目に映るものみんなうそだよ 眠っていた羊水みたいな海底で 今日は何を話そう 誰と踊ろう この穏やかな夜がずっと続けばいい 陽の光が届かないところまで 一緒に深く潜ろう。

          コーヒーカップの淵から 転がり込んできた柔らかな傷跡が クリープで包まれて、カフェインと敵対して 喉元にすべりこんでゆきます 体に染み入る感傷のみずうみのもとになって 夜と一緒に覆いかぶさろう 目隠しされたら見えないし 扉の開く音で震えます 全ては昼間飲んだコーヒーのせい。 透明な侵入者。ふさぎ込んだ怒り。 窓際の鮮やかなチューリップ。 絵本みたいに平べったい本当のお話。

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          今月、あなたが生きているということが 嘘になって半年が経つみたいだ。 面影を引きずりながらなんとか生活をし、 毎日泣いていたような気がする。 よく覚えていないが、それでも生きているらしい。 そんな風に迎えた私にとって特別な日付、3月3日だ。 去年より孤独に身を浸し、これからの展望は見えなくなった、 語りえた傷は語ることができなくなり、寂しさを持て余し変わらずたまに男に抱かれ、その場しのぎの言葉は相変わらず吐けないまま、恋愛に対する重荷はどかんと増した。 だけど

          溢れた感傷の降る夜に

          2018.summer 時々どきっとするくらいその隠れた誠実さで私の胸を躍らせるくせに 次の瞬間にあなたは無自覚にいつもそうしてきたような自然さでわたしを忘却の海にしまい込む。 その波のなかで私はいつも溺れていた。 無自覚に人をこんなにも翻弄してしまうあなたの残酷さと、そうしてしまう自分の性を詫びつつも 気にしたところで治せないのだからと理論的に結論付けてしまうあなたに 私の心は何度波打って何度苦しめられただろう。 すきだったのだ。自分の感情を認めたがらない不器用

          溢れた感傷の降る夜に