先生はやったことないの?

黒板を消そうとした私の手を掴んで、りえこ(仮)さんは、言った。
(りえこさんは、「そういう子なんだもん!」というお話に出てくる子です。よかったらそちらもお読みください)

「先生は、黒板に落書きしたことないの?」

「あるよ」
と、私は答えた。

「じゃあ、いいじゃん、私たちが書いても。
先生だって、やったことあるんでしょ?」

あるけどねえ・・・
と、私は思った。

私が消そうとしていたのは、
クラスの友達の悪口を下品な絵と一緒に書きなぐった落書きだった。

ちなみに、りえこさんが書いたのではない。
書いたのは、その(黒板に書かれた)子と喧嘩をしたばかりの、りえこさんのクラスメートである。

黒板に縦横無尽に書き殴るのをしばらく見ていたのだけど、
あまりに酷いので、
「もういいんじゃない?」
と、消そうとしたところだった。

気持ちを可視化するのは悪いことではない。
でも、それを誰もが見ることの出来る黒板にするのは違うのでは?
と、私は思った。

だが、
りえこさんも彼女のクラスメートも、
喧嘩した相手に、その下品な落書きを見せつけてやりたい!他のみんなと一緒に笑い物にしてやりたい!
という、何かどす黒い渦に飲まれているようだった。

それで、私の、
あるよ
に対して、鬼の首でもとったかのように言ったわけである。

「先生だって、やったことあるなら、消さなくてもいいじゃん!」
(私たちばっかり悪者にしないでよ!)

私がやったことがあるのは、
「黒板への落書き」
であって、
「黒板を使ったケンカした相手への報復」
ではないんだけれど、
じゃ、やり方はともかく、
「ケンカした相手への報復」
をしたことがないか、と言われると、
それも、まあ、あるね😅
りえこさんよりも何年多く生きていて、
何回多くケンカしたことがあって、
どのくらいどす黒い心を持ってると思ってる?大人だぜ?
たいてい、大人の方が子どもよりもずっとひどいやり方で、ずっとひどい心で、
相手に報復したことがあるね。間違いない。

しかし、
だからといってここで、
その悪口だらけの黒板の落書きを見過ごすのは、やっぱり違うと思ったので、
「こういうのはやめた方がいいよ」
とだけ、言った。
当然、
全く納得しなかったので、
その場はそのままにして、2人を体育の授業に移動させた。
(体育でみんなが移動して、いなくなったスキに落書きしていたので)

そして、いったん私も体育に移動して、
それこそスキを見て教室に戻り、
黒板を隅から隅まで綺麗に消しておいた。
あとで聞かれても、
「え?消えてた?なんで?」
と、すっとぼけられるように。

人を傷つけたい、痛めつけて注目されたい、そういう気持ちが暴走しちゃうとき、あるよね。
でも、それを相手にぶつけても、決していい結果にならない。

子どもたちも、これからたくさん経験するんだろうし、
もしかしたら、今回のそれが、その1回の経験なのかもしれない。

だけど、そのままにしておくのは、私が嫌だったので。
こっそり消しておく、という手段を使ってみた、というお話。




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