そこはもう見たんだもん!

ゆりな(仮)ちゃんは、気が付くと1人だけ違うことをしている。
たぶん、悪気はない。

教科書を読むときも、
みんなとは違うページを見て、
1人でブツブツ音読しているので、
いつも先生に、
「違いますよ!」
と、注意されている。

注意されても、たいていはそのページを見続けるので、叱られる。

私が近づいて、
「ゆりなちゃん、みんなはここを勉強しているよ」
と、ページを開き直すと、
「そこはもう、みたんだもん」
と、言ったりする。
それから、おもむろに、
「せんせい、なんがつうまれ?ゆりなはねー・・・」
と、話し始める。
授業中なので、
「あとで聞かせてね~」
と、言うと、それでもしゃべり続けるか、
つまらなそうにブツブツ音読に戻る。

字はきれい。
板書は完璧。
計算も正確。
ただ、例えば、
○怪我をしたクマの気持ちを考えて書きましょう
というような課題(1年生なので、クマの絵に吹き出しがついていたりする)は、なかなか出来なくて、
〈かわいそう〉と書いたりする。
「それはゆりなちゃんがクマさんを見て思ったことだよねえ。クマさんはどう思ったかな?」
と、聞くと、〈いたいよー〉と書いていた。

自分から挙手して発表するのは見たことがない。
お友達の発表を聞いていることもなさそうである。

今のところ際立って学習の理解に遅れはなさそうなんだけど、
活動のはじまりに、毎回違うことをしていて、先生の説明を聞き逃してしまうので、
活動は、ワンテンポずつ遅れていく。

常に大人に急かされて、声かけされて動くのでは、大変だろうなあ、と私は思っているが、
どうしたらいいかしら?
と思ったので
支援員の集まりのケース会議で出してみた。

ケース会議では、学識者(大学の先生)もアドバイスをくれるのだけど、
その先生いわく、
「ゆりなちゃんの世界を理解すること。
現実の世界に戻ってくるための、キーワードが何かあるといいね。
あちらとこちらの世界の繋ぎ役になってね。」
とのことだった。
なるほど。いい先生である。

ぬいぐるみが好きで、
小さな妹がいて、
お誕生日がお父さんと同じ月で、
鉄棒にぶら下がるのが好きな、
ゆりなちゃんの世界から、
こちら側はどんな風に見えているのか。

この間、
「せんせ、あしたもくる?」
と、聞かれた。
「私は、明日は別の学校に行くからここには来ないの」
と、言ったら、
「ふーん」
と、言うので、
「先生、明日も来た方がいい?来なくても大丈夫?」
と、聞いてみたら、
「きたほうがいいよ」
と、言っていた。

休み時間に一緒に遊ぶからかしら?笑
とりあえず、嫌われてはいないみたい。
あちらの世界を見せてもらえるようになりたいな。

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