見出し画像

絶対忘れるながやめられない 9

前回のお話はこちら

2015.4
3月に「絶対忘れるなのテーマ」のMVを公開して、はじめて少しだけ「外に届いた」感を得た我々。ここにきてようやく「CD出さん?」という話が出ていたことをツイログで確認。このときで結成から6年近く(もう驚かなくなってきたよ)。

CD音源を出せるということは収録できる曲があるということ。そう、書き忘れていたけれど2015年初冬、「絶対忘れるなのテーマ」の他に「アイスクリームポップアップトゥギャザー」「ABCじゃなくGHI」という曲のミックスも完成していたのだった。「テーマ」と同じ、園田健太郎さんによるもの。

ここでちょっと時間を戻して「アイスクリームポップアップトゥギャザー」という曲について話そうと思う。

2013年初ライブの記録で曲自体のことはサラっと紹介してしまったけど、この曲のデモを志賀ラミーさんが作ったときの衝撃はすごかった。何よりまずドアタマのサビ。一回聞いたら頭から離れないメロディだった。これが"キャッチ―"というやつか、そう思った。志賀さん、こんなのも作れるん……?その頃の自分はでんぱやリリスクなどアイドルばかり聴いていたこともあり、デモの時点で大好きになった。

2013年2月の初ライブで披露することが決まったので、それまでにリリックを書かなければならない。2012年末、高円寺ぜわすハウスで頭を悩ませた。自己紹介ラップや、ひたすら「膀胱」で踏むという尿意の曲のリリックばかり書いていたわたしは、当然キラキラしたアイドルソングの歌詞など書いたことがなかった。

サビのメロディに「アイスクリームポップアップトゥギャザー」という言葉が入ることは志賀さんのデモの時点で決まっていた。それに付随して、歌詞のイメージとしてすいちゃんこと貫地谷翠れんさんが書いたメモがベースにあった。そこには「パーティ」という単語があった。そうかこれはパーティの歌なのか。パーティね。なるほど。

そもそもの話をすると、ぜわすというのは根暗で友達が多くない人たちの集まりだ。グループの中心人物である志賀ラミーさんはことあるごとに「親が暗いんでね」と言う人だったし、ある時
「なんでライブに全然知り合い呼んでくれないんですか」
とわたしが軽く抗議した際、志賀さんが放った言葉は
「友達は全員メンバーにしちゃったから……」
だった。
言い訳でもなんでもない、切ない事実だけがそこにはあった。

それに比べたら自分は友達は多いほうではあったけれど、比較対象が比較対象なだけで特にコミュニケーションに長けていたわけでもなく、別に普通に暗かった。書いていたブログのタイトルは「酸欠リフレイン」だったし、大学在学中は通学路でSyrup16gの「神のカルマ」だけを永遠にリピートして虚無感に浸る、そういう人間だった。
そんな自分が齢27にしてこのどちゃくそにポップな曲に彩りを与えねばならない。そもそもパーティって何?概念?

困った時は韻だ。韻先行で考える。というわけで「アイスクリーム」の「ai」の音を含んで、曲のイメージに近そうなワードを決める。ここでサビの「甘い期待」「痛いくらい」「パーティナイ(ト)」などのワードが出てきた。そこにアイスっぽい「溶ける」とか「キンキン」とかを足した。それからすいちゃんのメモに「孤独な家から抜け出して行くパーティ」みたいなイメージがあったので、サビの最後のメロディ部分に「さあ出かけよう」とか「連れ出してよ」という七文字をはめた。
あと個人的に「彼女にしてもらえない」みたいな恋愛ばかりしていたその頃の自分の体験も交えた。暗い。歌詞というのはやりきれない思いやコンプレックスを曲に乗せることでそれらが昇華されるという素晴らしい側面がある(個人の見解です)。

というわけでサビとAメロができた。すいちゃんと志賀さんに見せたら「いいじゃん」と言ってもらえたので安心した。続くラップパートは先のすいちゃんのメモ書きをベースに志賀さんが整えた。

そのバースの一行目が
「飾り付けた部屋 誰も来なくても 泣いたりしないそれが現実」
である。
いま改めて打ってみてびっくりした。暗い。笑えるほどに悲しみがすごい。
しかもすでにそれを受け入れる境地に達している。

かくして非アイドルのアラサー男女の思念というか悲哀というかがふんだんに詰め込まれた歌詞ができた。

またアイドルソングなのでダンスも必要ということで、自分がカラオケ芸用に振りコピしていたPerfumeやHALCALIの振りを要所要所でパクりつつつぎはぎのようにして振りを作った。

歌はすいちゃんとわたし。「名前だけでも覚えて帰ってください(通称なまおぼ)」という名の、ぜわす内アイドルユニットができた。すいちゃんが大好きなPerfumeのあ〜ちゃんが初期によく言っていたMCがネーミングの由来である。

「なまおぼ」には当然ファンなどいないので、ライブではアイドルオタクのアルバ伊藤さん主導のもと、男性メンバー三人がフロアに降りて最前でオタク役をやってもらうことになった。
個人的に絶対にやってほしかったのは合いの手。すいちゃんがサビ前「だからお願い」という時に「翠(すい)のお願い聞いたげる」と入れてもらった。これはアイドルの小明(あかり)さんのライブを見に行った時、ある曲で「誰かこの娘を嫁にして」という秀逸な合いの手が入ったのに衝撃を受けた体験が元になっている。

今ではありがたいことにお客さんがフロアで一瞬にして「なまおぼのオタク」役に徹してくれる現場になりつつあり、「ファンがいないのでメンバーにやってもらう」必要がなくなった。2018年、渋谷のクラブクアトロで「翠のお願い聞いたげる」が会場中に響き渡ったときはさすがに「嘘だろ」と思った。

(ガチ恋口上まであるの、すごくない?)


話を戻そう。そんなこんなで原型が出来てから2年後、園田さんのミックスによってキラキラ感がこれでもかというくらい散りばめられた「アイスクリームポップアップトゥギャザー」が完成した。

その年の夏に撮影をして、翌年、苺りなはむさんに出演してもらったMVが公開された。そのときのエピソードはまた改めて。

ここで聞けます。


ちなみに歌が下手すぎた我々はRECの際、園田さんに「どの程度いじる?」と聞かれて「最大限上手くしてください」と伝えた。曲自体は間違いなく良いので、いつか本物の可愛いアイドルに歌ってもらってこの曲の魅力が伝えられるといいね、とよく話していた。

そこから数年、アルバ伊藤さんの推しであるところのバンドじゃないもん!恋汐りんごさんがまさかのコラボでこの曲を歌ってくれることになるなんて、このときは夢にも思ってなかったよね。

つづく。

無料記事が多いですが、お気持ちは大歓迎です✨楽しいことに使わせていただきますね。