ききたい

馬場武蔵に〇〇について聞いてみた(2)

ドイツ在住、指揮者の馬場武蔵さんインタビュー第二弾。トロンボーンから指揮へ転向されてから、その後のお話です。(インタビュアー: わたなべゆきこ)。

アンサンブル・モデルン・アカデミー(IEMA)

(わたなべ)もともと、武蔵さんとはいアンサンブル・モデルン・アカデミー(IEMA)の奨学生繋がりで、知り合ったじゃないですか。私が在籍していたのが2016年から2017年で、かぶってはいないんだけど。

――(馬場)そうですよね。それこそ、先程話に出たマニュエル・ナウリ(Manuel Nawri)はIEMAの四期生だったと聞いています。その彼から、「現代音楽の指揮を学ぶならIEMAに行け」と、もう随分前から言われていて。

アンサンブル・モデルンは、フランクフルトを拠点とした現代音楽アンサンブル。IEMAは彼らが10年以上前からやっている教育プログラムで、フランクフルト音楽大学と提携して、修士課程という形で奨学金をもらいながら、一年間アンサンブル・モデルンのメンバーから直接学ぶことが出来る。

私もね、20代前半の頃から「いつかIEMAで学びたい」と思っていたんです。日本って実践の場がとにかく少ないじゃないですか。奏者が間近にいる一年間って、本当に夢のような時間でしたね。実践的に現代音楽を学べる、しかも素晴らしいレベルで、、、こういうのは、世界でもここだけなんじゃないか、と思います。

作曲のオーディションは、まず書類審査、そしてプレゼンテーションなんですけれど、指揮はどんなことやるんですか?想像がつかない。

――まずはビデオ審査ですね。

指揮者の場合は、ビデオ審査から。

――そうです。そこから数人だけ選ばれます。

ほう。そこで選ばれたら?

――実技試験です。内容は、事前に決まっている課題曲の15分リハーサル、そして前日に渡される課題の通しリハです。

リハーサルでは誰が演奏するんですか?

――本家アンサンブル・モデルンです。

わ!それ、凄い経験ですね。

――僕のときは、課題曲がシェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」の15番、16番、18番(歌なし)だったんですね。その3つをアンサンブル・モデルンのメンバー相手に、15分間で形にする、というのが課題でした。

はー‥‥指揮者の試験って、面白いですね。リハーサルでのマネージメント能力や、瞬時に音楽を作っていく力を見てるのかな。

――僕、オーディションの直前にジョルト・ナジ(Zsolt Nagy)のところにレッスンに行ったんですね、そしたら彼に言われたんです。「君の仕事は、まず誤解のない指揮をすること。そして『楽譜に書いてあって、かつ音にまだなっていないことは何か』を冷静に見極めること。その上でもし時間があったら、自分の意見を言えばいい」って。

とにかく楽譜に忠実に。

――はい、そこでやってみて驚いたんです。僕が思ったように音が出るんですよね。

え?どういう意味?

――動いた通りに、音が出るんです。指一本ちょっと動かしただけでも、そこに音がピタッと。もう初めての体験でした。何の説明もしないのに、動かした通りに、音がくっついてくるんです。

あとから、アンサンブル・モデルンのメンバーで、コントラバス奏者のポール(Paul Cannon)が「良い現代音楽アンサンブルっていうのは、指揮者に、まるでドラムを叩いているような気分にさせるものだ」って言っているのを聞いて。つまり指揮者のアクションがダイレクトに音にあらわれてくるのが、アンサンブル・モデルンなんです。

それは指揮者としては、気持ちが良いものなんですか?それとも怖い?

――いつも指揮をしていてフラストレーションが溜まるのは、反応がないことなんです。こちらが出している情報に音が全く呼応しない、素通りしてしまう。アンサンブル・モデルンを指揮したときは、そういうことがほぼない。やっていること、考えていることがそのまま音になるっていうのは、それまでに味わったことない感覚でしたね。だからこそ、もちろん怖い部分もありました。

それって、指揮者だけじゃなくて、作曲家に対しても同じでしょうね。楽譜に書いてあることが、そのまま鳴る。そうなると、うまく書けていないこともばれてしまう。作曲家側は、その怖さも請け負わなければならない、当然ですけれど。とにかく、全ての方向において、透明度が高い職人集団なんですよね。

馬場武蔵に〇〇について聞いてみた(3)は2019年10月15日に更新予定です。お楽しみに。

番外編:

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