見出し画像

そして今演奏される作品の作曲家男女比はどうなっている?

女性作曲家会議(Japanese Women Composers Meeting)では、これまでシンポジウムやリサーチを通して、女性作曲家と社会の関係性について独自の調査を行ってきました。2021年末に発行し、現在発売中の「ザ・ダイアローグ:Arts & Women」は、それまでのリサーチやインタビューをまとめたものとなっており、昨年時点での女性作曲家をめぐる社会的状況の一部を垣間見ることができます。

外山道子という作曲家のことを知ったのは、jwcmという形で活動をはじめてしばらく過ぎたときでした。渡辺愛さんがMessengerのチャットで教えてくれたのです。絶版になって久しい『女性作曲家列伝』(小林緑・編著)を藝大の図書館で借りて読んでみたら、こんな女性の電子音楽作曲家が存在していたことが分かった、と。そして、どうして彼女のことを今まで知らなかったのだろう、と。愛さんがそう思うのも不思議はなくて、確かに外山道子はびっくりするほどに輝かしい経歴の持ち主でした。国際現代音楽祭(現「ISCM世界音楽の日々」)に入賞を果たした日本初の作曲家であり、17歳で渡仏してからミヨーやメシアンに師事していて、ついにはコロンビア大学で電子音楽を学んだり。唯一アクセスできる彼女の電子音楽作品《Waka》のサウンドもとても興味深い。なぜ、彼女のことを、知らないままでいられたのだろう?

「ザ・ダイアローグ:Arts & Women、エピローグより」

そして今どうなっているのか?

出版から半年後、様々な方の手に渡り(ご購入いただいた皆様、ありがとうございました!)少しずつ広がりを見せていますが、残念ながら実際的な変化を感じられずにいます。少なくとも、音楽業界以外の「#MeToo運動」はある程度の認知度があるのに対し、音楽業界では声が届いていない現状があります。それもそのはず、わたしたち弱小作曲家に出来ることは限られているのです。声をあげることにもリスクがあり、状況を変えていくには体力も必要です。リサーチを通して具体的な問題点は明らかになったにも関わらず、手ごたえがないことに絶望を感じます。これを実際に変えていくには、より広く、みなさまからの協力が必要です。今日は活動を通して実際に変わっていった例として、二つの事例をご紹介します。ぜひ、一緒に社会を変えていきましょう。

日本の外での「音楽業界男女比の今」ードイツー

今回の冊子では、ドイツのDeutscher Musikratを参考に似たような項目について調査を行ったわけですが、同じくドイツで先に行われていた「GRID: Gender Research in Darmstadt」もメンバー間では頻繁に話題になっていました。こちらは、ドイツのダルムシュタット夏季現代音楽講習会で2016年に女性作曲家のAshley Fureを中心に行われたジェンダー関連のプロジェクトですが、その後ダルムシュタットでは、参加者の男女比が50/50に調整されるようになったほか、女性作曲家の作品が目に見えて多く取り上げられるようになっています。

日本の外での「音楽業界男女比の今」ーアメリカー

アメリカの状況はどうでしょうか。2022年6月のニューヨークタイムズの記事です。

アメリカのオーケストラでは、これまで女性や有色人種の作曲家による作品を演奏される機会が少なく、白人や男性の作曲家による音楽が主流となっていました。しかし、アメリカにおける人種的公正と男女格差に関する抗議運動が、いくつかの変化を促したようです。

ニューヨーク州立大学フレドニア校のコンポーザー・ダイバーシティー研究所(Institute for Composer Diversity)が発表した報告書によると、オーケストラが演奏する曲のうち、女性と有色人種による作曲作品は、2015年のわずか約5%から現在は約23%を占めています。この増加には、#MeToo運動とアフリカ系アメリカ人の黒人男性ジョージ・フロイドの死が起因しています。

「U.S. Orchestras Playing More Works by Women and Minorities, Report Says」より一部引用(意訳含む)

わずか数パーセントだった非白人男性作曲家の作品が、数年で23%まで増加したことに、これまでにないスピード感を感じます。冊子でも同様に日本のオーケストラによって演奏される曲目の男女比について、以下のように調査を行っています。以下は2020年時の状況です。

公益財団法人のオーケストラに限定し調査を行ったところ、女性役員の割合が僅か6%という結果になりました。また日本最高峰のオーケストラの一つであるNHK交響楽団における2020年の公演データを検証したところ、女性作曲家の作品が一曲も含まれていませんでした。

「ザ・ダイアローグ:Arts & Womenより一部引用」

2020年の全公演を合わせても一曲も女性の作品が演奏されなかったことは(薄々気づいていたとは言え)数の上で衝撃でした。欧米では、#Metooはじめ、あらゆる差別が問題化しており、オーケストラでもその問題に対して向き合おうとする中、世界へ日本から発信する文化の一つとして「オーケストラ」はそれにどう答えていくのでしょうか。伝統という箱に入ったまま、現代社会との繋がりをどう見出すのでしょうか。

ちなみに現在2022年6月時点で、NHK交響楽団で2022年1月~これまで演奏された作品の中に、女性作曲家の作品は一つもプログラムに入っていませんでした。唯一7月のMusic Tomorrowで、岸野末利加さんの作品が入っていますが、それ以降12月までの公演に女性作曲家の作品は見当たりませんでした。


若手作曲家のプラットフォームになるような場の提供を目指しています。一緒にシーンを盛り上げていきましょう。活動を応援したい方、ぜひサポートお願いします!