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キャビキュリフェス2021一日目からClara Iannottaの「D'après」

ZEIT TON、ベアート・フラーとクララ・イアノッタの作品放送

上記リンクは、オーストリアの現代音楽に特化したラジオ番組Zeit tonの放送です。日本でいうラジオ放送「現代の音楽」みたいな位置でしょうか。これを毎回聞いていると、同じドイツ語圏でもドイツとオーストリアでは音楽シーンの色に大きな違いがあるんだなと感じさせられます。12月7日に放送されたZeit Tonでは、12月27日キャビキュリ公演(ドイツ文化会館1階ホール)でも取り上げるベアート・フラー(Beat Furrer)、クララ・イアノッタ(Clara Iannotta)両氏のウィーン・モデルンでの作品演奏が放送されています。ドイツ語ですが、リンク先途中から音源が聞けます。クララとベアート作品のみで一時間ほどの放送になっています。放送中盤で聞けるベアート・フラーの生声も必聴で、彼が話す言葉も声は彼の音楽と繋がっていると感じます。

クララ・イアノッタの活動

ウィーン・モデルンはわたしが滞在中かかさず通っていた音楽祭です。ウィーンの主要な音楽ホール以外にも、街はずれの河川敷裏のクラブハウスや小さなギャラリーなどでも演奏が行われ、音源の多くはラジオでも放送されるという、街をあげての大規模な催しです。ちなみにオーストリアの地方都市グラーツでも毎年秋に現代アート+音楽のフェスティバルがあり、欧州の第一線で活躍するアンサンブルや作曲家が集います。地方にもこの規模の音楽祭があることが、欧州アート界の充実度を語っています。

話を戻して、Beat Furrerといえば、オーストリアのクラングフォールム・ウィーンの創設メンバーとして(当初は指揮者としても)有名ですが、同世代のイタリア人女性作曲家であるクララ・イアノッタもブルデンツ現代音楽祭のディレクターを始め、近年は音楽祭の芸術監督としてキュレーションやアカデミーでの教育的活動なども手掛け、幅広い活動を行っています。同世代として、作品も含め活動そのものを尊敬している作曲家のうちの一人です。

ここでクララの簡単なプロフィールを簡単にご紹介します。

クララ・イアノッター1983年ローマに生まれ。フルート奏者を目指していたがその後作曲に専念するようになる。アレッサンドロ・ソルビアーティ(Alessandro Solbiati)のもとで作曲を学び、その後マーク・アンドレ(Mark André)、フランク・ベドロシアン(Franck Bedrossian)、ハヤ・チェルノヴィン(Chaya Czernowin)、スティーブン・タカスギ(Steven Takasugi)から重要な影響を受ける。パリのCNSM de Parisでフレデリック・デュリユーに5年間師事し、2013年1月からはベルリンに移りDAADのBerliner Künstlerprogrammに1年間滞在。2014年からハーバード大学の作曲博士課程に在籍し、2018年に修了。作曲家として精力的に活動する傍ら、フェスティバル「Bludenzer Tage zeitgemäßer Musik」(2014年~)の芸術監督などキュレーション活動も行っている。現在はベルリンを拠点に活動。

D'aprèsとラッヘンマンからクララへの音響嗜好の移行

今回演奏されるD'aprèsは2012年に書かれたもので、クララとしては古いほうの作品です(2021年現在から考えると約十年前の作品ですね、彼女が30歳の頃の作品です)。この作品を書いた翌年2013年にDAADのプログラムでベルリンに滞在、その後はアメリカ、ハーバード大学に留学することになるのですが、ハーバード大学在学中に更に作風が変わっていったクララの作風移行を考えると初期のクララ・イアノッタの音楽だと思って頂いて良いと思います。特殊奏法が緻密に計算された上でオーケストレーションされ、細かく設計された音響から既に彼女の嗜好が垣間見れますが、現在は音響・空間を更にミクロで捉え、まるで音響を顕微鏡で見ているような極細の音楽を書くようになっており、その耳の良さと集中力・音響への執拗なまでのこだわりは圧巻の域に達しています。

D'apresの公式プログラムノートは、時間があったら訳を載せることにしてここからは、クララ・イアノッタの周辺で起こった主に2000年以降の音響系の変化について少し書いていこうと思います(わたしが実際感じてきた主観的感想です)。

今現在シーンで活動する(2021年現在)アラフォーの同世代作曲家の多くはドイツ人作曲家、ヘルムート・ラッヘンマンの影響を少なからず受けているとわたしは考えています。世代としてはラッヘンマンから大学などで直接指導を受けた年代ではなく、ラッヘンマン弟子の下となるでしょうか。彼の技法が欧州全体に広まり、熟成・変化し、自身の語法と融合させた作曲家たちのもとで同世代の多くは作曲を学びました。そういった世界の中で音楽をとらえてきました(あ、主観です。そうでない世界線ももちろんあります)。そして、およそ1960年代から2000年頃まで、およそ二世代かけて行われてきた、この時間的推移が何をもたらしているかというと、それは特殊音響が一般化したということです。同時期に世界各地でソリスト集団であるアンサンブルが乱立し、それに加えて現代音楽を学ぶことができるアカデミーが増えていったことにも関連していると思います。

作曲家本人から奏法を学んだ演奏家が、講習会や学校附属のアカデミーで若い演奏家にそれを伝えていく新たな伝統的構造が出来始めてからは、弦楽器の弓の圧力の度合いや遅さ、あらゆる楽器の重音、楽器以外のものを扱うことやメディアを用いた音楽、音楽の演劇的な要素など、あらゆる観点においてハードルが下がった印象です。昔音響系と呼ばれた音楽も、全く特殊な音響として聞こえなくなり全てが一般化しました。そういった「特殊」がない状況で、どう「差異」を作っていくか、これがわたしたち世代の課題であったように思います。

クララ・イアノッタはそういった意味で、わたしは最上級に「差異」を作り出した作曲家であると感じています。「特殊」が「特殊」である限り、そのものの名前は「特殊」でしかない、もしくは「ラッヘンマン的である」とラベルを貼られてしまうだけです。いかに同世代が「〇〇的である」から逃れようともがいてきたか、わたしは感覚的にそれを知っています。誰かに既に貼られたラベルでお金を稼ぐことより、それを一般化し、パーツとして新たな創造物を作り出すことにかけてきた、それが今のアラフォー世代のやってきたことではないかと思っています。その第一線で踏ん張っているのがクララ・イアノッタです。彼女の活動がマルチであることも、それを証明していると思います。

長くなってしまいましたが、クララ・イアノッタのこの規模の作品が日本で演奏できること、演奏を可能にする演奏家がいること、サポートしてくれるスタッフがいること、有難く思います。ぜひ、12月27日はドイツ文化会館で〈特殊〉でないクララ・イアノッタの音響空間をお楽しみください。

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