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あなたのやりたいことはなんですか【黒田崇宏】

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「ちょっと聞いてみたい音楽のはなし」に続くインタビューシリーズ。「あなたのやりたいことはなんですか」をスタートします。シリーズに入る前に少しだけ経緯を。

コロナ禍で従来当たり前にやっていたことが出来なくなりました。それでもやりたいことをやるために、「できる範囲でできることを」やってきた方も多いと思います。少しでもポジティブに。かく言う私も、オンラインを利用して創作の場を作ってきたわけなんです。でも、ふと思った。「あれ?本当にやりたかったことはなんだったの?」って。「できる範囲」なんて取っ払って、本来は「本当にやりたいこと」が実現できるような、そういう環境を少しずつ作っていかなきゃいけないんじゃないか、それって実は今やるべきなんじゃないか。このシリーズでは、私が個人的にお話を聞きたいと思った若手作曲家に彼らの「やりたいこと」を聞いていきます。「できる」「できない」に関わらず、実はやりたいことがあるはず。あまりに夢見心地で口に出すのも憚られるような、でもやりたいこと。それをそのままお聞きするシリーズです。彼らと一緒に夢を見たいと思います。そして、少しでも実現に近づけるようにお手伝いできたら。みなさまご一緒にお付き合いください。

できない・けど・やる

わたなべ:これ、実はずっとやりたかったシリーズなんですね。音楽創作上の「アンビルト・プロポーザル」って興味があって。不可能性の中に可能性があると思うんです。今ってまず「制限」があってからの「創造」ですよね。例えば今のコロナ禍の状況もそうだし、オーケストラ作品を書く時にも「これは出来ない」って最初に突き付けられる。そうなると、「その中でできること」から「やりたいこと」を導き出すことになるけれども、本来は逆だと思うんです。

黒田:確かにオーケストラだとそうなりがちですよね。

わたなべ:でも突拍子なくても不可能でも、「実はやりたい」っていうことが誰しもあるじゃないですか。制限がいつかデフォルトになってしまう前に、若い世代の作曲家にそこをお聞きしたくて。それで、これまで黒田さんの作品を幾つか聞かせて頂いて、もしかしたらこの「制限」とか「構造」という部分に興味をお持ちなんじゃないかって思ったんです。例えば、このオーケストラの作品なんて、なかなか実現は難しいと思うんだけれども、面白い。やりたいことを書かれている。

黒田:この作品では、まずステージ上に弦楽オーケストラがあるんですけれど、観客は曲が始まったアイマスクをするんです。初演時には問題があって出来なかったんですけれども。

わたなべ:まさに「アンビルドプロポーザル」ですね。

黒田:初演当日は、諸事情でアイマスクが使えなかったので、単に目を閉じて頂くだけになってしまったんです。目を閉じた状態で何が起こっているかというと、会場全体に手が空いている管楽器・打楽器奏者が散らばって「本を読んだり」とか「シャボン玉を飛ばしたり」「チェスをしたり」「ご飯を食べたり」するんです。でもそれは観客にはわからない。

わたなべ:目を閉じているから。

黒田:そうなんです。ずっとわからないまま。その様子を奏者は写真に撮って、ハッシュタグをつけてSNS上にアップする。でもこれも、会場の規定上写真を撮ってはいけないことになっていて、実現できませんでした。

わたなべ:え!面白そうなアイディアなのに、残念です。要はその場にいる観客は知らないけれども、SNSを通して後から「何が起こっていたのか知る」っていうことですよね。規制があったとしても、何とかこういったことが実現できれば良いのになぁ。

黒田:この作品自体「コンサートホールに対するアンチ」がベースにあったんです。「制度」に対する疑問っていうのは、ずっと抱えているかもしれません。

フルクサスからの影響

わたなべ:そういうものは、いつ頃どういったところから芽生えたんですか?何かきっかけがあった?

黒田:2012年から近藤譲先生にご指導頂くようになってからアメリカ実験音楽に興味はあったんですけれども、直接的なきっかけは、2014年に東京都現代美術館でフルクサスの企画展だったと思います。

フルクサスのメンバーがパフォーマンスをするっていうのを毎日見に行ったんですけれども、強烈に覚えていますね。

わたなべ:なるほど。フルクサスが時代を超えて、黒田さん世代に影響を及ぼしていると思うと面白いです。

黒田:そういった意味で個人的な創作より「制度」や「体制」に興味が傾いているところもあります。

中規模編成を書くチャンス

わたなべ:自分の創作以外でどんなことに興味があるんですか?

黒田:最近は「自分の創作」より「創作現場の現状」について考えることが多いです。例えば日本では、若手が中規模編成の作品を書くチャンスが少ないじゃないですか。それが一つ問題だな、と。

わたなべ:中規模って、室内楽とか?

黒田:例えば室内オーケストラとか、大きめのアンサンブル作品ですね。例えば、小規模なアンサンブルや逆にオーケストラはあるんだけれども、その中間の編成の作品を書く機会がないんです。

わたなべ:現在黒田さんは、オーストリアのグラーツで活動されていますけれど、欧州のほうがチャンスが多いと感じられますか?

黒田:そうですね。数で比べると圧倒的に欧州のほうが多いです。日本でも中規模編成のアンサンブルがありますけれども、若手にその委嘱が降りてくることって滅多にないじゃないですか。

わたなべ:オーケストラなどの大規模な新作公演は定期的に行われているし、カルテットくらいまでの自主企画も多いですよね。でも、その中間の編成が欠如している。欧州で見ると、アンサンブル・モデルンやアンテルコンテンポランが結成されたのが1970年、1980年代ですよね。結成されてから40年~50年経って非常に定着している。それに比べると日本でその規模のアンサンブルでかつ新作をバンバン演奏している団体ってほぼないですよね。

黒田:なかなか新作委嘱となると難しいんでしょうね。欧州の売れている作品を日本初演するだとか既存作品の再演が多い。たまに新曲委嘱をしている時もあるけれども、それもここ最近数が減っている印象です。

わたなべ:確かに委嘱の数自体少ないし、その委嘱が更に下の世代まで流れてくるっていうことはなさそうですね。

黒田:たまに公募があるんですけれども、本当に希少です。

わたなべ:私が日本で学生をしていた10数年前に比べても、中規模編成の作品公募って減っている気がします。どうしたらいいんだろう。

黒田:一番手っ取り早いのは、自分でアンサンブル作っちゃうっていうことですよね。僕は、そういうことも考えてクラングフォルム・ウィーンが教えているグラーツ音楽大学に留学することにしたんです。現代音楽シーンの第一線で教えているメンバーが講師なんです。日本にはないコースですが、グラーツ音大には「現代音楽演奏科(PPCM)」があります。それでクラングフォルムのメンバーがどんなことを教えているのか、そういうことを学びたいと思っています。ただ残念なことに、今一年目が終わったところなのですが、途中からコロナ禍に入ってしまったので実際はまだ少ししか学べていないんですけれども。

わたなべ:アンサンブルを作るだけでなくて、音楽大学の中で「現代音楽」を教えられる機関があれば、全体としても変わっていきそうですね。実際、今は欧米で現代音楽を学んで帰国された優秀な演奏家が大勢いるし、それって実現可能なはずですよね。

黒田:そうですね。あともし、自分でアンサンブルを立ち上げることが出来たら、今現在海外で演奏されているような作品を演奏して紹介したりっていうのもしていきたいです。例えば、ダルムシュタットやドナウエッシンゲン音楽祭で演奏されているような作品って、まだ日本では紹介されていないと思うんです。なるべく余計なフィルターを通さず、ダイレクトに同時代の音楽を伝えていけたら。

黒田 崇宏 (Takahiro Kuroda)

1989年5月2日生まれ。神奈川県出身。東京藝術大学で作曲を学び、これまでに作曲を井元透馬、故・松下功、福士則夫、近藤譲、鈴木純明の各氏に師事。第29回現音作曲新人賞(2012年)、第37回入野賞(2016年)等を受賞。
現在、グラーツ国立音楽大学修士課程に在籍し、クラウス・ラングに師事。
2019年にMusic From Japan Festival 2019の委嘱作曲家の一人としてニューヨークに招待される。作品はモメンタ弦楽四重奏団、アンサンブル室町、東京シンフォニエッタ、藝大フィルハーモニア等、優れた演奏家や団体に演奏されている。


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