ききたい

村上淳一郎に〇〇について聞いてみた(1)

ちょっと聞いてみたい音楽の話、11回目は、ヴィオラ奏者の村上淳一郎さんをお迎えします。ケルンWDR交響楽団の首席奏者として活躍されている村上さん。普段聞けないオーケストラと現代音楽の関係について、お話を伺いました(インタビュアー: わたなべゆきこ)。

オーケストラと現代音楽

(わたなべ)このインタビューシリーズはこれまで、作曲家や同時代の音楽シーンに関わりのある演奏家の話を聞いてきましたが、オーケストラで演奏する音楽家と話すのは初めてなんです。作曲家として指揮者と交流することはあっても、オーケストラの中の演奏家の声をじっくり聞く機会がないんですね、弾くのは演奏家なのに、なぜか交流する時間がない。そこがいつもジレンマなんです。村上さんは、オーケストラで演奏されていて、沢山の初演に関わって来ていると思うんですが、その中で感じていることなどをお聞きしたいと思います。

――(村上)まず作曲家には、「自由に信じるものをどんどん書いて欲しい」という思いがあります。

村上さんが普段演奏されているケルンWDR交響楽団では、数多くの新しい音楽を演奏されていますよね。

――はい。ただ、その中で僕らが「これは本当に面白い」と思えるものって、とっても限られていると思うんです。

なるほど。

――普段弾いているレパートリーって、謂わば数多ある音楽の中から淘汰されて残ったもの、ですよね。時代の波に揉まれながらも存在し得たもの。だから素晴らしいのは当たり前なんです。対して新しい音楽っていうのは、今生まれたものですよね。だから、そこでの質の違いがあって、当然のことだと思うんですよ。そして、僕ら演奏家も現代に生きている者として、この時代に生み出された音楽を弾く意義も、義務も、絶対にあるとは思うんです。

今生まれているものに対して、今ジャッジすることはできないですもんね。

――そうなんです。でも現実問題としてね、凄く正直なことを言うと現代音楽を演奏する週は、モチベーションが目に見えて低くなる感じがあるんです。僕個人というよりはオーケストラ全体として。古典を弾いている時に比べて、音楽に対するモチベーションがどこか低くなってしまう。

どうしてだと思いますか?

――まずね、楽譜をもらってから家で一生懸命準備するんです、本番の何週間も前から練習し始める。そしてオーケストラの現場に行ってから、更に何日間もそこに費やすわけなんです。そうやってね、やればやる程、その曲が訴えていることが伝わってくる、楽譜から。そこから考えるのは「この作曲家は、何のために楽譜を書いているか」ということなんです。「本当にこの音が欲しいから書いているのかな?」って思ってしまうことが多い。

あぁ。例えば「楽譜のビジュアルとして欲しい」ということ?

――そういうところもあるかもしれない。それでね、そういうものと出会うと「何のために、この人は音楽をやっているんだろう」って思ってしまうわけなんです。

なるほど。そういう経験が積み重なって、段々とモチベーションが下がる。

――それでね、逆にゆきこさんに聞きたいんだけど、今を生きる作曲家たちはどんなことを考えているんですか?

私自身は今まで二作オーケストラを書いているんですけれど、特に一作目はとてもパーソナルな作品なんですね。作曲当初妊娠していて、とにかく家にいる時間が長くて「そうだ、この妊娠期間にオーケストラに挑戦してみよう」と思って、一気に書き上げたんです。だから書いている当初は初演の予定もなかった。ただ、通常若い作曲家がオーケストラを書くときにって、学校の課題として、もしくは卒業作品として、またはコンペティションを狙って書く場合が、少なくない。だって若くて経験がない無名な作曲家に、オーケストラの委嘱が来るっていうことは、ほぼあり得ないわけで。そうなってくると学校での評価を気にしなければいけなかったり、コンペで勝てる譜面じゃないといけないんじゃないかって思ってしまう場合もあるんじゃないかな、と思うんです。

――演奏機会を得るために、勝たなければいけない。

選ばれなければ、音にならない。音にならないと、その先に進むことができない。例えばそこで演奏されて、その先に委嘱があるとして、でも「勝たなければいけない」思考性っていうのは、多少なりとも残ってしまうんじゃないかと思うんです。

――譜面として美しい楽譜を書かなければならない、という刷り込みがあると。

少なからず、そういう面もあるような気がします。

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