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山と向き合う彫刻としての漆器| #うつたび 山中漆器編

山中漆器って木と向き合う芸術なんだ。山から掘り起こす彫刻なんだ。そう思った山中漆器ツアーでした。

九谷焼をめぐる旅の最後に、同じく石川県加賀の伝統工芸「山中漆器」の世界をのぞいてきました。

職人技を垣間見る体験型ツアー『CRAFTOUR』

訪れたのは山中漆器の工房を見学できる体験型ツアー『CRAFTTOUR(クラフトツアー)』さん。ウェブサイトの写真や動画がめちゃくちゃかっこいいのでまずサイトを見てほしい…!私があれこれ言わずとも魅力が伝わると思います。

案内人の篠崎健治さんに「受付こちらで〜」とご案内いただいた店舗がおしゃれ。すてきな山中漆器の工芸品もこちらでお取り扱いされています。

古道具を什器として使われてるのもかっこいいですね。

山中漆器ができるまで

そんな店舗の中でもひときわ目を引くのがこのオブジェ。
「これなんですか?」とお伺いすると、下の方は漆を塗る前の木のお椀を重ねてタワーにしたもので、木地を乾燥させる輪積みの形状になっています。一番上に飾ってあるものは〈漆器ができるまで〉の製造工程を順におったディスプレイなんだそうです。

木取り、粗挽き、布着せ、地つけ、中漆、上塗仕上の順に丸太が少しずつお椀の形になり、補強され仕上げまで進みます。

写真右上の丸太状のところからスタートして時計回りに一周して漆器のお椀の出来上がり!途中何度も乾燥させるので一つのお椀が出来上がるまで思ったより時間がかかります。乾燥の工程だけで一ヶ月、二ヶ月と必要になったりもするそうで。漆器は想像以上に”待つ”時間が長いなと感じました。

山中漆器は吹き漆の文化なので木目の見えるあっさりとした仕上げ。それでも何度か塗り重ねるそうですが、同じく加賀の工芸である輪島塗りなどは漆黒や朱赤が美しい艶々の仕上げですが、そうした場合は上塗りの工程をさらに何度も何度も繰り返し、より豪華に仕上げるためには蒔絵や螺鈿を施すなど加飾の工程は続きます。

木地師さんの技を間近で

さて、お店を堪能したら早速ツアーの開始です!篠崎健治さんにご案内いただいて木地師さんの工房を訪問しました。

まず工房が風情ありすぎる古民家でワクワクします。若い女性木地師さんにお会いできたのですが、とっても気さくな方で!『CRAFTOUR』の篠崎さんもフランクに話せる優しい方なので終始和やかなムードで見学させていただきました。

やきものと木工の”難しさ”の違い

ろくろ挽きを実際に拝見して感じるのは「失敗が許されない」ということ。なんでもそうですが、特に木は削ってしまったら元に戻せない。陶磁器は粘土をこねて成形するので最悪足したり引いたりできますし、絵付けも焼く前乾く前に修正することもできないわけではない。けれど木は少しでも削りすぎたなと思ったら後から足したり引いたりできない。一発勝負です。

とても繊細に削り出していきます。その様子何度見ても見飽きないんですよね。

山と向き合う産地、山中漆器

山中漆器は、かつて越前から木地師集団が移り住んだところから端を発しています。周辺の山から取れる木材が上質で豊富だったところから発展しており、そのため他の産地に比べて木地師さんが多く技術的にも発展してきた歴史だそうです。漆器といってもベースとなる木を削って成形する木と向き合うことに長けた産地なのですね。

産地をめぐる #うつたび をしていると常々思うのがその土地土地のポテンシャルと工芸品というのが紐づいているということ。山中温泉の温泉街の景色を見れば一瞬で理解できるように、この渓谷の豊かな山林があってこその山中漆器なのでしょう。もちろん今では伐採が進んだことや新しい素材の開発などもあり必ずしも土地の素材でというものばかりではないと思いますが、技術や美の発展の背景を知るのにその場を訪れることの納得感といったらありません。

プリミティブで美しい加飾挽き

さて、そんな山と向き合う山中漆器らしさがあふれている加飾技術が「加飾挽き」。漆や蒔絵で美を表現するのではなく、木そのものを削り出すことで紋様をつけていくんです。

こんなふうに模様の種類もたくさん。木地師さんに「どれが一番難しいと思いますか?」なんてクイズを聞かれて(笑)みんなで「どれかな〜」「これじゃない?」なんてワイワイ。実際に加飾挽きも目の前でやってみせてくださったんですが、削り飛ぶ木片と道具のぶつかる音がすごくてちょっとドキドキです。ろくろ挽きは繊細だけどどこか思い切りや大胆さも必要なのかな。。。なんて思いました。

木目を生かす拭き漆

「ろくろ挽き」、「加飾挽き」の技を目の前で拝見した後は「拭き漆」も見せていただきました。

「拭き漆」というその名の通り、生漆(きうるし)とよばれる透けた漆を塗ったそばから拭きあげる。塗ってはすぐ吹き上げる。ゴシゴシゴシゴシ。

え?そんなに!?ってびっくりするほどガシガシ拭きます。そして完成。行程自体は一見とてもシンプルです。

ぱっと見簡単なように見える拭き漆。でも実は目に見えない難しさがあるそうで。木地師さんが「漆の声を聞く」のが大事と。漆は湿度管理が絶妙に難しいそうなんです。触りすぎてもダメ、構いすぎてもダメ。

こればっかりは経験値でしょうか。きっと天気やそのうつわの木の状態など絶妙な塩梅を見ながら調整するんでしょうね。こういう言語化しにくい部分に職人さんの凄みありそうですよね。

我戸幹男商店ギャラリー

最後おまけで我戸幹男商店さんへ。

閉店間際でバタバタしててゆっくり見れなかったんですが、すごくおしゃれなギャラリーで山中温泉に行ったらぜひ足を運んで欲しいお店です。実物のサンプルを眺めながら選べるセミオーダー式のお椀とっても素敵でした!

というわけで弾丸でまわった見学コース、楽しかった〜。『CRAFTTOUR(クラフトツアー)』さん、楽しい山中漆器ツアーありがとうございました!自分がやってみる系のワークショップも良いのですが、職人さんと直にお話ししながら技を見学できるっていうのすごく面白いですよ。私は自分が作ることにはそこまで興味がなくて、うつわの歴史や文化に興味があるので作り手のお話を聞けるこういったツアーが色んな産地でもっと増えたらいいなあ。

📍旅のメモ

今回訪れたスポット
■『CRAFTTOUR(クラフトツアー)』
https://www.craftour.jp/

■我戸幹男商店
https://www.gatomikio-1.com/





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