萬葉集 立山と片貝川

立山が登場する最初の文献は『萬葉集』であり
越中守として赴任した大伴家持が神山として讃仰している。
この立山にとりあわせ片貝川を歌い、立山と片貝川はセットとなっている。

この片貝川が黒部川や常願寺川のように壮大な川であったなら、雄大な立山連峰に相応しかろうものを、何故
規模の小さな片貝川を対としたのか?に関しては
片貝川のほとりに立山神を祀る霊場があったためとされる。

これは、全く理由になっていない。
何故、片貝川に立山神を祀る霊場があったのか。
これこそ、謎ではないか。

立山と片貝川を密接に繋ぐ理由は、海にある。

片貝川の河口、魚津。
蜃気楼の見える場所として有名である。
蜃気楼の蜃は、蜃気楼を作り出すといわれる伝説の生物。

古代の中国と日本で伝承されており、竜の類とする説とその傍らに巨大なハマグリとする説がある。
蜃気楼の名は「蜃(みずち)」が「気」を吐いて楼閣を出現させると考えられたことに由来する。
霊獣の類とされることもある。
漢字の「蜃」は「おおはまぐり」とも「みずち」とも読み、源字「辰」には両方の用途がある。
そもそも「辰」は「2枚貝が殻から足を出している様子」を表し、おおはまぐり等を指したが、龍の意味にも転用されたことから、「蜃」に改めたものの両方の意味はそのまま残った。
司馬遷『史記』天官書の中に、蜃気楼の語源ともなる「蜃(瑞龍の類)の気(吐き出す息)によって楼(高い建物)が形づくられる」という記述がある。

立山連峰は、例えば氷見の雨晴海岸から見れば、海上に浮かぶ山である。
それは青龍が鎮座するかのように見えはしまいか。
この立山たる青龍が吐き出す水から、蜃気楼が生まれる。

この青龍が生み出すのは、蜃気楼だけではない。
翡翠。
何故、古代、糸魚川(沼河比売)の翡翠が重要視されたのか。
青緑色の翡翠は、神である立山の生み出す卵であった。

古事記における大国主の沼河比売への求婚歌
青山に 鵺は鳴き さ野つ鳥 雉は豊む
庭つ鳥 鶏は鳴く

この青山は立山と言われる。

青山には、伝説の鵺が住む。
雉は風や地震の兆しを知らせる。
鶏は夜明けを告げるだけでなく、掛け掛け鳴くことから卦占を表す。
青山は気象予報はじめ様々な情報を知らせる神山であった。
その情報をキャッチし、解読していた神に仕える一族がいた。

家持が越に赴任した頃には、歴史に埋没しかけていたその一族の物語を、家持は所持していた。
家持が越に赴任中に創作したのではない。
既に存在していた歌を、当てはめるように発表したに過ぎない。
消された一族の歴史を残すために。

萬葉集の萬は蠍の象形である。
蠍座は中国では青龍に見立てられた。
萬葉集は、蠍(青龍)の一族の物語である。





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