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「朝鮮大学校物語」をぴあのレビューっぽく書いたら_001

映画『かぞくのくに』や『ディア・ピョンヤン』などでメガホンを執った
ヤンヨンヒ監督が初めて書き下ろした小説「朝鮮大学校物語」。

昨日(6月20日)に、池袋・ジュンク堂で行われた
ヤンヨンヒ監督と「オシムの言葉」などで知られるノンフィクション作家・木村元彦さんのトークショーを聞きながら、

「南北首脳会談、米朝首脳会談があったタイムリーな時期だとしても
どうやったらこの小説を一般の人に自然に読んでもらえるだろうか」

と考えてしまった。

ヤンヨンヒ監督に別に宣伝を頼まれたわけでも、お願いされたわけでもないが。

実は小説の冒頭で、
主人公・ミヨンの愛読書が(当時まだ元気だった頃の)情報誌「ぴあ」だと出てくるので、
元ぴあの人間(演劇担当)として(笑)、
「今週見られる演劇」の体で、レビューを書いてみた。

ぴあの箱組レビューは154文字だったが、215文字になった。


テレビ朝日系『アメトーーク!』の「寮生活してた芸人」を彷彿とさせる過酷な寮生活に、北朝鮮の帰国事業、卒業後の進路を朝鮮総連に任せる組織委託など、著者の出自に関わるテーマが織り込まれた朝鮮大学校の4年間を綴る。演劇好きで学外に自由を求めるミヨンと、隣接する武蔵野美術大学の日本人学生・黒木裕の淡い恋愛小説とも読めるが、学校の成り立ちや思想から言っても極端に閉鎖的にならざるを得ない朝鮮大学校のシチュエーションプレイのようにも読める。



小説の中でミヨンはムサビの日本人大学生・黒木裕の家で、初めて結ばれる。セックスのあと、ふたりとも裸のままでうたたねをしながら、やがてミヨンの出自の話になる。

黒木は「朝鮮籍なので、韓国には行けない」と言ったミヨンに、在日にもさまざまな立場の人間がいることに混乱し、ミヨンを理解しようとしながら、優しくもあるが刃でもある「僕、ミヨンが在日だとか朝鮮人だとか、そういうこと気にしてないから」という言葉を言ってしまう。

ミヨンは傷つきながらも言う。

「私が在日だってこと、朝鮮人だってこと、気にしてほしいの!」



この部分を読んで、「ああ、私も気にしてほしかったんだ」と思った。

私は在日ではないし、国籍の問題もない。
ただの母子家庭育ちの非嫡出子だが、時々、付き合う男性とこの「気にしてほしい」話で小さく衝突する。

ちょっと前だが、彼氏というような間柄の男性に「プロ野球選手の●●は、母子家庭。その母子家庭情報」とメッセンジャーが来て、頭にきて噛み付いた。

私の大好きなプロ野球にアンタッチャブルな母子家庭問題を乗せて、軽々しく揶揄するような感じで言ってほしくなかった。

「あなたにはわからないかもしれないけど!」

「持たざる者への眼差しが優しくないよ。●ちゃんのそういうところが嫌いだよ!」

40歳を過ぎても、心の柔らかい問題に関しては、咄嗟に噛み付く。父親が出ていった9歳の頃の自分とちっとも変わっていない。


小説の主人公ミヨンに、著者であるヤンヨンヒ監督はどれだけ自分を投影させたのかはわからない。
でも、「父母が朝鮮総連」「兄弟が帰国事業で北朝鮮にいて、実質人質状態」「職業を組織に任せて、自由に決められない」「日本人と交際してはいけない」など
自分の存在を引き裂くレベルで家族や民族や出自の悩みが何層にも折り重なっているにもかかわらず
20歳そこらで彼氏に「私が在日だってこと、朝鮮人だってこと、気にしてほしいの!」と素直に言えたとしたら、
いったいどれだけ「難しい自分」と向き合ってきたのだろうか。

「朝鮮大学校物語」に出てくる差別、国籍問題、世襲での社会主義国家を唯一保つ北朝鮮という国の問題はもちろんだが、
それでなくても今の日本には柔らかくデリケートな問題は、たくさん横たわっている。

同じ日本に暮らす人の問題として、互いに気にし合えたら、と思うのだ。

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最後に、この小説を読んで、「朝鮮大学校の生徒って、平成も終わろうとしているのに、まだ職業が自由に選べないの? 嘘でしょ?」
思うかもしれない。

でも中国だって25年前はそうだったのだ。私が北京大学に語学研修をした年は、「国家が大学卒業生の進路を決める最後の年」だった。
「希望もしていないのにウルムチに行かされた……」などと、流刑に近い就職をした人もいた。

今の中国は社会主義の中に市場経済を組み入れたことで、そんな時代も笑い話だが、
北朝鮮は世襲による社会主義が続いているのだから、就職に関してはまだ25年前の中国と同じようなところがあるのも仕方ないのだ。

もしかしたら、米朝首脳会談の結果、北朝鮮に市場経済が導入され、朝大卒業生の進路を組織に委ねなくなる日も来るかも……しれない…が、それは誰にもわからない。

#朝鮮大学校物語 #ヤンヨンヒ #木村元彦 #米朝首脳会談

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